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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

冷酷な歓迎

「おい、ちょっと」



「!!!」


背中が、恥ずかしいくらいに、ビクッと動いた。


「ちょっと、シカトしてんじゃねぇよ」


声は明らか女なのに、ひどく口の悪い言葉が背後から飛んでくる。


ひなのは、振り返らなかった。



違う。違う違う違う。私に話してるわけじゃないよ、絶対。・・・ねぇ、早く帰ってきてお願いだから!!



「おい、お前に話しかけてんだよ、人間!」

「痛っ!」


突如、頭に激痛が走った。
背後からむんずと髪の毛を鷲掴みにされると、顔を後ろに向かされたのだ。



そこにいたのは、昔の日本人のような、黒髪をアップしている女だった。

真っ赤な着物、真っ赤な唇、真っ白な目。


「こっちこいよ」


「いたたっ、痛い!」


女は何故かとんだお怒りのようで、髪の毛を掴んだまま、まるで奴隷のようにひなのを歩かせた。

引きずられるようにして、店と店の間の狭い道に連れて行かれた。



・・・最悪、もう何なの!



女は突き飛ばすようにひなのを離すと、ひなのはドンっと壁に背を打った。


「・・・何するの・・・?」

「お前なぁ、なんだか知らないけど、ここに来る許可が下りたみたいじゃねーか。
一体何をした?空牙(クウガ)を操ったのか?

人間のくせに生意気な!!」



ドンッ!!


もう一度、肩を突き飛ばされて壁に背を打つ。



「あなたは何を怒っているの・・・?

何だか分からないのは、私の方よ!
来たくて来たわけじゃないんだから!」



ひなのも、負けじと叫んでしまった。


あれ、案外怖さってないのかな。
私って、実はすごく勇敢なんじゃない?



「黙れ!!お前みたいなやつが平和町にやってきて、人斬りのあたい達が斬ることを許されないなんて!

空牙に護衛されて、ユノ様の元へ行くなんて、この身の程知らずが!!


お前なんか、あたいがここで切り裂いてやるッ!!」



クウガとかユノサマとか、そんなの知らないよ。どうせ人斬りでしょう!

・・・でも多分、護衛・・・ってことは・・・
今こんな危険な状況の中、のんきに飲み物を買っているあの男が、空牙って名前なのね。


それで私は、空牙に連れられてその、ユノ様とか言う人斬りの元へ連れて行かれる・・・と。




切り裂いてやる、と言う割に刀を見せない女。
というか、刀持ってないんじゃない?


「私を斬ったら、あなた怒られるんじゃない?

そのー・・・空牙って人に」


「・・・!あんなやつに怒られようが、そんなことどうでもいい!」

「そうかよ」

「!!」



ひなのと女は、路地の入り口を振り返った。
片手に缶コーヒーを持った男が、着物をはためかせながら立っているではないか。


「遅いよ・・・!」



ひなのは、思わずそう訴えた。


「空牙・・・!お前、本当にこいつをユノ様の元へ連れて行く気か?!」

「あぁ、うん。そうだけど」

「人間だぞ!本来ならとっくに斬られているはずの、忌まわしい血の女だ!」

「でも、連れてくことになったんだから仕方ないだろ。
邪魔するなら君でも斬るけど、麗憐(れいれん)」


女はしばらく空牙を睨むと、さらに冷たく殺意のある眼差しで、ひなのを睨みつける。



こんなに悪意を持って、人に睨まれたことなど今までになかった。


血の気の無い乳発色の瞳。
濁ったグレーの瞳孔。



・・・悪意のある目を向けらるって、こんなにも・・・
なんて言うか、こんなにも苦しいんだ・・・


私何もして無いのに・・・!



しばらくすると、麗憐と呼びにくい名前で呼ばれた女は、あからさまに強い舌打ちを残し、その場を去っていった。


「さ、じゃ行こっか」


そして、まるで何事も無かったかのように、男ー・・・空牙はくるりと背を向けた。


いいところで登場したわりに、まるでヒーロー感がない。


もっと、カッコつけてもいいのに・・・。

と、そんなことすら思ってしまった。


「あの、名前」

「え?」

「空牙(クウガ)って、あなたの名前?」

「・・・そうだけど。火々谷 空牙(ヒビヤ クウガ)。君は?」



そっか、そういえば名乗って無かったよね、お互い。


「弥ノ亥 ひなの・・・20歳」


この人は、何歳なんだろう?
ちょっと歳上に見える。26とか27とか・・・そのくらいかな。



「ふぅん。俺は18歳」

「え!!!」



いやいや、待ってそれはない!

こんなに大人っぽい風格で、神妙ないオーラで・・・歳下ってことある?!


「人斬りって、私達と歳の数え方違うの?」

「んなわけないじゃん、化け物じゃないんだからさ。俺だって、君が歳上だとは思わ無かったよ」



うわー・・・そうだよね。


「どうせ童顔だもん」

「まぁ、老けて見られるよりいいでしょ?」

「それはそうだけど・・・あなたが歳下なのが、信じられなくて」


なんて言うかー・・・
見た目もそうだし、歳下なのにって言ったらあれだけど・・・

こんな歳で、人斬りをしなきゃならないなんて。



この人は、何を思って生きているんだろう。



不思議なんだよね。
この人の後ろを歩いていても、何も感じないの。


若さも、生き生きしている感じも・・・。




「まぁ、君達に比べたら、そう見えると思うよ。だって生き方が違うんだから。

・・・さ、もう着くよ」




・・・何故だろう。
そう言う彼の背中から、その時だけー・・・

哀愁のようなものが、感じられた気がしたー・・・
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