ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第十二話

学生さん達は、笑い合っていた。
同じ貧乏アパートに住む、ご近所さんで半ば兄弟の、不思議な共同生活者。
登校時間の、いつもの風景であった。
ただ一人を除いて………
「ててて………運動って、そんなに得意じゃないってのに………」
少年だった。
昨晩、少女のおねがいを聞き届けるため、鬼ごっこをした後遺症である。おそらく後三日は、走るどころか、歩くだけで、節々が悲鳴を上げるだろう。
「ったく、化け猫と追いかけっこって、お前どんだけ怪奇現象と仲良くなりたいんだよ」
友人は、大笑いであった。
ぼろぼろの状態である少年から、昨晩の猫との追いかけっこの話を聞かされたのだ。
聞くだけなら、笑える話であったようだ。
他人事であり、自らに降りかかったわけではないのだから。
今は、まだ………
少年は、意地悪く告げた。
「あの子、お前とも遊びたがってたぞ。あんまり人と遊ぶ機会がないらしくてなぁ………」
口調が、どこか怖い話をするようになっていた。
いいや、体験談であっても、これは立派な怪談話。
笑っていた友人の顔が、引きつった。
「いやぁ、俺ってほら、巻き込まれただけっていうの………先輩っ」
都合のいいことだ。隣を歩く先輩に、助けを求めていた。
その先輩は、少し考えるような顔であった。
「まだ話は終わっていなかったな、俺が先輩から受け継いだ話ってやつ」
追い討ちだった。
そういえば、アパートに住まう学生に、代々伝える話だったはずだ。
最もそれは『第四資料室』に住まう『転校生』についての、真実のはず。
いいや、その話には、続きがあったのだ。
「その話しを最初にした人物………管理人さんらしいんだよ。真相に触れた学生にだけ、更なる真実を語るってことで………代々、真相をつかんでやるって、調べていくうちに、新しく入ってきた後輩に、うわさを伝える役割に変わったんだ。学校で噂を聞くようになってからな、俺はちょっと、お前らに話すのが早かったけどな。先に巻き込まれてやがるんだから」
好きで巻き込まれたわけではない。
少年は、渋い顔をして、前を向いていた。
先輩は、かまわず続けた。
本題のようだ。
「おれ、明日の休みにちょっとあってくるつもりだ。お前らも、来るか?」
行きたくない。
友人の態度が、語っていた。
だが、少年はもはや、選択肢などないと、分かっていた。
「行きますよ、僕たちはもう、巻き込まれてるんですから」
友人は、固まった笑顔のまま振り向く。
俺を巻き込むな。
睨んできているが、クマの倍の大きな猫とおいかけっこをした翌日だ。たかだか人間の威嚇など、恐れるに値しなかった。
色々、平凡な学生としての範疇を、外れてきていた。
しかし、学生といえば、お勉強が本分である。
まずは学校に到着しては、授業が待っていた。
少年は、バキバキに筋肉痛と疲労困憊の後遺症をどっしり抱えて、授業を受けていた。
今日は体育がなくてよかったと、感謝しながら。
「――えぇ~、このように、古代の習慣はあくまで伝統文化として、かつてのように伝説を真に受けた儀式を――」
歴史の授業であった。
間違いなく、眠りにいざなう確率の高いものの一つである。
朝一番の授業は耐えていた少年だったが、そろそろ限界であった。
「――儀式を行う側、すなわち支配者側の家系には知識が必要だと、古代より知識階級は継承されてきたわけでありますが、一方無知な民として、そもそも学習を受ける機会のなかった多くは、ただ支配者の言葉を信じてきたわけであって、すなわち――」
今の学校制度の始まり、制度の始まりについて話しているらしい。
もはや少年は夢うつつであり、話が半分も、耳から入ってきていない。
お疲れだった。
「――諸君も、衣食住と、親御さんの負担だけでは本来、学校に来ることは出来ない、特に地方から学校のあるこちらに移住してきて――」
少年は、もはや七割以上、夢の世界に足を突っ込んでいた。
今の制度への感謝と、古代の伝説、御伽噺をバカにするような話ばかりだからだ。
今がどれほどすばらしい時代かを、生徒に押し付ける授業。
そういえば、学校四大話しの『転校生』も、この押し付けに反発したとか、常識を打ち破れとか、行っていたのだったか。
真実『転校生』はいたわけであるが、噂を受け継ぎ、広めた生徒側でも、大人の権威に反抗したい気持ちがあったのだ。噂に含まれる、大人への反逆の言葉は、自分達の言葉でもあったのだ。
うっすらと、その言葉は正しいのだと思いながら、少年は夢の中へ――
「――ただ、『月の狂宴(きょうえん)』のように、今も根深く残る伝承はけっしてバカにしたものではないと、それは古代の知恵、月明かりは確かに――」
少年の意識は、瞬時に覚醒した。
たいした話ではないだろうに、『月の狂宴』が話題であったためだ。
内容は、伝説よりも、現実的にその言い伝えが生まれた理由を考えたものであった。
月明かりは明るいが、昼間ほどではない。そのため、油断して事故が多発するので、魔物が出て惑わせる。家の外に出るなと言う、教訓が御伽噺になったのだと。
真実だと知った今は、バカにするつもりには、どうしてもなれなかった。

目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。