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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

それから

どういうこと?
私、何日あっちの町にいたんだろう?



それから、何もかもが懐かしく感じられ、テレビを付けたり冷蔵庫を開けてみたりした。


もし、もしもこっちの町の日付が進んでいなかったとしたら・・・?


そんなこと有り得ないけど、そうだとしたら。



明日はきっと仕事の日。


とりあえず、人に会ったら何か分かるかもしれないし、現実をもう一度確かめないと。



・・・とてもじゃないが、眠れる気分ではなかったから、その晩はずっとソファに座っていた。



平和町のことを、考えながら。

ユノのことを、思い出しながら・・・。


そうして、とても長かったような一瞬だったような時間は過ぎ、朝日が差し込み始めた。


どうしよう、久しぶりすぎるよ。




ひなのはいつも通りに支度をすると、お弁当を作り忘れて出勤した。


だって、城でご飯が出てくることに、もう慣れっこだったんだもん・・・。






そして、ひなのがメールよりなにより驚いたのは、職場に着いてからのことだった・・・。


「おはよう、弥之亥さん」

「お、おはようございます。お久しぶり・・・じゃ、ない、かな?」



オフィスに着くと、いつもと何も変わらぬ職場だった。



「え、何?もー、寝ぼけてるの?

ほらほら、コピーしといたから、請求書。


これあとで、社長のところに持つて行ってくれる?」

「あ、はい!・・・えっと・・・

すいません、今日って何日でしたっけ?」

「今日は19日でしょ」

「あ、そうですよね!
なんか寝ぼけてますね、私。

ははっ・・・」



ひなのは請求書を抱えると、ぐるっと背を向けた。



・・・やっぱり、日にちはあの日から進んでいないんだ・・・!




「あ、日比谷くんおはよう!」

「おー」


「!?」


ひなのから離れた、一番向こうの席。


「おー」なんていう一言だったのに、ひなのはその声に過剰に反応した。


だって、だって。


「空・・・牙・・・」



待ってよ、どういうこと!?
日比谷君って、そこにいるの空牙じゃん!


え、何、これが夢?
もしかして、人斬りの町が消えたあたりから、夢?


本当はまだ、私平和町で眠ってるとかじゃないよね・・・。

そうだ、絶対そうだよ。おかしいと思ったんだよね!


「あ、弥之亥さん社長のとこ行くの?

そしたらついでに、これも持ってってくれないかな。急ぎなんだけど」


え、空牙のとこに行こうと思ったのに・・・


「日比谷君、ちょっと会議室来てくれる?今日のことで打ち合わせあるの。すぐ終わるから」


あっ・・・ダメか・・・。


「分かりました、渡してきます」


そう答え、ひなのは三枚綴りの紙を受け取った。


健康診断の提出ね。そういえば、この時期だったっけ。



階段を上りながら、何気なく渡された紙を見て、ひなのは突然吹き出しそうになった。



「なに、これ・・・」


夢じゃなかったら、おかしすぎる。

だって、健康診断の所定の病院の、責任者・・・


「眞田 鬼優って・・・嘘でしょ!?」



もー、何なの!?


どういうこと!?夢にしちゃリアルだし、ユーモアありすぎるよ!



コンコンッ



ひなのは心臓をバクバクさせたまま、社長室をノックした。



「社長、おはようございます。これー・・・」



戸を開けたひなのは、その場で硬直した。
手に持っていた請求書と、健康診断の提出書類は、バサバサと床に散らばり落ちた。


「・・・なんだ、ひなの」




「ユノ・・・様・・・!?」


「フッ、いかにも古伊末 有能(こいまつ ゆの)だが」


社長がユノ様なんて、本当デタラメな夢!

夢・・・だよね・・・?


ユノは確かに、目の前にいた。
いつもの白い着物ではなく、白いワイシャツにスーツをまとって。


凛としていて、威厳があって・・・



「ユノ様・・・?ユノ様なんですか・・・!?」



ユノは静かに笑っている。その意味は、分からない。
分からなかったが、ひなのの目の前がうるうると霞んでくる。



「本物・・・?


いつここにー・・・なんでっ・・・」


「積もる話は後にしよう。


それよりひなの、いい所に来たな」



社長室はいたってシンプルで、落ち着いた茶色のテーブルに黒いソファ。置いてある観葉植物がよく映えている。


ひなのはユノに手招かれて部屋に入ると、後ろで戸を閉めた。




・・・ユノ様、ユノ様・・・ユノ様!


スーツ着てて、全然ユノ様じゃないみたいだけど、でもあの目が本物だ。シトラスっぽい香りも、綺麗な髪も、背の高さも声もー・・・!


現実と夢とが、入り混じってしまったかのような感覚。


私はどうなっちゃったのか、本当の世界がどこなのかー・・・
平和町は、どうなっちゃったのか。




知りたいこと、聞きたいこと、沢山あった。ユノ様が夢だって言ってくれたら、これは夢。
でもユノ様が夢じゃないって言うなら・・・それでも、信じられると思うんだ。



・・・ユノ様、今、私になにが起こっているんでしょうか・・・




「人斬りの世は、消えた」

「!」

「ひなの、これは夢なんかじゃない。人斬りの世も消えたが、お前のいた町も消えた。


・・・いや、二つの町は"一つになった"のだ・・・


俺は元々ここの社長だったし、元々ここのに住んでいた人間だ。

この町には、禁断の扉などなかった・・・



そういう歴史だ」



ど、どういうことー・・・


「歴史が・・・変わったっていうの・・・!?
そんなことって・・・!」


(歴史を覆すのだ)



いつか十士郎に言われた、その言葉が脳裏に浮かぶ。



分からない、分からない、分かんないよ!

でもっ・・・




人斬りの世の中があって、私はそこに行って・・・向こうでも、信じられないこと尽くしだった。




世の中は、私の概念で理解できるほど・・・常識的じゃあないんだね・・・。



何があっても、おかしくない世界・・・それが、歴史ー・・・っていうことなのかな。



「積もる話は後だと言ったろう。

社長としてではないが、言っておきたかったことがある」

「なんでしょうか・・・?」


・・・

平和町の、扉は閉まった。
この世から、人斬りの世が消えた。


同時に、平和町を作っていた"念"は人間の町へと流れていった。

いや、元々人間の生み出した念が、戻っていったというところか。



人斬りと人間は一つになった。まるで、離れていたことなどなかったかのようにー・・・。




"無感情"が"愛"を殺して出来た世界で、小さな愛を咲かせた人間がいた。


彼女の名は弥之亥ひなの。
かつて"無感情"に殺された、弥之亥十士郎の遠い子孫。


ひなのが愛した男は、古伊末ユノ。
愛を持つ十士郎を無感情で殺した、古伊末ヤエの遠い子孫。




歴史は逆の路線を辿り・・・

妖刀の魔法は溶けてしまったようだ・・・。




十士郎は、ひなのに言った。


「この世の争いは、人の無関心や無感情が、愛に飲まれた時に終わるはずだ」





この世が小さな愛によって変わり、本物の平和町ができることを願うー・・・。

・・・


「社長としてではないが、言っておきたかったことがある」

「なんでしょうか・・・?」











「俺と、共に・・・一生生きていかないか」
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