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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

ウォー・クライ

硬直、という言葉が一番合うだろう。
まるで石になったかのように動かないシンの様子に真っ先に何かを察したのはイーグで、その顔から笑みを消したイーグは目を鋭く細めてルフィを睨んだ。
「あの男、邪魔だな」
はっきりと殺意を持った言葉でルフィに向かい合い、冷たい言葉がその口から発せられる。
それを耳にしたシンの表情には焦りと動揺が見て取れて、それすら面白くないのであろうイーグは誰もが聞こえる程の大きさで舌打ちをした。
「麦わらのルフィ」
「何だ」
「お前が邪魔だ。大人しく消されてくれないか」
「ふざけんな!何でお前の邪魔だからって俺が消されなきゃならねえんだ!俺が邪魔ならお前が消えろよ!!」
「・・・話にならんな。」
イーグの殺気を真横で感じたシンがイーグを止める言葉を発しようとする前に、既にイーグはルフィの方へと向かっていた。
そして始まった戦闘は、傍から見てもルフィの劣勢がはっきりと分かる。
「どうした、麦わら!その程度か!!」
ルフィの繰り出す攻撃は全て躱され、逆にイーグの攻撃は全てルフィに命中する。
例えゴムで打撃が効かないとしても、矢継ぎ早に躱す間も与えられず攻撃を受ければルフィの身も徐々にその負荷に耐えられなくなり、一筋二筋とルフィのその体には血が流れ落ち始める。
それからどれ位の攻撃を受けただろうか、遂には甲板にめり込む程に叩きつけられたルフィの体は重くなり起き上がれない程の傷を負っていた。
そうなればルフィを庇うようにゾロとサンジがイーグに立ちはだかり、互いに攻撃を繰り出してはみるものの結果はルフィと同じ。
こちらの攻撃は受け流され、代わりに襲い掛かるイーグの攻撃をその身に受けた二人もまたルフィと同じく怪我を重ねていく。
そんな光景を見て、堪らないのはシンだ。
どうして、何で、もういいから、お願いだから止めて。
頭に浮かぶ言葉は多々あれど、それがどうしても口から出る事はない。

「っ・・・っ!!」

まるで酸欠になったように言葉の出ない口をぱくぱくと開閉させることしかできない。
幼少からあの男に刷り込まれた体の記憶が、声を出す事を拒むのだ。
「―――――――っ!!!」
こんな事を望んでいたわけではない。
ただ静かに死ねればよかった。それが叶わなくても、こんな気持ちには二度となりたくはなかった。
心が涙を流そうとしても、体が涙を流させてくれない。
海底にいた時よりも遥かに苦しく、心臓を撃ち抜かれた時よりも遥かに痛い。こんな感情を知らないと、シンは声の出ない苦しみの中で誰に届くはずもないままただ心で叫ぶばかり。

血を吐く程に喉が痛くても声がでない、そのジレンマで気が狂いそうになった、その刹那。

「シン、」

消え入りそうな声で、自分を呼ぶ声が聞こえた。
はっと我に返ったシンが声のした方向を向けば、そこには先ほどイーグに攻撃を受けかなりのダメージを負ったはずのウソップがフラフラとシンの側に立っていた。
「ウ、ソップ?」
名を呼び此方を目力強く見るウソップと真正面で対峙したシンに、ウソップが片腕を伸ばす。
そしてその手で掴んだのはシンの襟首で、どこにそんな力が残っていたのかと驚く程に強い力で掴んだ襟首を自分の方へと近付けるウソップ。
「お前が決断しなきゃ、ルフィ達は本気で戦えねぇ」
ケガが痛むのか発する言葉はか細いが、けれどもはっきりと、そして強い口調で鼻が付きそうな程の至近距離に顔を近付けたウソップがシンにそう告げた。
「お前は、どうしたいんだ」
ルフィにも、何度となく問いかけられた質問だ。
その質問に未だ返事をしていないシンは、戸惑いの表情を浮かべた。
「お前は、どっちにつきたいんだって、そう聞いてんだよ!」
まさに血を吐くような怒鳴り声。
目を見開くシンを息を荒くしたウソップが睨めば、シンの表情の戸惑いは更に深くなる。
しかし言葉を返さなければと思ってはみても、体が声を出す事を拒むかのように開閉するだけの口から言葉がでることはない。
ウソップもシンの状態を分かってはいるのだろう。けれど言葉を止める事なく、そんな状態のシンを煽り続けるのにはある確信があったからだった。
「・・・お前、俺たちと食ったメシは美味かったかよ」
そして発したのは、その言葉。
それに対して、シンの目にはわずかに光が灯る。
「答えろ!一緒に食ったメシは美味かったか!?」
それに気付いたウソップが更にまくし立てれば、シンは震える唇を動かし始めた。
「っ、お、い・・・し、か・・った、っ」
言葉として何とか聞き取れる程度の絞り出すような言葉ではあったが、シンは確かにそう声を発した。
それを聞けばウソップの勢いは止まらず、次いで言葉をシンに投げかける。
「アイツと食ったメシはどうだ!?」
それを聞き、シンがはっと息を飲む。
まるで砂を噛むような、味のしないただの形だけの料理。それを思い出したシンがゆっくりと首を横に振ったのは少しの間を空けてからの事で、それを見てウソップのシンの襟首を掴んだままだった手に更に力がこもった。
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