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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

その男、賞金首につき

麦わらの一味が自分達の後を追ってきている頃、シンとシンを連れ去った男はそれにまだ気付く事もなく軍艦で海を進んでいた。
「あれから5年だ。変わっていないようで安心したよ。」
相変わらず張り付いた笑みを浮かべる男の顔を忌々し気に睨みつけたシンの視線に気づいたのか、男は笑みを深くしながらシンの頭に手を乗せる。
「お気に召さないようだな。お前が喜ぶと思ってこの顔で出向いてやったのに」
「・・・っ」
挑発するような言葉にシンは何か返そうと口を開いたものの、そこから言葉が出る事はなかった。
悔しそうにそのまま口を閉じたシンを見て、男はシンの頭に乗せた手で数回ぽんぽんとシンの頭を撫でる素振りをする。
そして途端に優しい笑顔を浮かべると、シンの顔を覗き込むように腰を屈めた。
「美味しいご飯も用意してある。シン、“会いたかった”よ。」
シンの男を睨む目つきがより険しくなったのはその言葉を聞いた直後。
それすら愉快そうに笑って流した男は、料理の用意してあった部屋へとシンを誘う。
「本当に、変わってないな。お前は“この顔”と“俺の言葉”に逆らえない。」
くつくつと冷たく笑う男から視線を外したシンは、拳を爪が食い込むほどに強く握りしめた。

それから数刻。
強制的に食事の場でテーブルを挟んで男と向かい合うように座らされたシンは、出された料理を機械のように口に運んでいた。
色とりどりに見えるその料理たちは、まるで味がしなかった。
冷たく温度を感じない、まるで砂を食べているような“料理”という形だけ取り繕った食べ物を食べながら、ふとシンは口に動かしていたスプーンを止めた。

『クソ美味いだろ』

よぎったのは、サンジのその台詞。
あんな美味しい料理を、あんなに暖かい料理を食べたのは本当に初めてで。
目の前の食べ物とはまるで正反対のあの料理を思い出せば、頭に浮かんだのは昔聞いた言葉だった。

『どんな料理だって、一緒に食う人間によって味が変わるんだ。お前はまだ本当に美味い料理を食べた事がないだろ?迎えに行く。絶対だ。そしたら俺が美味いメシを嫌って程食わせてやるから、ちょっと待ってろよ』
遥か昔に交わされた約束は、もう叶わないものだと分かっている。
けれどあの日、あの時、あの男が言った台詞は間違いなく真実であり、紛れもなく叶えようとしてくれた約束だった。

それを思い出したシンが固まっているのを不審に思った目の前の男は、自分も食べる事を止めてシンに声を掛けようと口を開いた。
「シン、どう」
しかしその言葉は、途中で遮られる事となる。
その原因となったのは船に砲弾が当たったかのような衝撃が加えられた事。そして、
「シン!どこだ!!!」
そんな、聞き覚えのある、けれど覚えている声よりもはるかに怒気を含んだ怒鳴り声が船中に響き渡ったからだ。
「!?」
「せっかく見逃してやったのに、わざわざ追いかけて来るとはな・・・」
立ち上がったのは二人同時だった。
そして立ち上がった直後、壁をぶち破ったのは長くのばされた腕で。
「・・・そうか、貴様、」
「見つけた!!おい、シン!お前、言いたい事があるんならちゃんと言えよ!」
「ル、フィ・・・っ」
それを見た男が納得したような声で呟き、伸ばした腕の持ち主であるルフィはシンをその視界に捉えると険しい顔で怒鳴り声を上げ、シンはそんなルフィを見て動揺した表情を浮かべた。
「貴様が、あの噂の大問題ルーキー「麦わらのルフィ」か。」
「何だお前、俺の事知ってんのか」
シンを見ていたルフィの視線が、名前を呼ばれた事により男の方へと向けられる。
そんなルフィを憎悪を孕んだ視線で睨んだ男は、口だけを笑みの形に変えてルフィに対峙した。
「居た!お前、ルフィ!先走るなって言っただろうが!」
「ルフィだからしょうがないにしても、少しはじっとしていられないのかしら?」
「ナミさん、そりゃルフィには無理な話ってもんだぜ」
「ルフィさんは自由ですからね。」
「ま、そのおかげで手っ取り早く見つかったんだからよしとしようじゃねえか!」
「っていうか、おいゾロ!お前どうしてそっち行くんだよ!みんなこっち向かってんだからこっちに決まってんだろ!」
「っ痛ぇな、チョッパー!引っ張るんじゃねえよ!」
ルフィの後を追い、麦わらの一味がその場に揃ったのはそのほんの僅か後の事。
壁をぶち抜いたせいで甲板から食堂までを隔てていた壁はなくなり、甲板に揃った一味は口々に言葉を発しながらルフィの背後に構える。
「やっぱりそうだわ。」
その中で、男の顔を確認したロビンがふと声を上げた。
「ロビン、どうしたの?」
その声にナミが反応すれば、ロビンはシンの側に立つ男の顔を見ながら記憶を辿り言葉を紡ぐ。
「あの男、どこかで見た事があると思ったら、元海軍「G-0」支部の長官で海軍本部中将だった男よ。名前は確か、「百面相」イーグ」
「百面相・・・?」
そのロビンの声に、男・・・イーグはぴくりと反応を示す。
そしてロビンの方へと視線を移すと、今までにない程に冷酷な表情で笑みを浮かべた。
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