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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第五話

少年たちは、静かに、足を進めていた。
最近はこればかりだと、少年は心で毒づいた。
いや、ただ今この時点では、文句を言うべき相手は、目の前にいた。
「先輩………真相を話してくれるって言っても、本当に『第四資料室』を探さなくたって、いいじゃないですか」
一応、小声だった。
生徒は帰宅している時間帯であるのだ。
資料室の周囲をうろついているとなると、呼び止められてもおかしくはない。
まさか、怪談話を確かめたくて、やってきましたとは言えるわけもない。
「そんなに警戒するな。ここは普段、教師どもも来ないところだ」
先輩は、堂々としていた。
ドカドカと、足音すら盛大に鳴らしかねないほど、堂々としていた。階段を上がっていた、もうすぐ二階だ。
声を潜めている少年にとっては、十分に、大胆な振る舞いであった。
その理由は、この場所にあった。
少年の代わりに、普段は調子のいい友人が非難を浴びせた。
「先輩、ここって、立ち入り禁止の旧校舎っスよ?教師がいない理由って、それっスよ?」
怪談におびえているわけではないのだが、小声だった。それも当然、学生と言う身分であれば、権力者への反抗を抱きつつも、服従せざるを得ないのだ。
すなわち、怪談より怖いのは、教師であった。
一応は。
「『大人の過ちを正すのは、ボクたち若者の使命なのだっ』――って、やつさ」
先輩が、廊下の突き当りで、何かを気取っていた。
すぐに、何の話かを思い出した。
「………噂話の転校生のセリフ………ですか?」
友人も思い出していたようだ。
「今の制度は、常に完璧だと思うなって、未来を作るのは俺たちって話っスよね」
面白そうにうなずくと、先輩は窓をさした。
警戒して、窓際に近づかないように身をかがめていたのだが、何かあったのか。
「もうすぐ夜だからな、見ろよ」
言われて、ひび割れた廊下の窓ガラスから、見上げる。
いつの間に時間が経過していたのだろう、夕方から、夜に変わる独特の紅色だった。
それは、月もあでやかに、不気味に染めていた。
満月の翌日である。
二つの月は、まだ両方共に、赤々と、青々と、こちらを照らしていた。
青の月は、自分を照らしている。
少年には、そう思えた。
そして、思い出してしまった。
二つの鍵の色を。
懐にある青い鍵と、あの不思議な草原で探し当てた、赤い鍵。
二つで、一つ。
こちら側と、あちら側。
少年は、服の上から、懐のポケットの青い鍵を握り締める。
なぜ、今そんなことを思い出したのか………
「あった、『第四資料室』――間違いない」
先ほどまで、ここには何もなかったはずだ。そんな気持ちが、余裕をぶっていても、伝わってくる。まさか、本当だなどと思わなかった、と。
そう、ここはただの、塗装が剥げ落ちた壁だったはずだ。
二階の廊下の突き当りで、夜空を見上げた瞬間に、現れたとでも言うのか。
「………先輩、ここに扉なんて、あったっスか………」
いつもは明るい友人も、さすがに恐怖していた。顔がこわばり、声が震えていた。
そして少年は、平然と青い塗装の扉を見ていた。
経験済みであれば、なぜこれほど冷静に観察できるのだろう。
だが、経験があるからこそ、余計なことを言ってしまう。
「………鍵穴って、ありません?」
気付けば、少年はあの鍵を手にして、問いかけていた。
青い鍵だった。
目の前にある、さび付いた扉の塗装も、ハゲかけているが、青色だった。
まさか、そう思っていたのに、同じ色だった。
少年は、余裕の笑みを浮かべていた。
本人はそのつもりだったが、まさか、ありえないという、恐怖が浮かんでいた。
「………なぁ、おまえが朝言いかけたのって………まさか………」
友人は、話をまじめに聞くべきだったと、後悔し始めていた。
だが、後悔の時間はなかった。
先輩が、トドメを刺した。
「学校の四大話の続きを教えてやろう。その真相ってヤツを」
改めて、教えてくれる。

その一、開かずの体育倉庫。
その二、第四資料室
その三、気付けばいる、転校生
その四、帰ってきた、転校生

「………転校生が事件を解決したって話っスよね。オレ、ちょっと気になったんで、昼休みとか、色々聞いてみたんスよ」
友人が、まずは答えた。
最初は『開かずの体育倉庫』と、『第四資料室』の、二つだけだったという。
その他の怪談はあっても、実話らしい話は、この二つだけと言う。
あくまで、らしい、と言う程度。
ある転校生が、二つの謎の解決に動き出したという。
その三の『気付けばいる転校生』は、ここで生まれた。
気付けば、転校生はそこにいるという。
それは、いたるところに調査に向かったという話だ。神出鬼没は、そのためについた尾ひれであろうと。
不倫の場所と、不正資料の隠し場所が、真相だという。
しかし、やりすぎた。
そのために、転校生は停学処分、あるいは退学処分を食らったらしい。
「そんで、『帰ってきた、転校生』って噂になるんス。学校から追い出されたはずの転校生が、相変わらず、気付けばそこにいるって話」
友人は、続ける。
「最後の四番目の話って、ただの後日談ってオチっス。処分解除で、堂々と登校して、無事に卒業って、めでたし、めでたしって、オチっス」
転校生による、学校の不祥事の発掘と言う話だと、結論付けられた。
追い出されたはずの少年が、戻ってきただけだと。
処分取り消しが、真相だと。
不思議な扉を前にして、これで、噂が解決したと思えるだろうか。
実話を元にした怖い話など、真相を知ればつまらないものだ。まるで、そう思わせたいようであった。
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