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テッコウガ-ハジマリ-

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: プリズムの使者
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チャプター4:抹殺

 「私、仁のことが好き」

 ある程度予想できていたシチュエーションであったが、やはり実際に来るとどうしていいか分からなくなる。しかし、返答なんてこの一言以外考えられなかった。

「俺も、美香の事が好きだ。ずっと……守りたいって思った時からずっと……愛してる」

 美夏はさらに顔が赤くなる。仁も同様だ。そして、しばらくの沈黙の後、美夏は目を瞑り、こっちに飛び掛った。

 そして、ぎゅっと抱きしめられた。美夏の持つ柔らかい感触が仁の身体へ伝わる。美夏は目を開けじっと仁を見つめた後、再び目を閉じ、顔を近づける。

 言わなくても分かる。きっとキスだ。さっきから美夏が唇を強調するような動きをする。可愛くてたまらない。

 仁も目を閉じ、美夏へ顔を近づけた。



 そして、時が止まったように錯覚した。お互いの唇が重なり合い、しばらくそのままでいた。幸せでたまらなかった。

 2分くらい経っただろうか。ようやくお互いが唇を離した。

「ありがと……仁。私、嬉しくてたまらない……」

 そう、美夏ははにかんだ。仁はその言葉をただ聞いていた。





「なぁ高城、ちょっと頼みたい事があるんだ」

 G財団大阪支部では大量の負傷者が出ており、大阪支部設立以来の大混乱となっていた。そんな中、会長の息子である銀崎は仁の友人の優に相談をもちかけていた。

 それは、取り逃がした仁と美夏の始末である。銀崎は普段施設では偉そうにしている反面、実戦経験はゼロで、さらに仁の戦いぶりを見て完全に自信を無くしてしまったのだ。

 そこで、実力派の優に頼んだのだ。優は親友を殺す事になんの躊躇いも泣く快く引き受けた。



 優は銀崎の頼みを聞き入れたとはいえ、仁を殺す気は全くなかった。それも当然である。最大の親友であるのだから。優にはそれ以上に策略が合った。「二人を殺した上で仁だけ確実に存命させる方法」を。

「……マグナガンナー、出撃する」

 優はARTSでマグナガンナーへと姿を変えて、闇夜の中、出撃した。



 マグナガンナーは内蔵されている暗視カメラで、二人を探す。もうかれこれ1時間ほどになる。

 それでも諦めず、さらに20分ほど探したところ、仁と美夏が寄り添って寝ている姿を発見した。

 マグナガンナーは軽く舌打ちした後、銃に一つだけ弾を装填し、仁に銃口を向ける。そして、躊躇いもなく狙撃した。すると、仁から血が出るのかと思いきや仁の胸に吸盤のようなものが張り付き、そのまま息を失った。そして、マグナガンナーはまた弾を装填する。

 突然の銃声に気が付いたのか、美夏が目を覚まし、マグナガンナーを見る。そして、怯えながら仁を揺すり起こそうとするが、何度かやっているうちに仁が死んでいることに気付き、ショックのあまり腰が抜けてしまった。

「……天野美夏、死んでもらおう」

 マグナガンナーはそう言って美夏に銃口を向ける。美夏は勇気を出して言った。

「何故こんな事をするの?」

 マグナガンナーはスーツの中で美夏を睨みつけ、ささやくように一言呟いた。

「……嫉妬だよ」

 呟いた後、引き金が引かれた。弾が美夏の胸を貫き、血が噴出す。そして、美夏の瞳から生気が失われ、ばったりと倒れた。

「脈の反応なし……死亡確定、と言いたい所だがこいつは死ぬほど嫌いなんでねぇ……」

 マグナガンナーは再び引き金に手をかける。

「念入りに撃たせてもらうよ」

 引き金を引いた。弾が飛んで美夏を身体を貫き、血が噴く。何度も何度も繰り返す。スーツの下では優がこれ以上にない笑みを浮かべていた。

 うるさい銃声が鳴り止み、冷たい沈黙が流れた時、優は笑みを失った。そして、その場から立ち去った。





 夜が明けた頃、仁はビックリしたように目を覚ました。そして、変な臭いを感じて、隣の方を見ると、美夏の身体が真っ赤に染まっていた。

 仁は一瞬何がなんだか理解できなかったが、それがなんなのか分かったところで顔が青ざめた。美夏は完全に死んでいた。何発も弾を撃たれ、血を流して死んだのだ。

「くそっ……こんなになるまで俺は何を……」

 仁は美夏を失った事に対し、悔やみに悔やむ。そして、自分だけが平然と生きている事に苛立ちが生まれた。

 しかし、それもつかの間の心情だった。仁は自分の胸に吸盤がくっついている事に気が付いた。仁はこれがなんなのか知っている。

「ハッタリ弾じゃねぇかよ……!」

 ハッタリ弾、それは人間の心臓を電気ショックで一時的に止め、12時間後、再び電気ショックを送り蘇生させるというトリッキーな兵器の一種だ。

 そう。仁は美夏が死んでる横で平然と生きているのではない。美夏を殺した主に生かされているのだ。それに気付いた瞬間、仁はただ泣いた。



その後、丁寧に美夏を土葬し、手を合わせて美夏へ最後の挨拶をした。虚無感が仁を襲う。昨日、泣きすぎたせいか全く涙が出ない。

 もう、この手で美夏を感じる事ができないのが悔しくて悔しくて仕方ない。美夏のような魅力的な女性の事、美夏との恋の思い出、忘れられない思い出であって、忘れたくない思い出である。

 しかし、どこか辛さがこみ上げて、忘れたくもなった。



 結論、考えない事にした。考えても答えが出ない気がした。



 そして、そのまま仁はその場から立ち去った。仁の瞳は美夏とは真逆の方向を向いていた。
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