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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第八話


ぞろぞろと、ノックもせずに少年たち三人が、侵入した。
にもかかわらず、静かに読書を続けていた。
噂にある『転校生』だと、直感した、自分たちより少し年上の少年が、いるではないか。本を読んでいるのだ、何か知識が豊富と、思いたいではないか。
先輩は、失礼――といわんばかりに、少女の隣を通り過ぎて、『転校生』に近づいた。
そして、訊ねた。
「読書中、失礼します。私は――」
パタンと、本が閉じられた。
恐怖が、よみがえってくる。
噂の真相の『第四資料室』を見つけた生徒の末路は、結局分からずじまいだ。
それを、知る事になるのか。
と言うより、体感させられるのか。
死んだとも、消えたとも、戻ってきたとも、伝わっていないのだから。
なぜか、真相は隠されたのだから。
徹底的に。
「いいよ、名前なんて聞いても、どうせ君たちはすぐにいなくなる………昔も今も、そして、これからも………」
つまらなそうに、閉じた本の表紙を眺めていた。
手のひらに納まるサイズの本で、ここからではよく見えない。
だが、声は聞こえる。
「仕方ないよ、人間なんて、いっつもそう」
幼い女の子が、続きを答える。
なんだか疑問が増えたが、よみがえった恐怖が、和らいできた。
気分を害したのは、自分達の発言が原因では、ないらしい。
今度は、自分から発言しよう。
昨日はおびえ、何も言えなかったのだ。
少年は、勇気を出した。
「えっと………君たちって………なに?」
人間ではないらしい。
話し振りから、そして、この不思議な場所から導き出された推理。
ほぼ、間違いない、可能性。
「ボクたちは、ボクたちさ」
「うん、私達は、私達」
何を当たり前の質問をしている。
二人同時の返答が、物語っていた。
人間ではないが、それ以外に、なんと呼ばれている。
勝手な呼び名はできても、先ほどの、ここはどこ――と、同じ質問。
そして、答え。
いいや、人間ではないと、それは確かなのだ。
そして、質問はこれが、重要なのではない。
「……転校生として、五十年前と、二十年前に、この学校に現れてますよね。オレたちは、その噂の転校生の謎を聞いて、ここに来たんです」
先輩の話し方は、どこか大人びて、かっこいい。
少年は、素直に感心した。
相手によって言葉を使い分けられるようになっているか。その問いかけに、大丈夫と言えない十三歳。
このような場所で、大切なのだと実感し始めていた。
相手が人間でなくとも。
「なぁ、なぁ、あまり長いをしちゃ、悪いよ。とっとと帰ろうぜ」
『転校生』の返答を待たず、友人がしびれを切らした。
ふりむくと、あの扉は、こちら側の扉は、まだあった。
赤い塗装は剥げ堕ちているが、向こう側からの、青い塗装とは、やはり違う。
鍵は、どちらが持っているのだろう。
ふと気になったが、今はまだ、訊ねてはいけない気がする。質問だらけである。
まずは、先輩が訊ねた『転校生』の返答を、待った。

五十年。
それは、十三歳や十四歳の少年達にとって、途方もない時間である。
しかし、目の前の『転校生』は、その時間を過ごしてきたのだ。どう見ても自分たちより少し年上にしか見えない、まだ少年と分類される見た目である。
五十年前と、二十年前に、突如として現れた『転校生』の、ご本人。
それはもはや、確信に近いものであった。
「君たちは『月の狂宴(きょうえん)』って御伽噺を知ってるかな」
『転校生』が、訊ねる。
そして少年達は、答えた。
知っていると。
先日のような、月が二つとも満月になる日を言うと。
月の魔力に誘われて、魔物たちが出てくる御伽噺だと。
「その御伽噺の続きだよ、ここは………五十年前、その扉が、君たちの学校につながった」
視線だけを、扉に向けた。
少年達も振り返り、扉に視線を向ける。
今は古びた、塗装もはがれかけた扉である。それは、旧校舎と言う場所にふさわしい。
だが、五十年も昔となれば、ここはまだ使用されていた。
すなわち………
「この扉を使って、学校に出入りしていたって事ですか………」
先輩が、代表して訊ねた。
「訊ねられれば、転校生と答えればいい。そう教えられたからね、『アイツ』に」
寂しそうに、本に目を落としていた。
その本は、ずいぶんと読み込まれていた。
図書館であれば、大勢が手を触れるのであれば、それも当然である。しかし、もしここにいるのが彼一人であれば、何十回、何百回と繰り返し、読み続けたということだ。
思い出の品。
考え付く可能性だった。
「『アイツ』は、内気なヤツだったけど………ちょっとだけ、勘がよくてね。そして、悲しんでくれたよ。みんな、ここの事を忘れたって。ただの作り話、おとぎ話にさせられたって。そして、ここが他にないかって、一緒に探したものさ」
噂話として広がるわけだ。
不思議な場所がある。同じような場所はないか。
二人組みの少年が、そのように聞きまわっていけば、それは尾ひれをつけて、広まるだろう。
真実『第四資料室』は、ここにある。
そして、普段はここにない。
真相を確かめようと、ちょっと興味を持っただけの誰かが、あっという間に広めてくれるだろう。
俺は見た。
俺は見てない。
どっちが本当だ。
なら、行こう。
その理論に、論理性など必要ない、好奇心旺盛な学生達である。
結果、噂は広がっていくのだ。

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