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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

ひなのの力

「しっかり持っていろ。この刀は、今は誰にでも見える、ただのさびた刀だ。
だがここにお前の力が入ることで、八龍となる」


「は、はい、分かりました!大丈夫です!やって下さい!」


重い!重いから早くして!



ひなのの顔が、そんなに必死だったのか。
ユノはスッと片手を伸ばすと、ひなのが持つ刀を、下から支えた。


・・・わ、ユノ様すごい力・・・
触ってるだけみたいなのに、私全然重くない!


「取り落としても困る。・・・支えているから、このままやるとしよう」


・・・何それ・・・やっぱり、優しいじゃん本当に。



「ユノ様、準備できましたよ」

「あたいもOKです」

「・・・完了」


服部という男が、ひなのの左でボソッと最後を締める。



「・・・既に随分と、念が来ているようだ・・・

三人共気をぬくな、しっかりと押さえ込め」


念が来ているとか、全く分かんないけど大丈夫かな・・・


「では始める。

ひなの、気持ちを落ち着けろ。
お前の中にある"愛"とやらを、刀に閉じ込めるんだ」



うっ・・・わ、何・・・?!



急に四方から、なんだかとてつも無い圧力で、グッと体が押されてる・・・!
あったかいというか、熱いというか・・・!



「力とは念であり、念とは想いだ。

愛をイメージしろ、ひなの。お前が思い描いて、手に力を込めるんだ」



えええっ、何そのアバウトな感じ・・・!


イメージ?イメージすればいいの・・・?



えっと、愛をイメージ・・・


愛をイメージ・・・!!

・・・




『・・・お帰りひなの、ちょうどご飯できた所よ。今日はテストどうだった?』



『今日は仕事が早く終わってな。ケーキ買ってきたぞ!世間も給料日だし、混んでたけどなぁ。

どれがいいんだ、ひなの』





真っ先に浮かんだのは、両親だった。

マイペースで穏やかな母と、ゴツいけど明るくて働き者の父。


『ねーちゃん、一人暮らしすんの?無理じゃね!料理出来ないじゃん!』


そして、小生意気でうるさくて、食べ盛りの弟。



弟の学校の関係で、三人は別の町に引っ越して暮らしてる。


休みに入ると、何度か遊びに行っていたものだ。もう実家は売ってしまったけれど、向こうの家も家族がいるから、居心地抜群だ。


会いに行くと、いつもアパートに帰りたくなくなっちゃうんだよなー・・・



・・・行きたい・・・


行きたいな・・・






「・・・!!」


ひなのが自分の世界に入っている時、ユノはひなのから物凄い力がみなぎるのを感じた。


(・・・これは・・・!何だ、この力は・・・)





次々に、友人の顔や親戚の顔も浮かんでくる。
飼ってたハムスターと金魚。

昔好きだった男の子達。




・・・あぁ、私って恵まれてたな。

愛をイメージしろって言われたら、こんなに沢山出てくるよ。
私が愛した人、そして
愛を、くれた人達も。


酔った私を連れ帰ってくれた梨夕、鍵を見つけてくれたおじさん・・・




・・・それから、そうだなぁ。
愛と言ったら、十士郎さんかな。


「・・・くっ、空牙、なんなんだよこの力・・・!」

「俺が知るかよ!・・・押さえ込め、外に漏らすな!」



麗憐も空牙も、必死だ。
何をしてくれているのか、ひなのには分からない。

でも多分、ひなのの力とやらを、結界のように閉じ込める役・・・をしてくれているんだと思う。




・・・あぁ、なんか良くわかんないけど、私のために今頑張ってくれてる。


こんな世界に連れてこられて最悪だと思ったけど、訳あってきたわけで。

斬らずに連れてきてくれた空牙・・・朝のお茶菓子、すごい美味しかったよ・・・



最初は暴力に合わされたけど、今や姉御肌の麗憐。
一番に、少しかもしれないけど愛を分かってくれた。


それに、私がここにいても危害を加えてこなかった、人斬りの人々。




そしてー・・・




ひなのは閉じていた目を開けた。
かなり深刻そうな顔のユノがいる。



ユノ様。なんだかんだ私、ここに来てから、ユノ様に一番愛されたのかも知れない。


教えなきゃいけなかった私が・・・
逆に、教えられてしまったのかもしれないなー・・・



おかしいな。
特別な事されたわけでもないし、むしろ人斬りなんていう、最悪の町に放り込まれたのに・・・
ユノ様だって、愛を持っていない人なんだよ?


それなのに。




支えてくれている手が、暖かいんだ。


好きって、こんなだっけ?
恋愛の好きとは、違う気がするけど・・・

でも、ユノ様と一緒にいたいって思うのは本当。


「・・・なの・・・」

「・・・の・・・ひなの!」



ハッ

として、ひなのは我に帰った。
周りの圧力は消え、まどから入ってくる冷たい風に冷やされる。



ユノ様はなんだかまゆをひそめていて・・・

麗憐は跪き、空牙も前かがみに腰をかがめていて、かなり疲れ切った様子だった。



「終わった」


ユノのその一言。
ひなのが手を見ると、なんとそこにはさびた銀色の刀はなく、赤い柄の細長い刀があった。





・・・【八龍】

「・・・わ・・・わぁ」



やった・・・できた!出来たんだ・・・!良かったぁ!



「ユノ様、ありがー・・・」




礼を言おうとしたひなのは、言葉がすっ飛んだ。
ユノはニコリともしておらず、血相を変えて刀を引き抜いたではないか。

・・・ひなのを、凝視しながら。



「ユノ様!!」


麗憐が叫ぶが、ひなのの足は動かなかった。


・・・えっ・・・?!何、私失敗した?
ダメだったの?なんで怒ってー・・・



わけも分からない中、ユノの刀がしなやかに弧を描きー・・・


「きゃっ・・・!!」

「ひなの!!」
「ユノ様!!」





そう叫ばれたが最後。



激痛と衝撃がほとばしり、目の前が真っ暗になった・・・。

それはほんの一瞬の、出来事だった。
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