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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第四話

学生さん達が、笑い合っていた。
「ところでさぁ、昨日は変な夢、見てさぁ………」
少年は、昨日の出来事を、夢と思い込むことにしたらしい。友人達との話題の一つとして、話はじめた。
そうすることで、恐怖と何とか折り合いをつけているのだ。
懐には、自室の部屋の鍵のほかに、例の不思議な鍵が、大切にしまわれている。
捨てては、何が起こるかわからない。
それは、少年が昨夜の出来事を、決して侮っているわけでない、証であった。
「何だよ、変な夢って………まさか――」
少年は、ドキリとした。
まさか、自分の昨日の怪奇現象は、みんなも体験したことなのかと。
期待であり、不安であった。
「その年で、『月の狂宴(きょうえん)』が怖くて眠れなかったとかぁ?」
どっと、笑いが沸き起こる。
少年は、愛想笑いをしていた。
「こわいよぉ~、月の魔力に引かれて、魔物たちが扉の向こうから、おいでおいでしているよぉ~」
友人が、大いに少年をバカにした一人芝居を始めた。
少年以外は、大笑い。
少年も、愛想笑いをうかべる。
反発したい気持ちより、落胆が大きかった。
それでも、食い下がってみる。
「そ………そんなことが、実際に起こったらどうする?」
愛想笑いから、ちょっとした追いかけっこに発展することを期待していたのだろうか。
以外や、素直な問いかけに、見詰め合う。
「おいおい、しっかりしてくれよ。こいつの軽口なんか、いつものことだろ」
先輩が、不思議そうに少年を見つめる。
もしも『月の狂宴』が本当であったのなら、どうする。
本気で訊ねているのだとすれば、普通はどうするだろう。
大変だ、大人に相談しよう。
それが、普通と言う分類の、普通の判断である。
大人の判断とも言う。
だが、少年は愛想笑いのまま、続けた。
「いやいや、古い御伽噺とか、伝説って、案外とバカに出来ないですよねって話で………」
少年は、慎重に言葉を選んだ。
単に、怖い夢を見た。
だが、あまりに怖くて、現実との境目を失ってしまった。
それ以外で、この話題をふる理由は、好奇心。
先輩はそう受け取ったようで、少し考えるように、答えてくれた。
「二つの月が満月になり、その魔力を受けて、魔物たちが扉の向こうから呼びかける『月の狂宴』の、成り立ち………何か、元になった話があるだろうって………そういうことだよな」
少年は、さすがは先輩だと、からかっていた友人に、笑いかけた。
バカはおまえだ
笑いかけの、意味するところだ。
一方、先輩は、聞きかじった知識を披露してくれた。
「まぁ、普段とは違う風景に、人間の感覚が麻痺させられる、惑わせられる、ってあたりだろうな。目の前にあるのに、光加減で見えなくなるって話し」
昔は、そのような不慮の事故を、魔物に惑わされたと言って、恐れたものだという。
だが、言葉は形を変えて、教訓を伝えるものだ。御伽噺の原型とは、そういったものだと、先輩は話を続ける。
「『月の狂宴』も、そういった話の一つだろうな。明るいのに、明るいから逆に、普段注意することがおろそかになるって話」
「あぁ、分かる。昨日も学校の帰りに、妙なところで気躓くし」
「たしかにな、明るいって思っても、昼に比べればずっと暗いんだから」
思い思いに、思い当たる節を話し合う。
だが、少年が一番訊きたい話には、行きつかない。
告白しようか。
しかし、その結果は病院送りと言う可能性しか思いつかない。
からかわれている、そう思われればいいほうである。
どちらにしろ、本当の話だとは、信じてもらえないという結果である。
ならば、どうする。
「それで、もっと他に………そう、例えば、魔物が扉の向こうから誘うって話ですよね。その扉から、こっちに来ることって、事例とかありません?」
しまった。
あまりに、急ぎすぎた。
後悔しながら、反応を待った。
すぐに、帰ってきた。
「あぁ、怪談話………俺も詳しくないけど、学校といえば、怪談だからな」
一同、怪談話に思考が切り替えられていった。
学校は、目の前である。
「存在しないはずの、『第四資料室』なんて、どうだ。学校の四大話の一つで――」
訊かなければよかったと、心底後悔した。
とある時間、とある場所に、とある物を持って目を閉じると、存在しないはずの扉が現れるのだと………
夜の学校に忍び込むような事態にならなければいいと、少年は思った。
いや、自分の部屋の洗面所の扉が、すでに不思議の扉に変化した事例がある。もはや、どこも安全とはいえなかった。
なお、四大話は次の四つであると、先輩は教えてくれた。

その一、開かずの体育倉庫。
その二、第四資料室
その三、気付けばいる、転校生
その四、帰ってきた、転校生

「ちょっとちょっと、転校生が二つもあるって、なんスか、それ」
友人が、突込みを入れた。
先輩であるために、バカにする態度は控えめであるが、バカにしていた。
「まぁ、聞けよ。『開かずの体育倉庫』って言うのから、順番にな。裏の話もあるんだから」
少年は、覚悟を決めた。
自分と同じ経験をした人がいたのか、いないのか。
いたとしたら、その後はどうなったのか。知らずには、いられなかった。
「真実は、愛人を連れ込む場所で、夜になると絶対に開かないって話だってオチだ」
ずっこけた。
いや、大人のスキャンダルであれば、意味なく騒ぐのが子供である。
だが、そのような現実的な事件であれば、まず周囲が調査に入る。
そして、大事である。
それについての、記憶はない。
「まぁ、ばかげた噂話っちゃ、そうなんだけどさ………真相って言うのは――」
話は、ここから盛り上がるところであった。
だが、残念ながら、時間が来てしまっていた。
正門が、目の前だ。
「こらぁあっ、なにをボサ~っ、としておるかっ」
朝から大変元気のよい、体育のバカ力どのが、仁王立ちだった。
「逃げろっ」
少年達は、駆け出した。
話の続きが、大変気になりながら。


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