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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第十八話


同じ十三歳の、覚悟の違い。
管理人さんの娘の残した文書から、読み取れたものだった。本というより、ただ書き連ねた紙の束だった。
読み取ったものは、夢を決めた時期の違い。将来を決めるときがいつか来る、それは何年も先だと思っていた少年にとって、重たいものだった。
世界の形が、壊されてしまった。
最初の頃になされた結論だった。
十三歳の女の子が結論するようなことだろうか。ただ教えられたことを、それを覚えることすらままならない少年には、この資料を書いていた少女が、とても偉大な人物に思えた。
「オレ、難しくてわかんないっス」
友人は、早々に読むことを放棄した。
代わりに、猫と遊び始めていた。
少年は、まじめに調べるつもりはあるのかと言いかけて、飲み込んだ。
半ば強引に連れてきたのだ。巻き込まれたとはいえ、ここまで足を突っ込むつもりもなく、覚悟も生まれていないのだ。
では、自分は?
少年は、文字を追う目が、迷っていく。
「オレには、なんとなく分かる。『転校生』と話した時もそうだった、こっちの都合で、一方的に奪われたものがある………知ってしまったなら、友人になってしまったなら、何とかしたいって、思うのかもな」
言葉の続きは、自分も続こうか、自分にはできないの、二つ。
少年がそう思っていたからであったが、先輩の選択肢は、後者に思えた。
選択肢。
『転校生』と友人になった少年の選択肢。
傍観者だった、今は管理人となった老人の、かつての選択肢。
「管理人さんは『転校生』とは、会ったことがあるんですよね。前にアパートの話を、少ししてました。お友達………だったんですか?」
管理人の老人は、つまらなそうに、笑った。
「はっ、確かにお友達………だわな。クラスが同じってだけで、言葉としてはお友達だ。たまたま同じ道を歩く、となりに座っている、ただの知り合いとの境目って、いったいなんだ」
それはこちらのセリフだ。
教える側が、大人ではないのか。
少年は少し苛立ったが、大人は何でも知っていると思うのは、むしろ子供のわがままなのではないか。
何でも知っていることにするため、大人はただ、言うことを聞けと怒鳴るのか。
ふと、反抗した若者の宣言を思い出す。
『転校生』が語ったとされる、学校の四大話に出てくるセリフだ。
大人を疑えという趣旨だったが、自分たちでも考えろという意味にも聞こえてくる。
「オレは、どんどん向こうに行っちまう『アイツ』が、怖くなった。友人として、協力できることは協力するが、命まで張れる友人ってのは、何だろうな………ヤツは、『転校生』のために、ついにあっちに行っちまった。服を用意するとか、教師の気をそらせるとか、そんな協力だけで、十分だったろうに、バカが………」
五十年前は、学生だった。そして、安アパートの管理人の家の子供だった。
アパートが立つずっと昔に、ここが神殿だという話は、父親から聞いたという。
神聖な場所だと、もはや知る人もいなくなったと、少し寂しそうだったと。
偶然なのだろうが、運命としか、思えなかった。
「オレは、アパートの扉のことは、知らなかった。きっと後から出来たんだ。あるいは、つながるとわかって、つながったか………」
大人になり管理人を受け継ぐが、やがて生まれた娘はあちらに行ってしまう。
「運命の皮肉ってやつかもな………友人があっちに行ってしまうのを、ただ黙ってみていて、友人として出来ることは『第四資料室』の噂を守り、伝えることって、傍観者を決めていた俺の娘が、今度は新しい扉を見つけて、行っちまった」
二十年前の出来事であった。
資料の最後のページは、およそ二十年前。
そういえば、学校の四つの怪談の最後、帰ってきた転校生の時期と重なる。
同一人物らしいと、なぜか噂になっていた。
つまり………
「オレが知る、唯一あっち側の人間ってったら、『転校生』だからよ、助けを求めたよ。今更どの面下げてる。分かっていても、頼るしかない。鍵を受け継いだ俺が、初めて自分で、鍵をあけたんだよ。わざわざ、昔の話の続きってことにしてよ………」
『帰ってきた転校生』の、オリジナルであった。
学校に伝わる物語は、こうして全て、つながった。
だが、新たな謎が生まれていた。
結局、管理人の老人の娘は、戻ってこなかった。
『転校生』と友人になった『アイツ』の、その後である。
そして管理人の娘もまた、不明である。
行方不明が二十年前であれば、あちらで、何かをしているのだろうか。
答えを聞くべき人物は、一人しか思い当たらなかった。
少年たちはさっそく、学校に忍び込むことにした。休日であっても、何らかの委員会活動に参加している生徒は、訪れるものだ。学校という場所はなくならないのだから、管理するわずかな大人たちもいる。
そう、わずかなのだ。わざわざ、旧校舎など気にするものか。
少年たちは、白昼堂々と、旧校舎に侵入した。月が出ていない点が気がかりであったが、思えば『転校生』は、白昼堂々、堂々と、本当に噂になるほど堂々と、学校を歩いていたのだ。
五十年前に、そして、二十年前も。
学生が目撃した昼間であれば、では、今もまだ、鍵を持った少年がそこを訪れれば、現れるはずだ。
その期待は、当たっていた。
二階の廊下の突き当りに、青い扉は、しっかりとあった。
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