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星の髪飾りに導かれて

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 柘榴アリス
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義姉の縁談

「まあまあ!それじゃあ、その素敵な王子様とお嬢様は恋に落ちたのね!」
「い、いや…。恋に落ちたとかじゃなくて…、ただまた機会があったら話そうって…、」
「きゃー!何て王道なラブロマンス!これをきっかけにお嬢様は恋を育んでいくのね!」
「いや。それは違、」
「お嬢様!私、応援しますわ!」
だから、違うんだってば!と叫ぶ波瑠の言葉を美晴は全く聞いていなかった。パーティーで何か面白いことはなかったかと聞かれ、そういえば今日はこんな事があったと話しただけだ。なのに、何故、こうなった。波瑠は頭を抱えた。
「お嬢様。」
声を掛けられ、波瑠は振り返った。そこには、篠崎が立っていた。
「篠崎。どうしたの?お義姉様から何か?」
「いえ。調理場にお嬢様がいらっしゃるとお聞きしたので。お怪我をしていないかと気になり…、」
「ありがとう。篠崎。でも、大丈夫よ。私は元、庶民だし、こういうのは慣れているの。」
波瑠は調理場の一角を借りてお菓子を作っていた。エプロンと三角巾をしてボールを手にして微笑む波瑠に篠崎は
「本日は何をお作りに?」
「今日は、パウンドケーキを作っているの。完成したら、篠崎にもあげるね。お義父様、喜んでくれるかなあ。」
「きっと、喜ばれますよ。お嬢様の作ったものならば。…おや。お嬢様。」
「篠崎?」
篠崎は波瑠に急に近づき、距離を詰める。江利香の執事を務めるだけあって彼の容姿も非常に整っている。そんな美形の執事はスッと波瑠に手を伸ばした。波瑠の頬を白い手袋越しにするり、と撫でる。波瑠はびくり、と身体を強張らせた。
「失礼。…顔に粉がついていたもので。」
「えっ?嘘!全然、気付かなかった…。ありがとう。篠崎。」
波瑠は頬を赤くして、篠崎にお礼を言った。篠崎は穏やかな笑みを浮かべて、いえ、と頭を振った。
「そういえば…、お嬢様。ご存知ですか?江利香お嬢様に婚約の打診がきていることは。」
「勿論、知ってるわ。お姉様は、たくさんのお相手がいらっしゃるから。でも、まだ特定の相手は決まってないって話だったけど?」
「ええ。けれど、旦那様が遂にお決めになられたそうです。お相手は工藤家の御子息だそうですよ。」
「工藤家の?わあ。いい縁談ね。もしかして、お相手の方ってあの有名な怜二様?」
「ええ。お嬢様も怜二様はご存知なのですか?」
「勿論!工藤家というのもあるけど、私の学校でもパーティーでも令嬢たちの間では有名だもの。ほとんどの女子達が憧れているわ。とてもかっこよくて、頭のいい好青年だって。」
「…お嬢様も他の方達と同じように興味がおありですか?やはり、怜二様のような男性に惹かれるものでしょうか?」
「まさか!お友達が噂してたからたまたま知ってただけよ。それに、名前は知っていても会ったことも話したこともない。ましてや、顔も知らない人よ。よく知りもしないのに惹かれたり、憧れたりするわけないでしょ。」
そもそも、そんな素敵な人が相手にするのは江利香のような女性であって、自分なんかが選ばれるわけがない。そう思った。篠崎の話からするに、工藤家の御曹司がその縁談の顔合わせのために近いうちに屋敷に来るらしい。波瑠はその日を楽しみにしていた。
―工藤家の御曹司、怜二様かあ。いい方だといいなあ。
義理の兄になる人なのだ。仲良くできたらいい。波瑠はそう願った。けれど、義姉が結婚すれば家の相続問題はどうなるのだろう。疑問を抱くがそれはお互いの当主が決めることだ。波瑠が口を出す問題ではない。気を取り直して、波瑠は自分の部屋に戻った。

「フローレンス。そんなに走ると危ないよ?」
ワンワンと吠えて、元気に公園を走り回る愛犬の姿に注意しつつも、波瑠は笑っていた。ポメラリアンのフローレンスは波瑠の飼っている犬だ。大きなくりくりした目とふわふわした毛が特徴的な愛らしい犬だ。遊びたい盛りのフローレンスは楽しそうに駆けずり回っている。波瑠もフローレンスを追って走った。

「中島。ご苦労だったな。この前、調べて貰った例の件だが中々にいい情報だった。」
ぱらり、と報告書を目にしながら、男は部下にそう言った。
「ああ。計画変更だ。何、問題ない。まだ正式には決まっていないのだ。あちらを説得する条件など幾らでもある。…何を言っている。それなら、何度も言った筈だ。目的の為なら、手段は問わない。御堂家と繋がりを持てれば更なる利益を生み出せる。その為なら、書類上の結婚位、してやるさ。どうせ、形ばかりの結婚だからな。」
吐き捨てるように言う男の言葉は氷のように冷たい。電話を切り、男は会社を出た。
「ねえ、ねえ!今の人、すごいかっこよくなかった?」
「うんうん!超、イケメンだったね!」
「声かけちゃわない?」
男が通り過ぎると、複数の女性から黄色い悲鳴が上がる。男は煩わしいと顔を顰めた。面倒な事になる前にさっさとこの場を去ろうと足早に歩を進める。いつの間にか男は公園の近くまで来ていた。こんな所に公園があったのか。何気なく、視線を向ければそこにはポメラニアンと躊躇う女がいた。その女に彼は見覚えがあった。
―あれは、確か御堂家の…。丁度いい。
男は口元に笑みを浮かべ、女に近づいた。
「アハハッ!もう!フローレンスったら!擽ったいってば!アハハ!」
愛犬に頬を舐められ、楽しそうに笑う女の表情は生き生きとしている。じゃれている内に女の髪飾りが地面に落ちてしまった。
「あ…、大変。壊れてないかな?」
慌てて女は髪飾りを拾い、サッサッと髪飾りについた汚れを落としていく。星の形を模った髪飾り…。女はそれを大事そうに見つめて、壊れてないと知り、ホッと溜息を吐いている。女は髪に髪飾りを挿して、愛犬を抱き上げた。
「そろそろ、帰ろうか。」
ワン!と波瑠の声に反応するように犬は鳴いた。愛犬を抱いて、波瑠は背を向けて公園を後にした。男はその様子を微動だにせずに見つめていた。
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