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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

エスケープ・ゴード

その頃からすでに「G-0」支部の非道さは海軍内でも問題視されてきていた。
そんな中、ある一人の男が支部に配属された事により、シンの歯車は大きく動き出した。
その男の名前は、カエン。若くして海軍本部少将にまで上り詰めた実力派であり、支部の副官として配属されたのが今から7年以上前の事。
「イーグさん、これは余りにも酷過ぎる・・・!」
配属当初からイーグと意見が合わず対立していたカエンの軋轢がはっきりとしたのはある事件がきっかけだった。
その頃、シンと同時期に集められた子供たちの中で生き残り活動に参加出来る状態だったのはシンたった一人だけ。
9歳になっていたシンは、教育の賜物とでも言うべきか「海賊」の単語とイーグの命令に即座に反応し敵の殲滅を行うようインプットされた、まるでロボットのような殺戮兵器へと成長していた。
その時も命令により海賊の殲滅に向かっていたシンはその身に多くの怪我を負い瀕死の重傷となっていたが、それを見つけたカエンがたまらず声を上げたのだ。
「・・・傷付かず、死ななければ問題ないのか。」
それを見たイーグは、カエンにそう問いかける。
そのイーグの言葉を深く考えなかったカエンは自分の意見を聞き入れてくれたのだと思い大きく頷いたが、すると次の瞬間、イーグはシンの口へ「ある果実」を押し込んだ。
「何を・・・!?」
「これでコイツは“傷付かない”し“死なない”。満足か、カエン少将。」
それが「フジフジの実」という悪魔の実であり、それによりシンは寿命まで死なないという不死の体を手に入れてしまった。

「優しいだろう、俺は。シンの体を思ってこその行動だ。」
そこまで語って、イーグは仰向けに倒れたまま浅く息を吐き出すシンの体を強引に引き起こす。
撃ち抜かれた左胸からは痛々しく出血が続き、無理やり起こした事で苦しそうに顔をゆがめるシン。
「やめろよ、お前!!」
堪らずチョッパーが叫べば、その声すらも睨みで黙らせるイーグ。
そうしている内にシンの傷は徐々に塞がっていき、流れていた血も止まる。
そして青白い顔をしていたシンの顔色も見る見るうちに健常になり、閉じていた瞳は薄く開かれた。
「ほら、もう問題ない。俺は最高の兵器を手に入れたんだ。」
それを見て微笑むイーグ。
しかし次の瞬間にはシンの髪の毛を強く掴んで引きずり起こし、その表情を一変させたイーグが鬼の形相で吐き捨てるように怒声を上げた。
「それなのに、アイツのせいで!!!」

それはシンが悪魔の実を食べて数か月が経った後の事だった。
深夜、堅い床に薄い毛布だけを羽織り眠りについていたシンをそっと起こす一つの声。
「シン、起きろ。」
数回揺さぶられシンが目を開けば、そこにいたのは口元に人差し指を立てて静かにするよう伝えようとしているカエンの姿。
「カエン、少将・・・?」
覚醒しきらない頭を必死に動かしながら小さな声でシンが名を呼べば、目の前のカエンは優しく微笑んでシンの頭を撫でた。
「仕事、ですか?」
「違う。・・・もう、仕事なんてしなくていい。」
カエンの言葉の意味を理解できないシンが首を傾げれば、泣きそうな顔で笑うカエン。
それを更に不可解そうに見つめるシンをカエンは抱き上げると、そっと部屋を出る為に歩みを進めた。
「しばらく、喋らないようにしてくれよ。」
小声でそう言うカエンに、シンはそれを命令だと思い素直に頷く。
それを確認したカエンは足音さえ立てぬように支部内を駆け抜け、向かったのは支部の裏手にある船着き場だった。
「なぁシン。お前は、」
「・・・とんだ裏切りだな、カエン少将。」
「!?」
と、その時響いたのは低い声。
カエンが振り向けば、そこには銃を構える多くの海兵とそれを従え筆頭に立つイーグの姿。
「シンをどうするつもりだ?」
「っここから、逃がします。」
「逃がす?どこへ?」
「貴方の目の届かない、遠い場所へ。っこの子は兵器じゃない!ただの人間だ!!」
「ただの?冗談じゃない。どんな傷を負わされても死なない、ただの化け物だ。俺の兵器だ。お前如きにくれてやる筋合いはない!!」
声と同時に上げられるイーグの右腕。
それを合図に銃口をカエンとシンの二人に向ける海兵たち。
「逃げられはしないさ。シンの心臓には発信機を植えてある。どこに居たって見つけられる。」
それに、と続けたイーグの口からは次に出た言葉に、カエンはその身を凍らせる事となる。
「心臓には、小さな海楼石も埋め込んである。」
思わず目を見開くカエンに薄く笑いながら、イーグは上げた右腕をゆっくりと下げた。
それが引き金を引く合図であり、兵士達の銃口からは何発もの銃弾がカエンとシンに向かって発射された。
「もう聞こえないだろうが、教えてやろう。」
海楼石とは悪魔の実の能力者の弱点である海と同じ成分を秘めた特殊な石であり、その石に触れると能力者はたちまち力を奪われ動く事すらままならなくなってしまう。
その海楼石の欠片をシンの心臓に埋め込んだのは、一つの賭けだった。
賭けに敗ければ、海楼石によって力を奪われ普通の人間と同じになり、傷を負っても治らず死に至る。
逆に勝ったとしたならば、そう続けたイーグは邪悪な笑みをその口元へと湛えた。
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