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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

鬼優の決断

「鬼優!?大丈夫!?」


しかし、鬼優はなかなか顔を上げてこない。



「・・・く・・・そ・・・!

僕は今まで、何のためにー・・・!」

「・・・!?」


しばらくすると、鬼優は妖刀を乱暴に放り投げた。
村雨は壁にぶち当たり、跳ね返って鬼優の傍に落ちた。


息が荒い。
突然始まったわけの分からない出来事に、ひなのの心臓はただバクバクと波打つばかりだ。



「・・・ひなのさん・・・」


少しすると、ひどく焦燥しきった様子で、鬼優はその口を開いた。


「・・・ずっと、僕が思ってきた野望。



僕が殺したかったのはー・・・



君だった・・・」



優しい鬼優。
そんな彼の口から告げられたのは、残酷な一言だった。



・・・え・・・

・・・私・・・?


待ってよ、私何かした・・・?

何もしてないよねぇ、鬼優。
だってあなたと会ったのも、最近じゃないー・・・!


「ずっと・・・君を殺したくて生きてきた・・・!!

ずっと・・・!!





・・・でも・・・




・・・」

(・・・ありがとう・・・本当に。ありがとう、鬼優)


(鬼優らしいって。

それは、優しいってことでしょう?)

(それでも、鬼優を怖がったりはしないです)




「・・・出来なかった・・・」

鬼優が、私を狙う理由なんてー・・・

全然分からないよ・・・!


「鬼優・・・私分からないよ。鬼優を苦しめるようなこと、したかな・・・」


「・・・本当は、ひなのさんは何もしていないんです」



鬼優はその後側の椅子に腰掛けると、静かに話しを始めた。

自分を殺したいと言われたのに・・・

ユノ様の刃を受けた後だからかなぁ?
私、こんなにも落ち着いて、この人の言い分が聞けるのは。


「・・・人斬りなら誰でも望むものを、知っていますか?」

「え、なんだろ・・・強い妖刀とか?」

「その通りです。"最強"を望みます。

妖刀には二人の使い手がいて、その力が一つとなった時に、その妖刀は最強だと言われるんです。


・・・僕の夢も、それでした。

村雨にも、僕の他にもう一人の使い手がいたんです」


うん、そこまでは理解できる。



「しかしある日ー・・・


彼女はユノ様によって殺されました」

「・・・!」

「人斬りの世は、弱肉強食の世界です。彼女が力不足で斬られたことは、仕方のないこと。

でも、僕にとって・・・

彼女が殺されることで、僕の夢は閉ざされたー・・・一生、どれだけ努力しても叶わないものとなりました。



・・・それでユノ様を恨まない僕じゃありません。
言ったでしょう、僕は優しくなどないと」



そんな・・・。


ひなのには、その気持ちは到底理解できるものではなかった。

"最強"など望んだこともない。
これといって夢を持ったこともなかったし、当然それが閉ざされた経験もないのだ。



でも、それを告げる鬼優の表情から、悔しさは存分に伝わってくる。



「ユノ様を斬るよりも、ユノ様の最強への道を断ちたかったー・・・


同じ気持ちを味あわせないと、僕の気持ちが爆発しそうでー・・・

この世に絶望しそうでならなかった・・・

だから僕は、八龍の使い手が生きているなら、かならず殺そうと決めていたんですよ。



そしてー・・・あなたが、この町に来た」


・・・あぁ、そういうこと・・・


私の立場を恨んでいたんだ、この人は。

「でも、ほんの数日しかひなのさん、君といる時間はなかったけれど。

僕は君のことが殺せなかった。

・・・不思議な人ですね」


も、不思議なんかじゃないよ・・・そんなの。


「全然、不思議じゃないよ。それは私に理由なんかない。

ただ、鬼優が優しかっただけ。そうでしょう?」


「・・・え?」


鬼優はそんなひなのの答えに、一瞬で拍子抜かれたような顔になる。


「僕の話、聞いてました?」

「ちゃんと聞いてましたよ、失礼な!ちゃんと聞いた上で、鬼優は優しいって言ったんです!

・・・だって、私には分からないもの。ずっと願ってた夢が、閉ざされちゃう感覚なんて。

でも・・・もし私が、もう二度と自分のいた町に戻れないってなったら・・・それが誰かのせいだとしたら、許せないかもしれないって思ったんです。


"殺そうとした"のが事実だとしても、"殺さないでいてくれたこと"も事実。
村雨を止めてくれたのも、鬼優だったもん・・・」



なんでだろ。鬼優こそ不思議な人だよ。私は全然、鬼優を許せちゃうんだ。


「・・・そんなことを、言われるなんて・・・。

・・・ふっ。それでは、もう僕はひなのさんを傷つけられないじゃないですか。


・・・でもそれじゃあ、僕の黒い恨みは晴れないんです・・・!」




足音が、聞こえてきた。
今この状況。来てはいけない人が、ここに来ようとしているような・・・


ガチャ・・・


「・・・ここにいたのか」



今度は手傷一つ負わずに、険しい顔つきのユノが帰ってきた。



「・・・やはり、彼らじゃダメでしたか」

「何の話だ?」

「僕の免疫、分けてあったんですけどね。

あなたに傷一つくらい負わせてくれていたら、僕の仕事も少し楽になったのに・・・」



・・・どういうこと、鬼優!

「あなた、ユノ様を・・・狙わせたの!?」

「ユノ様、あなたが殺したあの男は、あの後僕が復活させました。

そして今夜再度、足止めさせるつもりでしたがー・・・」



ユノは、突然のことに理解が追いついていないようだ。
いつもの鬼優じゃない男が、そこにいる。



「こうなったら、もう手はない。


僕はー・・・直接あなたを斬る!!」


「!!」
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