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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
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第十六話


「お前らも、地方から学校に集められたんだ。基本の歴史に、ちょっとした裏事情なんかも、頭に入ってんだろ」
うなずかねば、なるまい。
そう思って、少年たちは、うなずいた。
老人がどの歴史の区分の、どの部分を話しているのか、尋ねる勇気はなかった。
成績に、あまり自信のない三人組であった。
「ここらも、元々は巨大な帝国だったんだ。そんで、神官って言う、皇帝や貴族たちとは偉さが違うやつらがいた。人の側と、人以外の側って所だろうな」
人以外の側。
数日前までなら、この話しを聞いても、あくまで例え話だと思った。だが、ここ数日の怪奇現象に遭遇しては、その言葉のままだと、理解していた。
「そんで、神殿がいっぱいあった。絵くらい、見たことがあるだろ。でっかいはしらで、門みたいな、扉みたいな。それが神様が出てくる道だとか、逆に、封印してるんだとかよ」
うなずいた。
石造りの、巨大な門が祭られていると、記憶している。
詳しいわけではないが、少年たちは、理解できる話しでよかったと思った。
それはそうだ、学校で教えてもらう歴史の、裏側なのだ。何代目の皇帝の時代の、儀式がどうとか、戦争の始まった年代がどうとか、ここで話すわけはなかった。
「お前らの住んでるアパート、前は俺らも住んでたんだがな。そこは神殿の跡地だって、後で知ったよ。扉がつながったんだって、きっと偶然じゃねぇ。以来、何度か改装してるがな、基本は五十年前のままさ。ちっと、人の入りが悪くても、つながったんなら残さんとなぁ」
ため息をついていた。
ため息混じりに、せめて、これくらいはと言う言葉が、聞こえた。
約束なのだろうか。しかし、この暮らしぶりから、収入は赤字に違いない。
自分たちはしっかり賃料を払っているはずだが、八部屋のうち、四部屋が空いているのだ。
なお、一部屋は管理人室兼、物置であるために、元々貸し出されていない。
「お前らの学校、『第四資料室』だって、二階の隅の部屋だったろうが」
言われてみればと、少年たちは話し出す。
「確かに、ボクの部屋は二回です。突き当たりの………学校も、それじゃ」
「二の四号室だもんな」
「『第四資料室』も、確かに旧校舎の二階の突き当たり………でした」
不思議といえばそこまでであるし、向こうとつながるために、なぜか少し高い場所が必要だというのが、ルールらしいといえばそうなる。
そして、つながるために、わざわざ神殿が大きく作られたのなら、昔の神殿が全て巨大であった理由が分かる。
「神殿が取り壊されたのなんて、戦争が終わってしばらくだから、二百年以上も昔の話だ。そんで、いろんな資料もほとんど焼かれて………伝承も、どこまで本当か分からんのは、おまれらも『学校の四大話』の噂の真相に行き着いたんだ、わかるだろ」
常識として知っている、少年もまた、入学レベルの知識はある。この土地は元々広い帝国の一部であり、大昔の戦争で分裂、今の姿に落ち着いて、ついでに古い伝統その他は、忘れられたということだ。
その、忘れられたものの一つに、怪奇現象と、今の自分たちが呼ぶものがあったようだ。
「じゃぁ、大昔の人たちは、向こうとつながるために、わざわざ?」
「あるいは、『月の狂宴』みたいに、いきなりどっと現れないように、扉ってか、門って言うか、そういった敷居を作ったんだろうさ。お前らだって、勝手に人のトコ、入らんだろ」
獣はどうか分からないが、確かにその通りだ。
敷地があれば、入り口を探す。入り口が閉じていれば、は入ろうとはしない。
常識があるのなら。
しかし、『転校生』の話しもそうだが、あちらとこちら、元々自由に行き来できるようなものではなかったと思える。
あるいは………
「昔は扉なんてなくて、いくらでも行き来できたって事ですか。満月とかの力で。だから、鍵が作られて、どっちも鍵が必要になったって………」
考えが、まとまり始めた。
怪奇現象と呼ぶ色々は、今の常識ではありえないことが起こっているために、そう思うだけだ。恐怖の理由でもある、未知のものなのだから。
だが、そういったものがあると分かれば、知識となる。
そして、怪奇現象が常識となり、適度な付き合い方を学ぼうとするものだ。
少年は実際、怪奇現象との付き合いを、実践中である。
最初に扉をくくった場所にいた、フード付のマントの女の子と、適切な距離を構築しつつある。それは近所の子供との、友人関係の構築に近い。
『転校生』にしても、そうだ。
見た目はあちらが年上であり、帰宅時間を気にしてくれたり、こちらの疑問にも、思えば色々と答えてくれている。
これは、近所の学生の先輩との付き合いに等しいのではないか。
なら………
「神殿も、ここではない所と、ちょうどいい距離をとるためのもの………?」
少年は、答えを口にした。
友人は、そもそも付き合いたくないという感想のようだが、先輩のほうは、納得したようだ。
そして老人も、少年の考えと、同じようだ。
「そうだ、オレが、お前らと深く関わらないように、ただご近所ってだけで、深く関わらなきゃならないって決まりはないんだ。まぁ、分からんやつがいる、『アイツ』や、娘みたいにな」
言って、絵を見つめていた。
睨んでいるようで、悲しんでいるようだった。

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