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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

平和町

「でも、今まで私もユノ様も、それを目指してきたのに・・・!」

『そうだろう。

だが、よく考えてみるが良い。
ユノはともかく愛を分かるお主なら、理解出来るはずだ。


・・・"無感情"の者が、"愛"を覚えるとどうなるのか?

そもそも、"愛"を覚えた者は、"無感情"ではなくなるわけだ。


"無感情"でいる限り"愛"はないし、"愛"を覚えれば"無感情"ではなくなるー・・・


つまり矛盾というやつだな。"無感情"と"愛"は、一個体になり得ないのだよ』



・・・う・・・わ。
確かに、そう言われれば・・・


・・・そう、だよね?



ユノ様が愛を手に入れたら、ユノ様は無感情では無くなるんだ。



「・・・えっと、ごめんなさい。
よく分からなくなってきちゃった。


つまり、ユノ様は"無感情"と"愛"を手に入れられない。
最強にはなれないってことですか?」

『確かに、二つの力を得ればより強くなれる。だが、八龍に関してはー・・・

事実、二つの力を得るのは不可能だからだ。


しかしそれは、愛を知らないユノには、分かる話ではない。


だから、お主に話したのだ』


「・・・じゃあ・・・

私はどうしたらー・・・今まで、ユノ様に愛を教えようと必死だったんですけど・・・」


『歴史を覆すのだ』


歴史をー・・・


「覆す・・・?!」

『わしとヤエの事は、お主も聞いたであろう。

ヤエは愛の力を恐れ、わしを殺した。それからというもの、"無感情"は"愛"に勝ってきたのだ。


そして、今の人斬りの世の中が出来た。
わしは、本来なら愛が無感情すら飲み込み、負の念も飲み込んでー・・・
平和な町になる事を願ったのだよ。


この町の名前は、わしが付けた』


「・・・!

平和町・・・ですよね。

変だと、思ったんです。人斬りがいて、全然平和じゃなさそうな町なのに、その名前だったから」

『この世の争いは、人の無関心や無感情が、愛に飲まれた時に終わるはずだ。


・・・"愛"が、"無感情"に勝らねばならんのだ』



・・・私の力が、ユノ様に勝る・・・ってこと?



無理!!無理だよ無理!!


「無理ですよ!ユノ様、すごく強いんですよね?!
だって、空牙が三人いても敵わないって・・・!」

『戦えと言っているわけじゃないのだよ。



だが刀を、もらうといい。

ユノはいい顔をせんかもしれないが、そうすればお主がどの程度愛の力があるのかが、測れるだろう』



どう考えても、八龍をくれるとは思えないんだけどー・・・


『お主のような子孫が、ユノと出会ってくれて良かった。

わしもヤエを愛で飲み込もうとしたが、その努力実る前に殺されてしまった。


それでも、彼女を愛している』

「・・・!!」

『殺されることを分かりながら、わしは彼女に刀は向けられなかった。


だが、愛は弱くなどない。


・・・ひなのよ、覚えていてほしい。忘れないでいて欲しい。


残忍な人斬りと呼ばれる者達の先祖には・・・

平和を願う、愛を持った男がいたことをー・・・』


「・・・はい!」

『時間だ』


・・・え。


ちょっと待って待って!



待ってー!十士郎さん!!



・・・あれ、何だろこの感じ・・・

意識が・・・


え?なんだろ、今のは夢なの・・・?



なんか意識が、戻りそうだよ・・・


眩しい・・・




朝ってこと・・・?





「よっ」
「ぎゃ!!」




夢らしくない夢から覚め、薄目を開けたとたん、横に座る空牙の姿が飛び込んできた。



「何だよ、その驚き方」

「ご、ごめん・・・おはよう。
あれ、なんで私の部屋に・・・?」

「これ、渡そうと思って」



ひなのは瞬きを繰り返し起き上がると、空牙が差し出している包み紙を見つけた。


「何?これ」

「茶菓子」

「・・・はぁ、茶菓子。どうしたの?」

「昨日、俺に飲み物買ってきたじゃん。
何かしらんけど、麗憐は俺にまでソフトクリーム買ってきたし。


それがひなのの言う愛ってやつなんだろ?
そうやって・・・人に何か買うことも、良いモンだなって思ったんだよ。
俺も、試してみたくなっただけ」



嘘・・・!空牙まで!


「空牙は、そんな事しないと思ってた・・・何ていうか、いつもサッパリしてるし」


人斬りの世にはね、何かを買ってあげるとか、そのお礼をするとか、そんな文化はないらしい。


十士郎さん。ほんの少しだけど、周りの人斬りは変わりつつあります。


「ありがとう、空牙。すっごく嬉しい」


・・・嬉しい。


こうやって、少しずつでも変わるのかな?


空牙が立ち去り、ユノと朝食をとった後。
ひなのは、夢の事を考えるため、部屋にこもることにした。




あれは、きっとただの夢じゃない。
だって、十士郎さんの言っていることは、正しかったもん。


ってことは、ユノ様に八龍をもらわないといけないんだよね。



・・・そっか、ユノ様にそれを話さなきゃいけないんだ、私。




コンコンッ。



「あ、はーい」


部屋のノックに応えると、ヒラリとユノが入ってきた。


「しばらく部屋にいると言っていたところ、すまない」

「あ、いえ。どうしました?」


ユノ様って、謝ったりするんだ・・・

「空牙を探していたんだが、ここにもいないか」

「空牙なら買い物行くって言ってましたよ」

「・・・そうか」

「あ、ユノ様今時間あります?

良かったら、これ一緒に食べませんか?朝、空牙がくれたんです」



ひなのはテーブルの端に避けると、ユノの席をあけた。
ユノは数秒後、黙って隣に座った。





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