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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第七話

癖のない、まっすぐな黒髪のショートカット。
少年より一つ年上なだけなのに、先輩を兄とも思えるのは、事情がある。
面倒見のいい、相談相手にもなってくれる人なのだ。アパートでも、先輩である。家族と離れて暮らすことになった少年達の、まさに兄のような存在なのだ。
今は、共に怪奇現象に挑む仲間として、頼もしさを覚えていた。
「運命って言うやつだ。オレが話した噂の真相、代々受け継いだって言ったがな、アパートの先輩から聞かされたんだ………きっと、おまえのようなヤツが最初にいたんだな」
覚悟が出来た。
強引であっても、覚悟は出来た。
先輩の言葉は、そう告げていた。
そして、言葉通りに、これは運命だと。
「っちきしょう………なんてアパートに住んじまったんだぁ………」
うなだれながらも、友人も覚悟を決めたようだ。
気が変わらないうちに進もうと、少年達はうなずきあった。
考えなしの行動であるが、それしか道がない場合は、勢いが大事である。
三人が手を重ねて、扉に触れた。
少年は、鍵を回す。
見た目はさび付いているのに、すっと開いていった。
「ほんとに、あったんだ」
扉を開けると、そこは言葉通りの、資料室であった。
不気味に、蜘蛛の巣だらけの、古びた書類ばかりが散乱していると予想していたのだが、予想外であった。
綺麗に整頓されていて、むしろ図書室のようであった。
「おい……」
促したのは、一番ここに入りたくないだろう、友人だった。
だが、入るしかないのなら、早く終わらせたいという心理だろう。
まずは経験者の少年が、続いて先輩、最後にしぶしぶながら、友人が続いた。
そこには、自分たちより少し年上の少年がいた。
十四歳か、十五歳にみえる、最上級生の年齢だ。
静かに、本を読んでいた。
『転校生』だと、直感した。
だが、それだけではなかった。
「あぁ~………ひどいよ、扉はちゃんと閉めないと、開けられないでしょっ」
先日の、幼い女の子がいた。
少年には、見覚えがあった。
先日と同じ、短いフード付きのマントをかぶっていた。
今は、フードは外していて、あの可愛らしいお顔が見えていた。
そのためだろうか、なんだか印象が、ガラっと変わっていた。
いいや、少年は、自分で勝手におびえていただけである。
女の子は、お姉さんぶって、怒っている口調をしているだけだ。
幼い女の子の口調だ。
お姉さんぶってしまうのも、子供らしいことだ。
「………あの森から、ここまでって近いの?」
唐突に扉が表れるのだ。今更おかしな疑問であるが、森の中の草原から、学校の資料室までの距離がどれだけあるのか、気になったのだ。
恐怖ではなく、これはただの疑問。
怪奇現象に、慣れてきたのかもしれないと、少年は、少し思った。

『第四資料室』
五十年ほど前に広まった、この学校の四つの実話をもとにしたと言われる、不思議な話の一つ。そして、本当の『第四資料室』の話を、隠すための後付けの話。
その元凶というか、根本というか、そこに少年たちはいた。
資料室という名前に恥じない、もしここが、唐突に表れたと言われなければ、ただの資料室として、一瞥すらしなかっただろう。
そこで少年たちは、不思議な少女と見つめあっていた。
「えっと、昨日の夕方、僕の部屋の扉から、君のいる森につながったでしょ。その君が、学校の資料室にいるから、なんでかなって、思ったんだけど」
少年は、改めて少女に質問をする。
一方、友人と先輩は、あっけに取られていた。
すでに怪奇現象は味わっているのだが、とたんに、日常の会話が始まったのだ。
少年は、説明することにした。
先日の、不思議な扉の話を。
中に入ると森の中の草原で、出会ったと。
その話に、不思議な少女が、参加してきた。
「お兄ちゃんが持ってるの、向こうからこっちに来る鍵。大事なものなんだから、失くさないでね」
少年は、鍵をしっかりと握り締めて、うなずいた。
先ほど、友人は捨てちまえといっていた。自分もまた、捨てたい誘惑に駆られたものだが、どうやら捨てなくて正解だったらしい。
「ところで………ここってどこ?」
少女がなぜここにいるのか、その質問は後回しだ。今はまず、この怪奇現象についての情報が欲しかった。
もう、恐怖は感じなかった。
先日恐怖していたのは、自分の勝手な思い込みである。しかしながら、怪奇現象が日常になりかければ、人間は順応してしまうらしい。
少年の態度に、友人と先輩も、危険ではないと感じたようだ。
それが思い込みであっても、恐怖が和らぐのは、悪くないと。
幼い少女の答えが、その気分を高めたのかもしれない。
「ここって………ここは、ここだよ?」
質問が、悪かったようだ。
内容も、聞いた相手も。
だが、それ以外にどうできる。
「えっと、だってここって、ここは僕たちがいた世界と違って……」
説明をしようと思いながら、思いのほか、言葉にすることが困難であると、少年は気づいてしまった。
ここは、どこ。
元居た世界とは、別の場所。
そのような、怪談じみた答えしか用意されていなくとも、訊ねた。
しかし、少年たちにとって元の世界、自分たちが住む世界を、そこはどこだと訊ねられれば、なんと答えればいいのか。
土地の名前?
学校の名前?
どちらも、それって、どこという質問に続けば、答えられない。
すなわち、ここは、ここなのだ。
十三歳の少年が、お勉強嫌いで、知識が不足であると、避難できようか。
そこに、選択肢があることを思い出す。
「もう一人に、訊いてみよう」
発言の主は、先輩だった。


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