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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

帰らない夜

「・・・ユノ様?」




空牙は出立する報告に、ユノの部屋を訪れた所で、その小首をかしげた。



ユノがいない。
いつも夜の11時から零時までは、席を外さないことになっているのに。


というか、ユノに仕えてこの方、この時間にユノが部屋にいないのは初めてだった。

いつも町へ出て行く人斬り達を、班体制で把握する役目があるからだ。





不思議な予感が働いた。
・・・ユノ様に、何かあったのではないか?




ドンドンドンッッ!!



随分と長い事、麗憐の家にいてしまった。
ひなのが眠くなってきた頃、家の木造扉が、壊れるくらいの勢いで叩かれた。


その直後、再びといえば良いのか・・・空牙が飛び込んできた。



「なんだ、またお前か」

「麗憐、お前の班員を町に出させて良いか?」

「構わないが・・・どんだけ焦ってんだ、ガラにもねーな」

「ユノ様が帰ってこない。俺が探しに行くから、代わりに班員を借りたいんだ」



空牙の様子からすると、今ユノ様が帰っていないのは、大事件らしい。


麗憐の顔も硬直した。


「何だって?!あたいが行くさ!探しに行く!」



麗憐は今にも布団を剥ぎ取って、飛び出さんばかりだ。



「待って、そんな体じゃ無理でしょう!」



ひなのは急いで布団ごと、麗憐を抑える。



「ユノ様に何かあったら・・・!」

「お前に来てくれと言ったんじゃない、班員を借りると言ったんだ。

城じゃ班員達が混乱してる。とりあえず、俺が全部指示出してきた所だ。



いいか、今のお前は足手まといだ。俺は行く。


・・・城に帰るなら、さっさと帰ったほうが良いよ、ひなの」

ひなのと呼ばれたのは、初めてだった。
しかし、今はそれどころじゃない。



「ユノ様は、夜間の巡回に出てるんじゃないの?」

「そうだよ・・・でも23時までには、いつも必ず戻るんだ・・・必ず。
もう半を過ぎてるからな。


ユノ様に関してはあんまり心配いらないけど、でも俺達はユノ様に仕える者。
あの人に何かあっては困る。


ひなの、もっかい言うけど早く帰りなよ。帰らないなら、外には出ないでここに泊まりな。


こう言う夜は、あまり外をうろつかない方がいいから」




心配、してくれているのかな。
きっとそれは、この人達の大切なユノ様が、私を必要としているから・・・その理由で。



「うん、帰る。もう遅いし・・・麗憐、ありがとう。お大事にして体、早く治して」




とりあえず、これ以上ここにはいない方がいいらしい。
ひなのは空牙と共に外に出ると、彼とは真逆にひとっ走り。




城にたどり着くと、確かに。
城の中は結構な騒ぎになっていた。



あまりピンと来ていなかったのだが、あの人が帰らないのは本当に一大事らしい。




どうしよう。とりあえず、昨日当てがわれた小部屋で、待機していようかな。


私の部屋って言って、小さな部屋をくれていたから。





・・・しかし、夜中の2時を回っても、ユノや空牙は一向に帰ってきた様子はなかった。

さすがに気になって、ひなのは何度も部屋の外へ出たけれど、仕事から帰った人斬り達がバタついているだけだ。





・・・どうしよ。


結局、何もない部屋にまた舞い戻る。



・・・何だろ・・・

このままあの人が帰らなければ、私はー・・・

愛を教えるなんて決まりも取り消しになって、うまく行けば帰れるかもしれない。


だけど、本心からそれが願えていない。
心配している自分がいる。

・・・おかしいよね?






うん、おかしいよ。






帰って来なければ、それでいいのにー・・・




「でも・・・

早く帰って来てよ・・・麗憐も空牙も心配してたよ。


私だって、置き去りにされてもどうしていいか分かんないよ・・・」




ひなのは混沌とする矛盾を胸に抱えたまま、いつの間にか眠っていた。






・・・コンコンッ



・・・ガチャッ

「・・・ほらね、ここに居るって言ったじゃないですか」



ガチャリと引き戸が開けられ、空牙が一番に顔を覗かせ、中にいるひなのを確認。

その後ろからユノが、再びそれを確認した。



「・・・あぁ、そうみたいだ。

もういい、空牙。昼に備えてくれ」




空牙は返事をするとそのまま去っていき、ユノは部屋に入って静かに戸を閉めた。


午前3時近くのこと。




「・・・寝ているのか?」


見るからにグーすかと、可愛げもなく口を開けて寝ているが、ユノは一応声をかけてみる。


起きるはずもない。



「・・・見れば見るほど、ただの人間の女だ・・・

八龍よ・・・本当に、この女に力があるのだろうかー・・・」



「うっ・・・」



ぐっすり眠っていたはずなのに、ひなのは突然夢から引き離されたかのように、ピクッと動いた。


「ちょ、待って・・・き・・・

斬らないでーー!!」



あまりにも勢いよく飛び起きすぎて、脳みそが三回転くらいしたかもしれない。


「あ・・・あれ・・・え?」

「・・・起きたか」

「ユノ様?!」


ひっくりしたひなのは、高速瞬きを披露した。

ユノ様がいる!


「いつ帰って来たんですか・・・?!」
「今だ」
「今?今何時ですか?・・・わっ、もうこんな時間?!

私待ってたのに寝ちゃって・・・!

心配してたんですからね!どこに行ってたんですか?!」



いっきに喋り出すひなのに、ユノはあっけに取られた様子。


「・・・フッ」



ひなのは両目を擦った。


目を覚ますため。


・・・ユノ様、今笑わなかった?
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