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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
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インテンション・レジスタンス

「悪魔の実の能力者だと、そう言わなかったか?」
イーグはそう言いながら、防御せずにルフィの攻撃を受け止める。
それにルフィがぎょっとしたのは、イーグの体に自分の攻撃を繰り出した腕がめり込んだせいだ。
「!?」
「俺は“クレクレの実”を食べた粘土人間だ。お前の攻撃は俺には効かない。」
「くそっ、腕が抜けねえ!」
自身の悪魔の実の名前を口にしたイーグは、体にめり込んだルフィの腕をそのまま抜けない状態にすると、必死に腕を引き抜こうするルフィに近付いて力の限りに拳を叩きつける。
「っ!!!」
攻撃と同時に拘束を解けばルフィの体は宙を舞い吹き飛ばされて、代わりに攻撃を仕掛けたゾロやサンジの攻撃もルフィと同じく体を粘土化する事で無効化してしまう。
そしてゾロの刀を、サンジの足をそれぞれ体の粘土を硬化する事で拘束し、容赦など欠片もない攻撃をそれぞれに叩きつけた。
「あんなの、どうやって倒せば・・・っ」
まるで歯が立たない三人の様子を目の当たりにしたナミがそう絞り出し、同じく戦闘を見守っていたブルックやフランキー、ロビンもその光景に息を飲む。
「そもそも、シンは“今”の俺から離れられはしないさ。」
「どういう事だ・・・!」
攻撃を受けてダメージを負ったルフィが立ち上がりイーグにその言葉の真意を問えば、イーグは意味深に笑みを浮かべながら自らの掌を自分の顔へと持っていく。
「この顔を、シンは見限れないとそう言ってるんだ。」
言いながらイーグが自らの顔に触れていた手を動かすと、顔はまるで粘土のようにぐにぐにと動きながらその形を変えていく。
ルフィでさえ思わず目を見開いて言葉を失う中、少ししてイーグが手を顔から離せばそこには見た事のない男の顔が現れた。
「粘土人間の特徴は、あらゆる物を作り出せる事にある。武器も、体系も、顔も自由自在だ。これが俺の本当の顔、そして、」
再びイーグが顔に手を持っていき、次にその手を離した時には顔は先ほどまでの顔へと変わっていて。
変幻自在とはまさにこの事とばかりの変化に、ただただ驚く一味。
「これは、シンが今も囚われている男の顔だ。」
その言葉の指し示す意味。
それを真っ先に理解したのはサンジで、怒りを隠さず表情に出してイーグに襲い掛かる。
「っどこまで性根が腐ってんだ、このクソ野郎!!」
「利用できるものは極限まで利用する、それに何の罪がある。」
その光景を見ながら、サンジに続くように他の一味もイーグの言葉の意味を察した。
つまりは、
「その顔は、」
カエンの、ものである、と。
それに誰が怒りを抑える事が出来るだろうか。
シンを救おうとした男を自分の都合で斬り捨て、死んでも尚シンを利用する為にその顔を使うなど、とても正気の沙汰とは思えない。
「何だ、不満でもあるのか?いい加減相手にするのも面倒だな。」
そんな一味の様子を悟ってか、至極楽しそうに笑ったイーグは攻撃を仕掛け続けるルフィ、ゾロ、サンジの三人を一蹴すると、未だに地面に付したままでいたシンにそっと近づき地面に膝を付くと、囁くようにシンに声を掛けた。
「シン、アイツらは“海賊”だ。全員“殲滅”しろ。」

その言葉の直後。
スイッチが入るとはこの事を言うのだろうとはっきりと言える程に、今まで力なく横たわっていたシンの体がすっと立ち上がる。
その目に光はなく、いうなればそれはロボットそのもの。
それを見て楽しそうに笑うのはイーグただ一人で、誰もがシンの姿を見て言葉を失った。

先ほどまで見ていた10歳そこそこの年齢の少女は、もうそこにはいなかった。
一味の目に映ったのは、身長と髪が伸び、先程よりも成長したシンの姿。

「海楼石が、取れたから・・・?」
冷静に状況を把握し、何とか言葉を発したのはロビン。
その言葉に納得した一味だったが、そんなシンの殺意が自分達に向いている事に気付いて再び冷や汗を流す。
「シン!私よ!?分からない!?ほら、一緒にお風呂入ったじゃない!」
感情のない目が殺意だけを孕んで自分たちを見ている状況に、ナミは思わず目に涙を浮かべながらそう叫んだ。
その声すら届いていないのか、シンはイーグの命令を遂行しようとしているようにルフィ達に向けて歩き出す。
「届いていないんだ・・・そういう風に刷り込まれてるんだ!何だ、何なんだよお前!こんなの人間にする事じゃない!!」
シンの様子から状態を判断したチョッパーがイーグに叫んでも、それは嘲笑で躱されてしまった。
向かってくるのは間違いなくシンで、しかも自分の意志で殺意を出している訳でもない。
そんな状態の相手に手を出せるはずもなくどうしようかと誰もが固唾を飲んだ、その時。
「お前がどうしたいんだって、俺はさっきから聞いてんだ!」
ルフィの叫びが、その場に木霊する。
その声は、どうしてだろうか。イーグの声以外届かない筈のシンの耳に、何故かはっきりと届いたのだ。
「・・・シン、どうした。」
ルフィの言葉によりシンの動きが止まり、それに対し不信感をあらわにするイーグ。
シンの前に回り込んだイーグがその顔を覗けば、そこには今にも泣き出しそうな表情で困惑するシンがいた。
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