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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

嵐の中で

手の届かない水面を下から見上げて、もうどれ程の月日が経ったのか。
息は出来ずとも鼓動は止まらず、
声は出ずとも思考は働き、
体は動かずとも瞳は世界を映し続ける。
嗚呼、例えば地獄が他にあると云うならば、此処は一体何なのだろうか。


第1話 嵐の中で

偉大なる航路にはよくありがちな猛烈な嵐の中を、高波に揺られながら進む一隻の船があった。
それはスリラーバーグにて王下七武海のゲッコー・モリアとの戦闘に勝利し、仲間を8人に増やし全員で9人となった麦わらの一味を乗せた海賊船、サウザンド・サニー号であり、次の島へ向けて航海を続けている所であった。

「うっひょー、すっげー嵐!!」
「ちょっとルフィ!そんなトコに居たら海に落ちるわよ!!」
サニー号の船首で胡座をかいて座りながら荒れる海を楽しそうに眺めていた一味の船長、モンキー・D・ルフィに、航海士であるナミが怒鳴り声を上げる。
「おい、クソマリモ!お前も寝てねぇで手伝えよ!」
「うるせぇ、アホコック!!お前の指図を受ける筋合いはねぇよ!」
ナミの指示に忠実に従うコックのサンジが眠そうに欠伸をする剣士のゾロに声を荒げれば、ゾロはサンジに食って掛かるように文句を口にして。
「お前ら!!喧嘩してる場合じゃねぇだろうが!いいから手伝えよ!!」
「ウソップ!舵が重いんだ、こっち来てくれよー!!」
そんなサンジとゾロに怒鳴っているのは狙撃主のウソップで、船医のトニー・トニー・チョッパーはウソップに助けを求める声を上げた。
「おうおう、結構な嵐じゃねぇか!サニー号はこんな嵐にゃスーパー敗けはしねえがな!」
「それは心強い。それでは私は皆さんが安らぐ音楽でも・・・」
「あら、でもあの波は大丈夫かしら?」
船大工のフランキーは胸を張ってそう自慢し、それを聞いた音楽家のブルックは自前のバイオリンを取り出して一曲奏でようと構えだし、そんな光景を少し微笑みながら見ていた考古学者のロビンは、ふと船後方を見てその笑顔を顔から消した。
「ロビン、それって、」
その言葉を聞いたナミが顔色を変えてロビンの視線の先へと視界を移動させれば、そこにはサニー号を遥かに上回る高さの高波が迫って来ていて。
ナミ、ウソップ、チョッパーはそれを見て悲鳴を上げて船の進行を全速前進に、一味も慌ただしく船上を走り回り、それを見たルフィはその状況を楽しむべく目を輝かせる。

それが、この船の日常とも言える風景だった。

「ん?おい、あれ!!」
と、その異常な日常が変わるきっかけとなる声が上がったのはその後の事。
巨大な高波からなんとか逃れたもののまだ波が荒れる海原を進むサニー号の甲板で、波間に何かを見つけたウソップが声を上げる。
「どうしたの、ウソップ。」
それに反応したロビンがウソップに近付けば、ウソップは水面を指差しながら言葉を続ける。
「あれ、人じゃねぇか!?」
「こんな荒れた海に人が?」
ロビンは半信半疑な声を上げながらもウソップの指差す方向に視線を移し、それから驚いた様に目を見開いた。
「っ子供・・・!?」
「やっぱりそう見えるか!?っルフィ!!大変だ!!!」
水面に、木片に助けられてなんとか浮いている状態のその物体を見たウソップとロビンはそれが人であると判断すると、次の判断を煽るべく船長であるルフィの名を呼ぶ。
そうすれば即座に近付いてきたルフィに二人は状況を説明し、ルフィについて集まった他のクルー達も海へ視線を動かした。
「偉大なる航路に子供!?」
「嵐で難破した船があったのかもしれないわね。」
ナミとロビンが冷静に推測する中、真っ先に行動したのはサンジだった。
「とりあえず助けるぞ!いいよな、ルフィ!!」
「おう!頼んだ!!」
言いながら背広と靴を脱ぎ捨てたサンジは海へと飛び込むと、荒れる波に邪魔をされながらもなんとか漂流していたモノの元へと辿り着き。
それが紛れもなく人であり、子供である事を確認したサンジはその子供が息をしている事も確認して声を上げた。
「まだ息がある!!」
その声に反応し、フランキーがロープを海へと投げ込む。
「掴まれ、サンジ!!」
フランキーの声に反応しロープを掴んだサンジはサニー号へと再び乗り込み、抱えた子供をチョッパーの前にゆっくりと寝かせた。
「顔色は悪くねえし、衰弱してる感じもねぇ。ただ、」
子供の様子を見ながら、サンジは先ほど脱ぎ捨てた背広をそっとその子供にかけてやる。
そしてチョッパーは険しい表情で、子供の状態を診察し始めた。
「格好やなんかを見る限り、相当な訳ありだろうな。」
纏っていた衣服は、もはや衣服と言える代物ではなくただのぼろ切れ。
両の足首には、その子供にはまるで不釣り合いな厳つい足枷。
左腕には、製造番号かと見紛う無視質な書体で書かれた『51N』という文字の刺青。

濡れた髪を掻き上げて口に咥えた煙草に火を着けたサンジは、意識なく横たわる子供の額に海水で張り付いていた黒い髪の毛をそっと分けてやりながら頭を優しく撫でる。
「奴隷でも、もう少しはマシな格好してんだろ。」
労わるような、切なそうな、何とも言えない声色でそう言ったサンジの声を聞いたチョッパーは、目に涙を浮かべながら人獣型へ変形するとその子供を優しく抱き上げた。
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