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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第十四話


再び、管理人さんの家の前。
少年は、まだおびえながら、周囲を警戒しながら、戻ってきた。
「あっちの住人が、こっちに来ないって知ってるだろ………って、『転校生』は、結構来てたんだっけか、なら、ありえなくもないのか?」
先輩が、冷静に少年を見ていた。
少年は、少しムッとした。
少し、反撃に出た。
「そうですよ『月の狂宴(きょうえん)』って、魔物がこっちに来たって話じゃないですか。昔みたいに、あっちの世界にボクたち、行ったんですからね」
急に節々が、痛みを思い出していた。
結局、昨日も扉が現れたのだ。
か弱い人であるということで、さすがに追いかけっこを許してもらったものの、それ以外はつき合わされたのだ。
木の枝を、まるで応援団が巨大な旗をふるがごとく、全力でふりまくったのだ。
猫じゃらしの代わりであった。
猫の『ダマ』への、先日尻尾をふんじゃったお詫びも兼ねていた。
おかげで、筋肉痛の場所が、増えていた。
「おま………縁起でもないこと言うな。本当になったらどうするんだ」
友人は、慌てた。
少年としては、あてつけのつもりで、本心ではない。こちらとあちら、双方の同意がなければ開かないと、しかも、鍵が必要だと知っているためだ。
はと、少年は冷静に自分に問いかける。
本当に、そうなのかと。
『転校生』は、確かにカギを必要としていた。だが、『月の狂宴』のおとぎ話に、鍵が必要だとは、伝わっていないはず。
「考えるのは後だ、人様の玄関の前だ」
先輩が、先輩風を吹かせた。
そして、少年たちの返事を待たずに、呼び鈴を鳴らす。
ジジ………ジジジ………――
こちら側からは、今にも死にそうな、セミの声に聞こえた。
相手に伝わっているのか、少し気になった。
先輩も同じらしい、もう一度呼鈴を押そうかと、指が呼び鈴のスイッチの前で、戸惑っている。
「………あまりしつこいと迷惑だし………」
礼儀をわきまえる。
管理人と居住者と言う関係は、微妙なのだ。
親族ではなく、主従関係でもない。客と言う立場と言うにも、こちらは少し弱いという感覚なのだ。
格安で、善意で提供されている、と言う名目が、理由だ。
暴利をむさぼっていれば、町外れの、今にも崩れそうな古びた家に住んでいるはずもない。
自分たち貧乏学生が、ささやかな親の仕送りだけで暮らせるわけもない。
学生アパートは、双方貧しいのだ。
なら、礼儀くらいは、しっかりと――
「にゃー………」
少年は、駆け出した。
本日、二度目であった。
「………あいつ、猫恐怖症だったっスかねぇ………」
友人は、のんきに眺めていた。
「………一昨日からだろ、でっかい猫………俺たちも、ああなるかもな」
先輩は、哀れみの瞳で見つめていた。
明日はわが身、あるいはそれは、今日かも知れないのだから。
「にゃぁ~………」
猫は、のんきにあくびをしていた。
それは、少年があちらで出会った巨大猫に、どこか似ていたと、後で聞かされた。
オレンジと白の縞模様(しまもよう)の、大きな熊のようなサイズの猫の『ダマ』と。
「とりあえず、裏に回ってみるっス。畑もあるみたいだから、そこかも………」
「分かった、頼む。俺はここで管理人さんを待ってみる」
こうして、学生アパートの管理人さんと、出会うことになった。
「ふん………またぞろ、何のようだ」
あぜ道から、擦り切れたタオルを首にかけ、管理人さんが現れた。
友人が正解であった、裏の畑においでだった。
老人といっていい年齢ながら、体格はシッカリとしていた。普段から、体を動かしているからだろう。ぼろぼろの衣服の上下は、畑の土や草で汚れていた。かつては衣服であったという、みすぼらしいものであった。
最も、どこかしゃれた店に行くわけではない、老人は畑仕事をしていたのだ。捨てていい衣服を強引に縫い合わせ、作業着にしているらしい。しかし、畑にしては範囲が狭い気がした。本職の農家の方ではない。いわゆる、自分の食べる作物だけと言う、趣味と節約が出来る、土地の持ち主であった。
「お久しぶりです………二年前、アパートに――」
先輩が、まず代表として挨拶をすると、管理人さんは手を雑にふって、さえぎった。
「あぁ、いい、いい………どうせ四年で別れる間柄だ。あまり深く関わるつもりもない。お前らもそのほうが楽だと、そのうち気付く」
つまらなそうに、擦り切れたタオルで汗をぬぐっていた。
少年は、少し怖いおっさんだという印象を、抱いていた。
挨拶でも、そういえばまともに話したことはなく、ただ契約書の確認と、サインだけだ。
何もなければ、何もないに越したことはない。
そう言われた気がする。
何十年も学生たちを入居させ、見送ってくればそうなるのか。
少しつまらないと、それが第二印象だろう。
しかし、今はそれだけでないと、少年は知っている。
「青い扉が、出てくるんです」
いきなり、本題に入った。
管理人の動きが、しばし止まった。
そして、改めてタオルで顔を拭くと、こちらを眺めた。
少年は、少し攻撃的だったかと、あせる。
もう少し詳しく説明をすべきだと、鍵を見せるべきだと思った。
相手から、持ち出してきた。
「鍵を拾ったの、お前か………」
知っていた。
やはり、知っていた。
少年たちは、顔を見合わせる。
管理人の老人は、しばしその様子を眺めていると、ゆっくり歩き出した。
少年たちはどうしようかと迷っていると、老人は振り向いて、あごをしゃくる。
ついて来いという、合図らしい。

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