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伝説の勇者とめ

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 渚
目次

伝説の勇者とめ

魔王率いる軍勢が島の半分を支配下に置き、この世が破滅へのカウントダウンを始めていた。伝説によれば、人類の危機が迫るとき天から降り注ぐ光で勇者の加護を授かり存在が人類を救うと言い伝えられていた。
そして、人類の危機となった今、天からの神々しい光を浴びた勇者がここに誕生した。

「今日はやけにえぇ天気だねぇ。」

「と、とめさん!あんたんとこだけ妙にお天道さまが眩しいが、何かあったんか?」

「んにゃ。わしにはさっぱりわからんよ。こんな老いぼれ婆にお天道様が降り注ぐなんて、ありがたいことじゃ。そろそろお迎えでも来るんかのう。」

ここは、王都から遠く離れた村シゾーカ。
この村で働く渡辺とめさんは、毎日せっせとお茶畑と苺農園を切り盛りする働き者のお婆さんでした。そんなとめさんに、突然天から眩しいばかりの光が降り注ぎ、数日が経ったある、いつもなら静かな農村であるシゾーカに王都から1万にもおよぶ聖騎軍が隊をなしやって来ました。

「ここがシゾーカか。全員、村中を探し、必ず勇者様を見つけるんだ!」

「「 は! !」」」

軍団長の呼びかけによって、1万の軍勢が伝説の勇者を探しに村中へ散らばって行った。

「勇者さまはどこだ!」

しかし、過疎化が進んだ農村に勇者と名乗るモノがいるはずもなく、聖騎軍は落胆の表情を浮かべ疲れ果ててしまった。

「騎士さん方、どうかなさったんかのう。」

聖騎軍が村に到着し半日が過ぎたが、勇者を見つけることは出来なかった。一刻も早く勇者を見つけ、人類を救うべく助けになってもらわないといけないという事態に、軍隊長は焦りだしていた。そんな軍隊長を見かねた村に住む一人の老婆が、差し入れを持って現れた。
疲れ果てた軍隊長は老婆から渡されたお茶をすすり、一息つくことにいした。

「老婆よ。このお茶は美味いなぁ。」

「お茶はここいらの名産だからねぇ。あたしも小さい頃から茶畑で育ったから。騎士さんあとコレも食べてきな。あたしんとこで取れた苺を使った大福だよ。」

「何から何まで申し訳ない。
お!これも上手いじゃないか。老婆よ、疲れが吹き飛ぶようだ。感謝する。」

「なに、お婆のお節介だよ。たいそうなモンじゃないからもう一個お食べ。」

「では遠慮なく。
ところで老婆よ、最近この村で勇者が誕生したという話を耳にして我々はやって来たのだが、何か知らんか?」

「昨日の夕食は、確か川魚を焼いたモンと山で取れた山菜でお浸しにしたっけかなぁ。
これでも、昨日食べたモンくらいはおぼえちゃいるだよ。」

「いやいや、老婆よ。夕食ではなく勇者ですよ。ゆ・う・しゃ!」

「牛舎は、うちにはないけんど三軒向の宮城さんちのが一番大きいかね。」

「いやいや、牛舎ではなく、ゆ・う・しゃです!」

「牛舎じゃなく風車?風車はここいらじゃあんまり見かけんくてなぁ。」

「老婆よ・・・
では、質問を変えよう。最近この辺りで空から眩しい光が差し込んだことはないか?」

「空から?そういえば、先週くらいに、急にお天道様が明るくなったときがあったねぇ。
あれはなんじゃったろうねぇ。」

「そうです!それです!
それで、その光はどちらの方に降り注いでおられたか?」

「あ~あたしんとこだよ。野良仕事してたら急にあたしんとこだけ明るくなってね~。びっくらこいたよ。そんとき一緒にいたかずさんがあたしんとこだけ妙に明るいからってびっくらこいてたよ。
あ~かずさんてのはね、牛舎のある宮城さんとこの娘が嫁いだ先の家のおいちゃんで、あそこんとこは山持ってるから、時々山菜わけてもらってるんよ。」

「いや、かずさんの話はどうでもいいんですが・・・え!あなたが勇者様ですか?」

「だから、あたしんちに牛舎はないって言ってるっしょうに。」

「いやいや、天からの光を浴びた特別な存在であるあなたが勇者様です。
是非、王都に来て王に閲見していただけないでしょうか。」

「都会に行くんか?あたしが?
そったらバカな事いわんでね。あたしは畑仕事で忙しいんだから、そんな都会に行ったってなんもでけんよ。それに、誰があたしの代わりに畑の面倒みんくちゃならんのよ。」

「今、魔王軍が世界を滅亡させるため王都に押し寄せてきているんです!
是非、勇者様のお力をお貸し願えないでしょうか。」

「だから、あたしは行けんて。
魔王だかなんだか知らんけど、騎士様達がいれば大丈夫ら?あたしら年寄りは畑でうまいもんつくっちゃるから、あんたたちはそれを食べてがんばりや。」

「いや、確かにお茶と大福はうまかったが、それとこれとは話が違うんです。
どうかお力をお貸しいただけないでしょうか。」

「そうだねぇ。力は貸せんけど、お茶は差し入れてやるよ。だからがんばんなさいな。」

「いや、そうじゃなくて・・・」

そんな問答が小一時間続いた頃、大きくも恐ろしい影が二人に近づいてきた。

「とめさん。この野菜はどちらに持って行けばよいのでしょうか?」

「あ~川村さん。それは、是永さんとこの納屋まで頼めるかね。」

「はい。お安いご用で。」

「は!おまえは、魔王軍幹部ガハルア!なぜおまえがこんなとこに!」

「川村さんか?こん人は3日前にこん村来て、腹減ったって言うから飯でも食ってけって。んで泊まるとこないって言うからあたしが面倒みてんのよ。まぁ色々手伝ってくれてるからあたしゃ大助かりだけんね。」

「いやいや、とめさんの美味しい料理とお茶が食べられるならいつまででもいたいっす!
王都まであと少しだったけど、人間滅ぼしちゃったらとめさんの飯食えないって考えたらそれどころじゃないっすよ。だから、魔王軍は全軍撤退して今はみんな大人しく暮らしてるっす。」

「は?」

「だから騎士さん達も王都に戻って大丈夫っすよ。
もう魔王軍はそっちまで攻めて行きませんから。」

「いやいやいや。魔王軍が攻めて来て・・・あれ?
じゃぁ、もう戦争は終わりってこと?」

「だからそう言ってるじゃないっすか。とめさんの手料理が人類を救った的な?
やっぱ勇者様が作る飯は最強ってことで。じゃ、俺はまだ仕事があるんで。」

そう言って、魔王軍元幹部は去って行った。

「あんたたちも都会にはよ帰んな。嫁さんと子供ほっぽらかして遊んでちゃダメだかんね。」

「はい、勇者様。」

「だから、あんたしつこいね。あたしんちに牛舎はないって言ってんしょ。」

こうして人類は、血を流すことなく救われたのだった。
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