ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

ダーク・エンド

ぐ、と更に近付けられたウソップとシンの視線がしっかりと合う。
そしてその状態で、ウソップは更に続けた。
「なら、お前の答えはもう決まってるじゃねえか!」
一緒に食べたメシが美味いなら、それはもう心を許したという事だ。
一緒に食べたメシが不味いなら、それはもう相手を拒絶しているという事だ。
「言えよ!お前の言葉で、ちゃんと思ってる事を!」
その瞬間だろうか。自身の心が、体が、頭が、まるで燃えるように熱くなったのをシンが感じたのは。
はっきりと光を取り戻した瞳でウソップの目を見返したシンは、目に湧き上がる熱い雫を抑える事もなく外へと溢れ出させた。
「っ・・・たす、けて・・・!!!」
叫びの様で、願いのようで、祈りのようで、悲鳴のような、そんな声が、周りに居た全員に届く程の大きさで響き渡る。
その瞬間、まるで時が止まったかのように一瞬だけの静寂が訪れた。

その中で、一番先に動いたのはイーグだった。
「シンから離れろ!!!!」
怒号と共にウソップとシンとの間合いを詰めたイーグは、狂気じみた目つきでウソップに襲い掛かる。
片やウソップはすでに重傷。異常な速度で接近されればそれを躱す術などなく、なんとか咄嗟にイーグの方へ視線を向けた時にはイーグの攻撃が自分を襲う直前だった。
「っだめ・・・!!!」
しかし、イーグの攻撃がウソップに当たる事はなく。
思わず固く目を瞑っていたウソップも、いつまで経っても襲ってこない痛みを不思議に思いゆっくりと目を開ける。
そしてそこに映ったのは、ウソップを庇うように両手を広げイーグに立ちはだかるシンの背中だった。
「シン、」
思わず名を呼び動きを止めたのはイーグで、シンのその行動に誰よりも動揺を見せる。
自分に歯向かうとはまるで思っていなかったシンが自らの前に立ちはだかった事がどういう意味を持つのか。

それは、イーグが一番よく分かっていた。

「お前、お前も・・・っお前も俺から離れるのか!!!」

悲痛な声で叫ぶイーグを、両目から涙を溢れさせたシンは睨みつける。
それははっきりとした離別であり、そのシンの行動に倒れていたルフィ、ゾロ、サンジは口元に笑みを浮かべながら立ち上がった。
「シン、後は任せろ。」
力強くそう言ったのはルフィ。
その声にシンの目から溢れる大粒の涙は幾重にもなって地面へと滴り、しかしその顔には今まで見せた事のない安心した様子の笑顔が浮かんでいた。
その様子を見て、何もかもが面白くないと唇を血がにじむ程強く噛んだイーグは、その狂気を爆発させるかのようにシンに襲い掛かる。
「―――――!!!!!」
もはやそれは人の言葉として聞き取れないような、獣の咆哮の様な叫びだった。
その声にシンの反応が僅かに遅れ、凶刃がシンを襲うその直前、
「シンさんは私が守りましょう。ルフィさん、後は任せましたよ。」
その攻撃を防ぎながら、シンをそっと抱き寄せたのはブルックで。
落ち着いた、優しい声色でブルックがそう言いながら、イーグからシンを引き離す。
「シンは頼んだぞ、ブルック。」
「勿論ですとも。船長の命令とあらば私、命に代えてもシンさんに手出しはさせません。私、もう死んでるんですけど!ヨホホホホ!」
他愛ないルフィとのやり取りをしながらもイーグに牽制を忘れないブルックによって攻撃を止められたイーグは、言葉にならない呻き声を上げるばかり。
狂ったようなその様子に狂気を感じはするものの、シンの言葉を聞いた一味はそれぞれにその口元に笑みを浮かべていた。
「ルフィ、さっさとやっちゃって!」
「お願いね、ルフィ。」
「スーパー任せたぜ!」
ナミ、ロビン、フランキーがそう声を掛け、ルフィと一緒にイーグと対峙していたゾロとサンジは言葉さえ発しはしないもののルフィから離れて他の一味が居る方向へと歩き出す。
安心して気が抜けたのか気を失ったウソップはチョッパーによって治療が開始され、シンをふわりと抱き上げたブルックはナミ達の方へと歩みを進めた。
「じゃあな、お前にもう用はねえ。」
「っ返せ!!!俺の、俺が育てた・・・つ俺のシンを、返せ!!!」
「お前のじゃねえ!シンは、誰のものでもねえ!!お前はもう、シンに近付くな!!!」
イーグはそれを阻止しようとブルックに襲い掛かろうとするが、ルフィがそれを許さない。
シンとイーグの間に入ったルフィは、先程までの劣勢が嘘のように身軽になった体を自由自在に動かす。
どけと獣じみた声で叫んだイーグとルフィが衝突したのはその直後で、

そして、勝負がついたのは一瞬だった。

ルフィの渾身の一撃がイーグを捉え、粘土化などものともせずにその一打がイーグに決定的なダメージを与える。
その勢いでイーグの体は軍艦から遥か彼方へと弾き飛ばされ、目視出来ないほど遠くへとその姿を消してしまった。
おそらく意識すらもうなかったのだろう。
その後、少しの時間を置いてもイーグがその姿を再び見せる事はなかった。

「・・・終わった、な。」
そうゾロが呟き、ルフィはシンの方を振り返ると満面の笑みを浮かべた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。