ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

女の涙の落ちる音

その頃、風呂場に着いたナミとロビン、そしてシンは、湯船に浸かろうとしているところだった。
「怪我は、特にないみたいね。」
シンの体に傷がないことを改めて確認したナミが安堵したように微笑みを漏らせば、ロビンもそれに続いて微笑みを漏らしながら頷く。
シンはといえば、ナミとロビンの様子に僅かながらに躊躇いを見せながらも、促されるままに湯船に足を入れようとしていた。
「っ、!?」
しかし湯船に爪先が触れたその瞬間、シンは跳ね上がる程に驚き転倒しそうになり、それをロビンが能力で間一髪支えた。
「少し熱かったかしら?」
「ちょっと、大丈夫!?」
慌ててロビンとナミがシンの顔を覗き込めば、シンは躊躇いがちに口を開く。
「・・・水が、温かかったから、びっくりして、・・・」
困惑した様子のそのシンの言葉を、最初ナミもロビンも理解できずに首を傾げた。
そして、その言葉の"意味"に最初に気付いたロビンは、ぐ、と目頭に込み上げる熱いモノを必死に抑え込んでなんとか微笑みを浮かべ、ゆっくりとシンを湯船へと促す。
「大丈夫よ。ただ、温まるだけだから。」
そう言われてシンも警戒を解く事が出来たのか、ようやく湯船にゆっくりと体を沈める。
一連の様子を見ていたナミも漸くシンの言葉の意味を理解する事が出来たのか、ロビンと同じく込み上げるモノをぐっと堪えながら笑みを浮かべて湯船に入ると、先に浸かっていたシンを自分の膝の上に乗せてぎゅう、と抱き締めた。
「温かいでしょ?ウチのお風呂は最高なんだから!しっかり満喫しなさいよー」
「あらナミ、ずるいじゃない。私も仲良くなりたいわ。」
「ふふっ、順番よ、順番。」
自分の頭の上で交差するそんな会話を追うように視線をナミとロビンに行き来させるシン。
それに気付いた二人がシンに優しく微笑めば、ぎゅう、と心臓が締め付けられる様な感情がシンの体を走った。

それは、かなり昔に一度だけ感じた事のあるモノで。
初めてその感情を与えてくれた男は、その名前を『幸せ』なのだと教えてくれた。

それを思い出したシンが、ふと小さく笑みを浮かべたのはその刹那。

目の前のロビンがそれを見て目を見開き、そんなロビンを見たナミがシンの顔を覗き込めば同じように驚いた様子で目を見開いてから微笑みを浮かべる。
「そんな可愛い顔で笑えるんじゃない。出し惜しみしちゃって、勿体ない。」
出会って数時間。
見た表情は言うなれば無表情ばかりで、感情のこもった表情を出したのはゾロの殺気に反応した一瞬だけ。
もしや感情がないのではないかと疑いもしたがそれは杞憂だったようで、可愛らしく笑みを浮かべたシンを見たナミとロビンは安堵したように笑い、ナミはぎゅーっとシンを更に強く抱き締めた。
「ねぇ、話したくなかったら答えなくていいから聞いていい?」
そして、シンの緊張もしっかり緩んだのを察したのだろう、ナミはそのままの状態で出来るだけ穏やかに、限りなく優しく問いかけを口にする。
「何で、その・・・死ぬのを待ってた、とか、そんな事を思ってたの?」
「・・・」
「あ!いいの!喋りたくない事なんて誰だっていくらでもあるし、無理して聞き出すつもりは、」
「死ねない、から。」
「、え・・・?」
「死ねないから、死にたくて。」
ぽつり、ぽつりと喋り出したシンの言葉を、ナミとロビンは静かに受け止める。
そんな二人から目線を外したシンは、更に言葉を続けた。

まるで知らない、赤の他人の彼女達にどうして"それ"を喋る気になったのかはシン自身も分からなかった。
けれど"温もり"を、 "幸せ"を感じさせてくれる相手を警戒するなど馬鹿らしく思えたのは確かで、ナミ達が悪い人ではない事も感覚上ではあるものの間違いはなさそうで。

だから、シンは自分の事を話す事を躊躇いはしなかった。

「悪魔の実の、能力者」
自分はそれだと、シンは言葉を綴る。
それに驚いたのはナミとロビン双方同時で、しかし自身も能力者であるロビンはすぐに表情を笑みの形に変えて「そうなのね」と返した。
「悪魔の実の名前は、“フジフジの実”。」
自身の食べた悪魔の実の名前を口にしたシンは、ふと瞼を伏せてその実の特徴を話し始める。

“フジフジの実”、その悪魔の実の能力は、名前の通り「不死」になるというもの。
しかし完全な不死になる訳ではなく、「自分の寿命が訪れるまで決して死なない」という期限付きの不死。
その能力の副産物として、他者の傷を奪い自らの身に移す事が出来る能力と、自身の受けた傷を異常速度で回復する能力が備わったという。

「悪魔の実の能力者はカナヅチになって泳げないけど、泳げなくても息が出来なくても・・・海底に沈んでも私は寿命まで死なない。だけど、海底で独りで居れば寿命が来ればいつかは静かに死ねるから。だから私は、海で死ぬのを待ってたの。」

そう続けるシンの言葉に嘘はないであろう。
それを察したナミは目に浮く涙が落ちるのを堪えようとしながらシンを抱きしめる腕に力を込めた。
そして独りの苦しさを知っているロビンは、眉をㇵの字にしながら手を伸ばすと、その手でシンの頭をふわりと撫でた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。