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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

宮古寺

「わっ」


まただ・・・!!


「どうした?」
「・・・いや、なんでも・・・」


『待っていたぞ・・・。


50年・・・100年・・・200年・・・もっとだ・・・』



「・・・!」



ひなのの足は立ち止まった。
建物の中から、吸い込むような風が吹いてくる。



やだ、行きたくない・・・!!



着いてこないひなのを、ユノが振り返った。


「来ないのか」

「あの・・・こ、声が・・・」

「・・・」




なんだろう。前に聞いた時と、同じ声・・・


「・・・声、か」

「何ですか、これ・・・ここに来る前にも、聞こえたんです。

呼ばれた気がして・・・」

「なるほど、八龍に選ばれし者、か。来い、ひなの。怖がることはない」


ひなのは小さく深呼吸をする。
・・・もっと、もっと何か言って欲しいよ。
ユノ様が大丈夫だと言うと、本当に大丈夫な気がするから。


「・・・何も、ないですか?本当に何も起こらない・・・?」

「大丈夫だ」



スッと、向こうでユノが手を差し出している。ひなのは走って行き、その手を取った。


冷たいはずの白い手が、この時ばかりは暖かく、そして大きく感じた。

中に入ると、隙間から漏れる光だけに照らされ、静かな暗い空間があった。

古い宝物庫のような、色々な物が置いてある。



「・・・見ろ、この台座を」

「・・・何ですか?」


四角い、真っ黒い石が置いてある。



「その昔、人は皆人だった。人斬りなどいない時代だ。

刀が盛んに造られた頃のこと。

人々と共に生きた刀には、やがてその人の"感情"が宿るようになった・・・」



ひなのはユノの腕にしがみついたまま、石の文字を目で追うが、にょろにょろしていて全く読めない。


そういえば昔、おじいちゃんとかおばあちゃんとか、こんな文字書いてたっけ。
つまり達筆すぎる人の字だ。


「ここを見てみろ」
「・・・?う、ん。読めないな・・・

弥・・・卑弥呼?」

「何を言っている?

よく見ろ、弥之亥と書いてあるんだ」

「え・・・!?」


ひなのは飛びつくように、示された箇所を見た。


うん、読めないけど、そう言われたらそうかもしれない。



・・・って、どういうこと・・・?!



「弥之亥って・・・どうして・・・?偶然・・・!?」


身震いがほとばしる。どういうことなの・・・?



「・・・偶然ではない。

ここにある名前、弥之亥 十士郎(やのい としろう)は、初めて妖刀【八龍】を手にした男だ。


愛に溢れた男だったと言う・・・八龍の力は、この男から得たものだ。



お前は、おそらくその子孫にあたる。


・・・だからここに連れてきたんだ・・・弥之亥ひなの」

・・・!

・・・え、何・・・?

もう一回言って、全然分からないよ!


「私の先祖?何でこんなところに名前が・・・?

え・・・八龍に力を与えたって・・・?どういうこと?何?」



ユノを掴んでいた手を離し、大混乱するひなの。ユノは小さくため息をつくと、そばの台に腰掛けた。



「・・・昔の話だ。だが、事実であり刻まれた歴史だ・・・


その昔、立ち込める"感情"や"念"は妖気となり、やがて刀に取り憑いた・・・。



その男は妻にその刀を渡し、女の"念"も力となった。



・・・その女の名も、ここに記してある。

古伊末 ヤエ(コイマツ ヤエ)。俺の遠い先祖だ)」



・・・!ユノ様の・・・!?


・・・じゃあこの刀は、私の先祖とユノ様の先祖が、作り上げたということ・・・


それが・・・本当に、本当なら。



「わ、私は本当に、この八龍の使い手なんですね・・・?」

「言ったろう、そうだと」

「・・・その、弥之亥 十士郎という人が、愛を持っていたんですね」


「そうだ。そして、女の古伊末 ヤエが、"無感情"の力を宿していた」


私と、ユノ様と同じー・・・!



「八龍は最初の妖刀、最強の妖刀だった。無感情と愛が一つに合わさることで、得た力は最強だった。

だがそれが崩れたのだー・・・




ヤエが、十士郎を殺すことでな」

「・・・え

・・・え・・・?!」


「そう記されている。

その後、古伊末、そして弥之亥は代々八龍の力を受け継いだが

いつの代も力が合わさることはなかった。


やがて弥之亥は平和町を抜け、刀を捨てて暮らすようになったらしい。



それからは、ここに愛はなくなり無感情が支配してきたー・・・今も尚だ」


今も尚。それは、ユノ様自身の事。

でも、それじゃまるでー・・・


「まるで、それじゃあ、私は"戻ってきた"ような話ですね・・・?


弥之亥は、戻ってきたと・・・」




・・・やだ、自分で言ってて怖くなってきた・・・!
怖いよ、そんなわけわかんない、運命みたいなこと・・・!



「・・・泣いてもいいが、事実は変わらん」


ユノの声が静かに響く。


「俺は初代の頃から、一度も成されなかったことをする。

無感情と愛とを合わせ、最強を手に入れるんだ」



・・・それが、ユノ様の夢。野望、か。


でも、そのためには私は無関係じゃいられない・・・そういうことだよね。


「私は、どうしたら良いのでしょうう」

「俺に愛とやらの力をくれれば、約束通り向こうに帰す。それだけだ」

「・・・。
ユノ様、ユノ様は人を好きになったことがありますか?」

「ないな」

「では、大切に思ったことは?」

「ない」



・・・やっぱり、難しいよ。
ユノ様が愛を感じるためには、この人に好きになってもらわなきゃいけないんだよ?


「・・・ユノ様は、愛とはどんなものだと思いますか?」

「さぁな・・・。

だが、食事をしたり出かけたりすること、そして何かを買ってやることが愛だと聞くと・・・


一人では感じられないものだ、ということは分かった。

だから、お前が必要だ」


「・・・ユノ様、私には説明が難しいです・・・
教えてあげたいけれど・・・

どうしたら愛を感じてくれますか・・・?私はどうしたらいいんですか・・・?」

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