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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第九話

「さっきも言いましたけど、俺たちもその噂を聞いてここに来たんです。先輩から、代々聞いて、受け継いで………」
年上相手だと、先輩の言葉遣いは丁寧だ。
少年は、新鮮さを味わいつつも、話の続きが気になった。
答えを求めて、ここへきたのだから。
『転校生』は、おそらく話してくれるだろう。思い出話をしてくれているのだから。
「まぁ、『月の狂宴』も残ってるんだ。そうだろうね………真実が消えても、言葉は残るか」
遠い目をしていた。
何かを懐かしんでいるようだった。怪奇現象に巻き込まれたのに、思い出話に付き合わされる気分であった。
しかし、その思い出話が怪奇現象の本元であれば、聞く必要がある。
なぜ、突然扉が現れるのか。
なぜ、鍵が突然現れたのか。
拾ったために、この怪奇現象に巻き込まれたのだから。
「ボクは、ここから十分ほどの学生アパートに住んでるんですけど、学校からの帰り道で、この鍵を拾ったんです」
そう言って、内ポケットから青い鍵を取り出した。
古ぼけた、鉄の棒の先に、わっかのついた、今は使われない粗野なもの。
「昨日部屋に戻ったら、扉が現れて、この鍵で開いちゃったんです。そしたら、そこの子がいる森に出ちゃって………一緒に鍵を探し――」
言いかけていると、女の子が口に人差し指を当てていた。
バラすなと、言っていた。
『転校生』は、少しあきれたような顔になっていた。
「まったく、気をつけろと言ったろ。そうやって色々………」
言いかけて、話がそれそうだと思ったのだろう、唐突に、言葉は止まる。
そして、改めて少年たちに向かい合って、はなしだした。
「月と同じで、赤と青の扉と、赤と青の鍵があるんだ。どちらもないと、開かない」
「教えてください。さっき言っていた『月の狂宴』って、本当は何なんですか。あなたが転校生として五十年前に、そして二十年前にきた理由は」
何も、答えてもらっていないのだ。
だが、『転校生』は、すっと指を刺した。
「帰りたまえ。ここはここ、僕たちの場所。その子が鍵を持っているなら、また会うこともあるだろう。君たちは学生だ、もう帰る時間だよ」
言われて、ここ『第四資料室』を探すために、放課後遅くまで待っていたことを思い出す。色々ありすぎて、時間の感覚はあやふやだが、どうやら同じ時間のようだ。
「そっか、真っ暗だと思ったら――」
友人は、何気なく窓のカーテンに手をやった。
資料室は、基本、カーテンが下ろされているものだ。それは、紙が日に焼けないようにするためであるのだが………
「「「え?」」
少年たちは、唖然となった。
「こらこら、資料室のカーテンは、大掃除以外では閉めるものだ」
マナー知らずの後輩を叱る、優しい声であった。
それは正に、日常の会話。
だが、夜も近い時間帯に、これはいったいどういうことだ。
さんさんと、日光が降り注いでいた。
肌寒い季節から、暖かくなってきた今日この頃。
そんな季節文句を一切無視した、暖かな日差しであった。
と言うよりも、夏と思えるほどである。『第四資料室』の窓の外は、時間帯どころか、気候すら違っていた。
「ほら、早く閉めて」
『転校生』の催促に、友人は慌ててカーテンを閉めた。
そして、へこへことお辞儀をして謝罪する。
すでに、扉の横にいた。すぐに帰りますと、物語っていた。
「そういうことだ、早く鍵を………って、また失くしたとか言わないよな。扉はあるから、大丈夫だろうけど」
『転校生』は、女の子を見た。
知らん振りを決め込んでいたが、鍵を失くしたことは、ばらされているのだ。
瞬間、少年を睨んでから、スカートのポケットから、鍵を出した。
ここから開放してくれる、唯一の品であった。
「さぁ、彼らはもうすぐ眠る時間なんだから、早く」
少しつまらなそうに、少女は『転校生』の命令に従った。
年齢の違いは、どうやら見た目どおりでよいらしい。それは力関係と言うか、人間関係?にも現れているようだ。
おかげで帰れると、少しほっとしたことは、女の子に内緒にしたほうがいいかもしれない。
「じゃぁ、また………ってことで」
「おじゃましました」
「じゃぁ」
少年に先輩、そして友人は、それぞれ短く挨拶をして、扉を跡にした。
つまらなそうな女の子は、そっぽを向いていたが、あの様子だと、近々会えそうだ。
扉が閉まる直前の『転校生』の言葉が、根拠である。
「そっか、アパートってアイツの――」
聞き逃すわけはない。少年にとってアパートとは、今の住まいである学生アパートである。
そして、こっち側に足を踏み入れたきっかけも、そのアパートに現れた扉である。その帰宅途中で、鍵を拾ったことが、そもそもの原因である。
扉が閉まったことで、それ以上の言葉は、聞こえなかった。
『アイツの――』とは、どういう事か。『転校生』の友人以外にも、かかわった人物がいたということだろうか。
答えは、近々知ることになるだろう。
深みにはまっていく恐怖と、好奇心。どちらが大切か、迷いながら少年たちは、少し遅い帰り道を、いつもよりやや速足で、急いだ。


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