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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

優しさの対価

死ぬのを待つ人生とは、一体どれ程に壮絶なものだったのだろうか。
嵐の海で漂流しながらも衰弱も傷も負っていなかった理由を知ったナミとロビンは、その傷跡すら一切ない肌を見て更に胸を締め付けられた。
その綺麗な肌の下にどれ程多くの傷があるのかと、想像したせいだ。
「っあーやめやめ!せっかく温かいお風呂で気分良くなったんだから、もうこの話はやめにしましょ!」
「あら、ナミが聞いたのよ?」
「その私がいいって言ってるんだから、もういいの!あんまり長く浸かってたらのぼせちゃうし、もう出ましょ。」
「そうね。そろそろコックさんが美味しいご飯を作ってくれている頃だろうし。」
「さ!アンタも上がるわよ!」
これ以上はまだ聞いてはいけないと察したのだろうか、ナミが話を切り上げるように声を上げて湯船から勢いよく立ち上がった。
ロビンもそれに続いて湯船から上がり、脱衣所へと向かう。
其処にはふわふわなタオルが用意されており、ナミはそれを自分の体に巻き付けた後にもう一枚タオルを手に取るとシンをそれで包み込みながら優しく水分を拭っていく。
「じ、自分でできる・・・っ」
「いいの!甘えなさいよ、子供なんだから。」
あまりに優しく扱われるせいで居心地が悪くなったシンはそれから逃れようと声を上げたものの、意地悪に笑ったナミによって捕らえられ逃亡は敵わない。
諦めて全身の水分をふき取って貰ったシンは少し頬を赤らめながら頭を下げた。
「ありがとう」
「どういたしまして。さて、と。着替えはどれにしようかしら?」
「そうね、これはどう?」
そんなシンを見て満足そうに微笑んだナミは、ロビンに手渡された服を受け取るとシンに着せる。
それはロビンのTシャツだったが、シンの身長からすればそれ一枚で膝下丈のワンピースになる程度の長さであり、それを確認したナミは「これでよし」と頷いた。
そして濡れた髪を乾かす為にシンを膝に乗せたロビンがドライヤーでシンの髪の毛を乾かし、あれよあれよという間にシンは二人の手によって身支度を整えられて。
今までに経験した事のないその待遇に動揺しながらも、何かされる毎にお礼を言うそのシンの姿にナミもロビンも微笑みを浮かべて眺めていた。
「さ、ご飯ご飯!サンジ君の料理は絶品よ?」
「今日はいつもよりご馳走の予感がするし、楽しみね。」
そう言いながらナミとロビンそれぞれに片手ずつを握られたシンは、二人に促されるように歩き出す。
「あ、あの、っ」
「ん?なぁに?」
ふとシンが声を上げたのはその時。
その声にナミとロビンが立ち止まってシンと目線を合わせるようにしゃがむと、シンは躊躇いながらも言葉を続けた。
「私は、何を返せばいい・・・?」
「え?」
「だって、何かして貰う時は私も何か返さないとダメ、だから」
今まではそうだったと続けるシンに、その言葉に、ナミもロビンも何か深い闇を感じたのは間違いないだろう。
けれどそれには触れずにすっと立ち上がった二人は、先ほどよりも強くシンの手を握って再び歩き出した。
「そうね。何がいいかしら?」
「海で助けて、治療して、お風呂に入れてあげて、服も貸して?それからご馳走も用意してるからねぇ・・・」
「っ、」
二人の言葉にシンの体が強張る。
それに気が付いた二人は満面の笑みでシンを見下ろすと、それぞれに言葉を続けた。
「じゃぁ、一緒にご飯でも食べて貰おうかしら?」
「そうね。ついでに、残さず全部食べないと許さないわよ?」
「え、」
「え、じゃなくて。思いっきり美味しそうに食べなさいって言ってんの!」
「ここまでしてあげたのに、まさか断るなんてしないわよね?」
二人の言葉に驚いた表情を浮かべるシン。
ナミとロビンはここ一番の満面の笑みを浮かべると、目的の場所に到着したのか目の前の扉をバンと開いた。
「さ!食べるわよーって、ルフィ!アンタ、何で先に食べてんのよ!!」
「ほーまみー!ひあーははへっしまっへひょー!」
「何喋ってるか分かるかー!!そもそもそんなに詰め込んで食べるな!」
そして目の前に広がったのは、全員が揃ったキッチンで既に食事を食べ始めている面々の姿。
すっと笑顔を凍りつかせたナミはシンと繋いでいた手を離すと、間違いなく一番食べていたであろうルフィにツカツカと近寄って怒鳴りながら拳をルフィの頭に振り下ろした。
「ぶーっ!!!何すんだナミ!痛くねえけどな!」
「やかましい!アンタはなんで少しが待てないのよ!」
「そりゃお前、サンジが美味いメシを作るのが悪い。」
「責任をすり替えるな!!」
言い訳にならない言い訳を口にしたルフィをもう一発殴りつけたナミは、飽きれたとため息を吐きながら固まるシンの側へと近づく。
ロビンはその光景を微笑ましく眺めた後に、シンの手を引いてキッチンの中へと足を進めた。
「ごめんねー、騒がしくて。」
「さ、食べましょう。コックさんが腕によりをかけて作ってくれたご飯なんだから、残したら怒られるわ。」
そしてシンを席に着くように促し、ナミとロビンはシンを挟むように両サイドに腰を掛ける。
すると間髪入れずに、シンの前に皿が一枚差し出された。
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