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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第十三話

放課後、少年たちは話し合っていた。
「いいや、常識を疑えってことは………いや、言ったのかな………」
『転校生』は、自信なさげだった。
放課後、まっすぐと帰ればいいものを、少年たちはまた『第四資料室』にいた。
少年が鍵を手にしていることで、『第四資料室』のある場所に近づけば、扉が待っていたのだ。
「特定の場所と時間って、時間はあまり、関係ないのかな………」
先輩は、少し腑に落ちないという顔だった。
代々受け継がれた知識に誤りがある。それは確かに、腑に落ちないだろう。
「あのぉ………なんでオレまで」
往生際の悪いことだ。友人はすでに巻き込まれているというのに、ここにいることへの不満を漏らしていた。
「なんだ、帰って勉強でもするのか、お前らしくない」
少年は、からかった。
いつもと立場が逆であることが、面白かった。
「ねぇ、ねぇ、あそぼ、あそぼ」
隣には、もちろんフード付きマントの少女もいた。
猫の『ダマ』は………さすがにここには入れないだろう。よかったと、思った。
怪奇現象に足をどっぷりと踏み入れているのに、少年たちは三人とも、一切の恐怖も、緊張も、すでに有していなかった。
少年にとっては、怪奇現象に巻き込まれて、まだ三日目であった。
友人と先輩に至っては二日目なのだが、やはり人間の順応性は、すばらしい。
まぁ、そのためにこの場は混沌としつつあったが………
「鍵を持っていないと、二つの月の力を借りないと、扉は開かないよ。開きやすい場所、つながった場所でないとね。君たちの今住むアパートも………かな」
そのために、幼い女の子が扉の前にいたのか。
人間とは、到底思えない。過ごす時間の長さも違うようなのだ。なら、人間のように家族を持つのではなく、ただそこにいる、と言う表現が当てはまるのか。
「そのアパートの管理人さんに、明日あたり、話を聞きに行こうと思っています。ここの真相を代々学生に伝えるように言った本人らしいですし」
先輩は、やや躊躇した。
一緒に来ないかと、言うべきか迷っているのだ。
『転校生』の話しが始まったのは、五十年前。
当時学生であれば、管理人の年齢、六十台半ばである。
『転校生』の友人本人である可能性も、あるからだ。
しかし………
意を決して、訊ねた。
「当時のあなたを知る人かもしれない、一緒に――」
先輩は、言い切ることは出来なかった。
『転校生』が、寂しそうな顔をして入ると、気付いたからだ。
少年には、察しが就いた。
いいや、先日の様子でわかる。『転校生』の友人となった生徒『アイツ』は、もういないらしい。
大人になって、怪奇現象と戯れることがなくなり、忘れられた。
そんな話ではないと、感じていたのだ。
故に、なにが起こったのかと、訊ねることは出来なかったのだ。
「自分で色々と調べるといい………そうして知らないことを知っていくのは、きっと楽しいはずだから………だから、今日はもう帰りなさい」
先輩が後輩に語る口調であり、どこか老人が子供に語る口調にも感じられた。
少年たちは、素直に従った。
本日のところは、女の子もおとなしい。疲れている様子の少年を見て、一応は気を使ってくれたのだろうか。
お兄さんの手前、おとなしくしている、近所の子供のようで、どこかほっとしたことは、悟られるべきでないだろう。

かくして、翌朝――

朝も昼の方が近い時間帯、少年たちは、たたずんでいた。
おんぼろの、学生アパートに代々伝わる、『第四資料室』の話が、ただのうわさではないと知ったためだ。そして、代々後輩に受け継がれてきたその噂の真相の、その大本に関わっている人物こそ、管理人さんだと知ったためだ。
少なくとも、関係者のはず、何か聞けると感じたからだった。
「えっと……ここっスか?」
友人は、怪訝そうに見ていた。
小ぢんまりと、ぽつんと家が立っていた。
印象としては、はなれ小島。
町外れの一軒に過ぎないのだが、なぜか、はなれ小島と言う言葉が似合っていた。
畑が目の前であるという、町とは異なる雰囲気だからだろう。
「ここだ」
先輩が、標識を確認した。
片手には、ぼろきれにメモが帰された、住所が記されている。かなり前のメモを、そのまま受け継いだようだ。
なんだか、受け継いでばかりだと言う気もしたが、古い場所に住むとは、そういうことかもしれない。
「あの………先輩、まさかこの家の扉も、青かったり………しませんよね?」
友人が、不安げに訊ねる。
無理もない、ここ数日、怪奇現象だらけなのだ。
そしてここが、おそらくはその中心。学生アパートの管理人さんの、ご自宅なのだ。
「ここまできて、何を言ってるんだよ、お前。あきらめろ」
少年は、偉そうに、友人の肩に手を置いた。一番怪奇現象に巻き込まれているのだ。多少のことなど、些細なこと。
その時だった。
「にゃ~………」
猫の声だった。
何の変哲もない、野良猫か、どこかの飼い猫だろう。それが、すぐそばで一声、鳴いただけである。
少年は、全力ダッシュした。
「なっ………なんだ、猫か。びっくりさせやがって………」
少年は、胸をなでおろしていた。
戦先日、木の根っこと思って、猫の『ダマ』の尻尾を踏んじゃった少年である。
クマの倍のサイズの猫に、そのために追いかけられた少年である。
過剰反応。
そう言って笑うのは、酷である。
「………おぉ~い、もどってこぉ~い」
友人が、にやついていた。
少年を、呼んでいた。
仕方ない、少年は猫の声がした時点で、十メートルほど、全力ダッシュをかましたのだ。
仕方ない。


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