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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

オンリー・グッバイ・イズ・ライフ

「帰るぞ、シン。」
満面の笑みを浮かべるルフィの口から発せられたその言葉に、シンは何度も何度も首を縦に大きく振って答える。
“帰る”なんて言葉を、初めて掛けられた。
そんな暖かい言葉を、初めて知った。
涙は枯れる様子もなく泉のように湧いて溢れ、それを見たルフィ達の表情には柔らかい笑顔が浮くばかり。
「シンちゃん、帰ったらもう一回メシにしようぜ」
ブルックの腕の中で嗚咽を漏らすシンの頭を、サンジが撫でながらそう告げる。
それにも大きく縦に首を振る事で答えたシンを確認し更に笑みを深くしたサンジは、いち早くサニー号へ帰るべく動き出した。
「世界一美味い料理、いっぱい作ってやるからな」
「あら、素敵ね。」
「ロビンちゃんとナミさんにも一杯ご馳走するから待っててね~」
ハートを振りまきながらサニー号へ向かったサンジの後を追い、他のクルーもサニー号へと戻る為に動き出したのはその直後で。
シンの側を通る時にはサンジと同じようにそれぞれにシンの頭を優しく一撫でする事も忘れない。
「ヨホホ、独りは寂しかったでしょう?大丈夫ですよ、この一味はもう二度と貴女に寂しい思いなんてさせませんから。私が保証します。」
何十年と暗い海をたった独り、舵の効かない船に乗って波の赴くままに彷徨ったブルックからすれば、それより遥かに短い年数と言えども息も出来ない海の底で独りぼっちで死ぬその時を待っていたシンの孤独は身に染みてよくわかった。
それ故に、壊れ物をそっと優しく扱うようにシンに応対するブルックを一番後方に居たルフィが掛け足で追い抜きつつ、その腕の中で涙を流し続けるシンの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
「お前はもう俺の仲間だからな!分かったか?」
にっと笑うまるで太陽のような眩しい笑顔に、「うん」と返したシンの顔に浮かぶのは笑顔。
泣き腫らし赤くなった目でルフィを見返したシンは、ブルックの腕から抜け出し自分の足で立った後でルフィに向かって抱き着いた。
「助けてくれて、ありがとう・・・!」
ぎゅう、と抱き締めてくるシンを受け止めたルフィはシンを抱き締め返すと、そのまま抱き上げてサニー号へ向かい走り出す。
「ルフィさん、ずるい!」
その背にブルックが悲しそうに声を上げれば、ししし、と悪戯な笑顔をブルックへ向けるルフィ。
「ブルック、早く行かねぇと置いていかれちまうぞ!」
「ちょっと待ってくださいよ!置き去りは嫌ですよ!」
ルフィの言葉に慌てて駆け足でルフィを追いかけるように走り出すブルック。
そんなブルックから逃げるように走り続けるルフィは、先に行ったクルー達を次々と追い抜いていく。
「ゾロ!迷子になるなよ!」
「なるか!こんな狭い軍艦でどうやって迷子になるんだよ!」
「いや、お前さっき迷子になりかけたからな!ウソップを背負ってるんだから絶対迷子になるなよ!俺に付いてくるんだぞ!」
「チョッパー、ゾロとウソップよろしくな!」
気絶したウソップを背負ったゾロは、チョッパーに怒られながら不服そうにサニー号へ向かう。
「ロビン、フランキー、先行ってるぞ!」
「おう、ルフィ!シンをあんまり乱暴に扱うなよ!」
「あらフランキー、優しいのね。」
「そりゃロビンおめー、俺はスーパー紳士だからよ!」
「ふふふ、紳士って言葉はあまり似合わないわ。」
ロビンとフランキーは優しい笑顔を浮かべて、ルフィに抱き上げられたシンを見送った。
「ちょっとルフィ!あんまりはしゃがないの!シンを落とすんじゃないわよ!?」
「大丈夫だって、ナミ!そんな事より早く行かねえとサンジのメシ、全部食っちまうぞ!」
「そんな事言うな!ったくもー、しょーがない奴・・・」
ナミはルフィに叱る口調で声を掛けたものの、最終的には呆れたような笑顔を浮かべて走ってルフィの背を追った。
「サンジ!メシ!!」
「今から準備する所だ、ちょっと待ってろ!っつーか、ルフィ!シンちゃんに何してんだ、羨ましい事この上ねぇな!!」
「シンから抱き着いてきたんだから仕方ねえだろ!なあ、それよりメシー!!」
「仕方ねぇ訳あるか!早くシンちゃんから手ぇ離せ!」
サニー号のキッチンへ到着した所だったサンジは、ルフィに抱き上げられるシンの姿を見て思わず怒鳴り声を上げる。
そんなサンジの言葉をさらりと躱し、食堂内の自らの定位置へと座ったルフィはシンに隣へ座るよう指示する様に自分の隣の席をぱんぱんと軽く叩いてシンの着座を促した。
「ルフィ、お前なあ・・・ったく、自分勝手な」
はあ、とため息を吐き出したサンジは、促されるままにルフィの隣に座ったシンの顔を覗き込むように腰を屈めると柔らかい笑みを浮かべてシンに声を掛ける。
「シンちゃん、どんなモンが食いてえ?」
そのサンジの問いに、シンは少し考えてから口を開いた。
「温かくて、美味しい料理がいい。」
その返事にサンジは了解、と腕まくりをして調理に取り掛かり始める。
食堂に美味しい匂いが漂い始めたのはそれからすぐの事で、一味全員も順番に食堂に到着し席に着く。

そして始まった大宴会は、戒めの終わり、未来の幕開け、

冒険の始まりの、号砲。
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