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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

別れ

「・・・思えん。

だが、刀の妖気が取れたのは事実。
本来いるはずのない弥之亥十士郎が、我々に見えるのと同じように、この世界も・・・」



バタンッッ



また、扉が開いた。
今度は、血相を変えた鬼優が飛び込んできた。


「ユノ様・・・!」

「鬼優か」

「"扉"が城の門の前に現れました・・・!
それに、僕が行った町の外れの小川に異変がー・・・

城内も騒ぎになっています!下に降りて下さい・・・!
何が起こっているのでしょう・・・!」





それからは、平和町は一瞬にして混乱に陥っていった。
兎にも角にも、避けようのない事態。突然、嵐が来たようだった。


町の端から闇に飲まれているというし、妖刀は次々に皆姿を現し始めてー・・・


十士郎の言っていたことが、言葉通りだったのだと、分かり始めた頃だ。


「ユノ様っ・・・嫌です、私・・・!」


城の目の前に出現した扉に連れて行かれー・・・
扉を目の前に、ひなのはユノの手を掴んで渋った。

別れが来ることは、分かっていたのに・・・


後ろでは、城の中での騒ぎが聞こえてくる。
町から人斬りが沢山、城に駆け込んでも来る。



そんな中、ユノは一人ひなのを扉に連れてきた。


「ユノ様!だって!

まだ一日もたってませんよ・・・!?
ユノ様が、好きって言ってくれてから・・・!


この町が消える意味も分からないし、何も心の準備もなくって・・・!


私っ・・・ユノ様と離れたくないんです・・・!」


ひなのの必死の訴えを聞きながら、ユノの顔は初めて切なくなった。


「・・・ひなの」


ユノはひなのをぎゅっと抱き寄せる。


「・・・いやだよ・・・ユノ様っ・・・どうなっちゃうんですか・・・!?」

「俺達の世界のことは、俺達でどうにかする。

だが、お前を扉から帰すことが先だ」


ユノ様の腕が、心地よいの。何処にいるよりも安心するんだよ・・・

「確かに、まだ一日も経っていない。

だが・・・これは一生分だ」



ユノ様の力が、ぐっと強くなった。
それだけで、ユノ様の身体を通して気持ちが伝わってくる。


言葉なんて、これ以上出てこないよ・・・
嫌だとか、離れたくないとかー・・・

我儘でもいいよ、誰か叶えて下さい・・・!



「さぁ、急げひなの。

扉の端が消えてきている」



・・・本当だ。


・・・全く、最後まで夢みたいなんだね・・・?

町が消える、扉が消えるなんて。


お伽話じゃないんだからさぁ・・・




また、涙が出てくる。



私、泣いてばっかりだね・・・



「ユノ様・・・」



お別れ、なんだね。突然のことでよく分からないけれど・・・


でも、そういう事だよね。



「・・・これが、愛ですね・・・」




私も、初めて知ったような気がするよ。


「これが愛・・・だな。

行け、ひなの。


その昔無感情が愛を消し去ったように、今度は愛が無感情を消し去るだけだ」



空牙、麗憐、鬼優ー・・・

みんな城の中で、騒ぎを沈めるために走り回っている。



ひなのは、城を振り返って三人の顔をしっかりと思い出した。



ひなのがユノから離れた時には、扉の上部はもう消えていた。
確かに、もう行かなければ帰れなくなる。


・・・お別れの言葉。最後の言葉・・・って、何を言えばいいんだろう。

ユノ様の記憶に残る、私の最後の言葉ー・・・


「泣くな、ひなの。愛をくれて・・・

・・・

・・・ありがとう。


・・・俺達を、封印してくれ。もう、誰も殺す事のない世界へとー・・・」

「ユノ様・・・!」


ひなのは、もう無心になろうと決めた。考えたら、帰れなくなりそうで・・・

扉に手をかけると、両開きの扉は呼び寄せるように開いたー・・・



「ユノ様、大好きです・・・」


「俺もだ。


・・・さらばだ、ひなの・・・」

「ユノ様っ・・・!

さ・・・さよならっ・・・!


ありがとうございました!!ありがとうございました・・・!!

大好きですっ・・・!

ユノ様!大好きです・・・!」



最後にユノの微笑みを見納めて、ひなのは消えゆく扉に飛び込んだ。


ユノも、ひなのの背中が一ミリも見えなくなるまで、その姿を両目で見ていた。


「・・・もし、生まれ変わったら・・・


俺は、お前と同じ人間として生まれたい」


ひなのに向けられた呟きかどうか、そしてひなのに聞こえたかも分からないユノの呟きを残してー・・・





禁断の扉は、平和町から消えていった。



どのくらいぶりなのか、日付の感覚がない。


10個の扉をくぐった先は、夜の町だった。


懐かしいな・・・平和町と違って、夜の町には誰もいない。


・・・帰って、来たんだね・・・。

ど、どうしよう。とりあえず家に帰ろうかな。


ひなのは夜道を歩いて、まっすぐ家に向かった。
まるで、あの日の夜のような静かさだ。
ひなのが、平和町に行った日の夜のようなー・・・。



「・・・ただいま」


そんなに長く平和町にいなかったとは思うんだけど、一年くらい家を空けていたような気持ちだよ。



それくらい、全く日常とかけ離れた世界に、行っていたということ。




しばらくの間、ただの物と化していた携帯を充電すると、何通かメールが届いていた。



「懐かしいっ。もう、メールが懐かしいよ、なんか。


梨夕からもメールきてる。



・・・あ、れ」



・・・ん?

んん??



ひなのは、梨夕からのメールを開いて、眉間にしわを寄せて画面を凝視ししてしまった。



内容は、こうだ。

『ひなの、あれから気分どー?
明日の仕事に響かないといいけど。


でさ、次の飲みなんだけど26日は?
今度は、麗憐も来るってさ!
ひなのも空いてたら行こー!

じゃ、おやすみー』




何度か、目を瞬く。
あれ、私帰ってきた・・・んだよね?

え?


麗憐?



どういうこと、え、あれ?なんだっけ・・・梨夕と麗憐知り合いだっけ?

あれ、そんなわけないよね。





梨夕からきたそのメールに、大混乱するひなの。



そして、携帯の日付は19日になったばかり。
ひなのが酔って動けなくなり、人斬りの世界に行った日から、時間が進んでいなかった。
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