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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

通常の異常

それは細く、
それは不確かで、
けれどもそれは、確かに光だった。

第2話 通常の異常

「とりあえず、ベッドに運んでやってもいいか?」
見た目通り軽い体躯をした子供を抱き上げたチョッパーは、その子を船内へ運ぶ許可を求めるべくルフィを見た。
「おう!チョッパー、任せたぞ。」
その問いかけにルフィは笑って応じ、子供の治療をチョッパーに託す事に。
それを確認したチョッパーは静かに、けれど速足で船内へと向かう。
「・・・どんな理由があるにしろ、こりゃただ事じゃぁねぇな。」
言いながらずずっと鼻を啜ったフランキーの目には涙。
「そう、ですね。あの姿はあまりにも酷い・・・。あ、フランキーさんハンカチ使いますか?」
「泣いてねぇよ!目にゴミがたまたま入っただけだ!!」
それを見てハンカチを差し出したブルックに対しフランキーは否定の言葉を発し、その様子を見ていたナミは深々とため息を吐き出した。
「厄介事にならないといいんだけど・・・。だけど流石に、あの様子じゃ放っておけないわね。」
「どのくらい漂流していたのかしら?見た所ケガはなかったようだけど、どちらにしてもあの子が目覚めて話が聞ければいいんだけど。」
「そうね。酷い環境にあった事は間違いないだろうけど、ちゃんと話できるのかしら?」
「少なくとも、目が覚めた時にブルックやフランキーが目の前に居たら怯えてしまうわね。」
「ロビンさん、酷い!!」
「おうおうロビン!ブルックは分かるがどうして俺も含まれてんだ!」
「貴方が変態だからよ。」
「おいおい、そりゃどんな誉め言葉だ。」
子供が目覚めた後の事などをナミ達が話していると、その横を通り過ぎてサンジもまた船内へと向かおうと足を動かす。
それに気が付いたウソップはサンジの背中に向けて声を掛けた。
「おい、サンジ!お前、どこに行くんだよ?」
「・・・腹、減ってんだろ。起きた時に食べられるように準備しとくだけだ。」
「お、何だサンジ!メシ作るのか!?」
「お前の分じゃねぇよ、ルフィ!!」
ウソップの問いかけにサンジがそう答えると、ウソップは小さく笑ってそうかと言い、食べ物という単語を目ざとく聞き漏らさなかったルフィは目を輝かせてサンジに駆け寄って。
そんなルフィにサンジは呆れてため息を漏らしながら纏わりついてきたルフィを引きはがすと、そのままキッチンへと足を進めた。
「アンタ、ホントに能天気ね。」
「ナミ!シッケーだな!俺だって考えてるぞ、色々と!」
「考えてないから私たちがいつも苦労するんじゃない!チョッパーが治療してくれてるんだから、意識がない子供の周りで騒ぐんじゃないわよ!」
「お、おう・・・」
ナミが人差し指で弾力のあるルフィの頬を勢いよく突きながらそう言い、ルフィはそのナミの気迫にたじろいで思わず頷く。
それを確認し満足したのか、ナミは今度は振り返って離れた場所で我関せずと昼寝を始めようとしていたゾロにも詰め寄った。
「ゾロ!アンタもこの状況で寝ようとしてんじゃないわよ!みんなやる事があるんだから、アンタはチョッパーの手伝いでもしてなさい!!」
「なんで俺がそんな事しなきゃならねぇんだ!」
「何?文句でもあるの?」
ナミはルフィに対して向けていた威圧感をそのままゾロにも向け、その気迫にはさすがのゾロもルフィと同様にたじろいで。
小さく舌打ちをしたゾロは渋々と立ち上がるとチョッパーが子供を連れて行った方へゆっくりと向かう事に。
「ヨホホ、さすがナミさん。」
「アウ、男共もナミには敵わねぇな!」
「フフ、頼もしい航海士さんね。」
「俺はナミが怖い。逆らったらどんな酷い目に合うか・・・」
残されたブルック、フランキー、ウソップは口々にそう言い、それから各々に自分の仕事をこなすべくそれぞれ歩き出した。

その頃、船内へ入ったゾロはチョッパーの居るであろう船室の一つへと足を運んでいた。
「おい、チョッパー。何か手伝う事はあるか?」
その部屋の戸を開ければ案の定目的の人物が目の前で必死に子供の治療に当たっており、その背中に向けてゾロが声を掛ける。
「ゾロ、手伝ってくれるのか?」
ゾロの声に振り向いたチョッパーは何やら険しい表情をしていて、その様子に少なからずの緊迫感を感じたゾロは小さく頷いた。
「様子は?」
そしてチョッパーの隣まで歩みを進めたゾロがチョッパーに問いかければ、チョッパーは子供に目線を戻して相変わらずの険しい表情を崩さず返事を返す。
「・・・変、なんだ」
「変?」
「外傷も発熱も、脱水も栄養不足もないんだよ」
「何も問題ねぇならいいじゃねぇか」
「っ嵐の海で漂流してたんだぞ!?あんなぼろ切れ一枚着ただけの状態でだ!それに、」
「まだ何かあるのか?」
「・・・恐らく、としか言いようがないけど、何十日・・・いや、それ以上かもしれないけど、」

何も食べた様子がないんだ。

暗く、険しい声色でそう絞り出したチョッパーの言葉にゾロは目を見開く。
そんな馬鹿なと言いかけたが、ゾロもチョッパーの医術の腕は勿論認める程のものであり、そんなチョッパーの診断が間違う事はあまり考えられない。
という事は、だ。
「腹ン中空っぽの状態で、体には一切異常がないって、そういう事か?」
いくら医術の知識がまるでないゾロでもその状態がどれ程異常なものであるかはそれなりに理解できて。
そして、見開いた目を未だ静かに目を閉じる子供に向けてその姿をまじまじと眺めた。
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