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星の髪飾りに導かれて

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 柘榴アリス
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企み

「お父様!どういう事ですの!」
「な、江利香!」
波瑠は後退った。ま、まずい。この先の展開が予想できてしまい、波瑠は顔色が青くなる。
「波瑠を婚約者にするですって?ふざけないで!工藤家との縁談は元々、私にきていた縁談なのよ!」
「江利香。落ち着け。まずは話を…、」
「落ち着け!?これが落ち着いていられるもんですか!何でいつも、いつも…、本当に卑しい根性をしているわね!人の物を平気な顔をして横取りして!この泥棒猫!」
「やめないか!江利香!」
「でも、お父様!」
鬼のような形相で波瑠を睨みつける江利香に波瑠は怯える事しかできない。しかし、意外にも庇ってくれたのは怜二だった。
「江利香お嬢様。それは違います。波瑠お嬢様に求婚したのはわたしの方です。」
「なっ、怜二様!?」
「わたしが彼女に惹かれ、婚約の申し入れをした。彼女はあなたに遠慮して、私の婚約を断ろうとしていた。それを強引に受け入れさせたのはわたしです。責められるのはわたしであって、彼女ではない。」
「っ…、」
「江利香。部屋に戻っていなさい。」
父に命じられ、江利香は悔し気にその場を退出した。

「それでは…、お暇させて頂きます。あなたとお会いできて良かった。」
「…光栄です。」
引き攣りそうになりながらも波瑠は笑顔を保った。
「また、会いに来ます。…そうだ。もう婚約者同士なのですから、波瑠とお呼びしても?わたしのことも名前で呼んで構いません。」
「は、はい…。」
もう波瑠にはどうしようもできなかった。彼は去る間際、じっと波瑠を見下ろした。
「あ、あの…?」
「…いいえ。それでは、また。」
彼は微笑んで屋敷を出て行った。

「何故なのよ!何であんな女が…!本当に目障りな女!ああ、腹が立つ!」
江利香の部屋からはガシャン、パリン!と割れる様な音が聞こえる。次いで、ガンガンと何かを叩きつけるような音もメイド達は震えあがって誰も部屋に入ろうとしない。また、彼女のヒステリックが始まったからだ。こういった時、彼女は誰にも止められない。止めようものなら、その矛先を向けられる。そんなのは御免だった。唯一、止められるのは彼女の両親とそして、
「何事ですか?」
「篠崎さん!」
メイドは天の助けとばかりに瞳を潤ませた。使用人の中で唯一、江利香を止められるのが江利香の執事である彼だった。メイド達は事情を説明し、助けを求めた。
「…分かりました。私にお任せを。君達は巻き込まれないよう暫く部屋には近づかないように。」
「は、はい!」
そう言って、メイド達はパタパタとその場を立ち去った。篠崎はノックをして、部屋に足を踏み入れた。
「江利香お嬢様。」
「篠崎!」
室内は酷い有様だった。鏡や窓は割れ、カーテンは引き裂かれ、クッションも破かれている。ドレスもずたずたにされ、タンスに入っていた物や小物もひっくり返されていた。彼はそっと彼女に近づくと、その手を取った。
「ああ。可哀想に…。美しい御手が赤くなって…、痛いですか?」
チュッと口づけを落とす。そして、舌を這わせた。その官能的な愛撫に江利香は艶っぽい息を吐いた。
「し、篠崎…。」
「お嬢様…。何がそんなにあなたを悩ませているのでしょう?私にお聞かせ頂けませんか?」
「篠崎…。」
江利香は頬を赤く染め、その瞳には欲情の色が走った。そのまま江利香は彼に熱く口づけた。彼はそっと江利香の身体を抱き締め返した。
カチリ、と煙草に火を点け、フーと白い息を吐く。
「それで?何があったのです?お嬢様。もしかして…、また波瑠お嬢様が何か?」
「そうなのよ!」
ガバリ、と起き上がった江利香はシーツに包んだ身体を近づかせて上半身裸の篠崎に詰め寄った。
「あの阿婆擦れ女…!私の婚約者を横取りしたのよ!」
ピクリ、と一瞬だけ篠崎の表情が強張った。しかし、いつものようににこりと穏やかな微笑みを浮かべると、
「ということは…、工藤家の御曹司が波瑠お嬢様の婚約者になったと?」
「そうよ!怜二様はすっかりあの女に誑かされてしまって…、あの女が誘ったに決まってる!それなのに、怜二様はあの女を庇ったりして…、本当に小賢しい女!一体、どんな汚い手を使ったのかしら!」
「…そう、ですか。」
篠崎はぽつりと呟いた。俯いた篠崎の表情は江利香からは見えない。
「きっと、身体を使ったのよ!ビッチで男に媚びを売るのが上手い子だもの。親が親なら子供も子供よね!だって、あいつの母親は男好きで誰とでも寝る様な女だったし、血は争えないのよ。きっと、娼婦顔負けのテクニックで落としたんだわ。」
クッと篠崎は笑った。
「何よ?」
「…いえ。お嬢様の仰る通りだと思っただけです。」
「やっぱり、篠崎もそう思う!?あなただけよ。あの女の外面に騙されないで私の言葉を信じてくれるのは!」
篠崎は感情の読めない表情で微笑んだ。
「大丈夫ですよ。江利香お嬢様。あなたが当主になられた暁にはあんな恥知らずな娘は追い出してやればいいのです。…地獄を見る程の苦痛を味合わせてやりましょう。」
「そう…。そうよね…。」
「あなたを苦しめたあの女を私は許しはしません。…その時は私の手でやらせて下さい。」
「フフッ…、篠崎。あなたは本当によくできた執事だわ。いいわ。あなたに任せる。あいつをぼろぼろに傷つけたら、私の前に連れてきて頂戴。」
「仰せのままに。」
篠崎は江利香の手に口づけた。執事は江利香の手に口づけた瞬間、唇を歪めて笑った。
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