ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
目次

3人の面談の模様… その9

「どこまでが本当で、どこまでがフィクションか分からないというのは、話し手からすると、してやったりといった感じですな」

カスターは満足そうにニヤニヤと笑っていた。人事担当者達はこの不意打ちに、視線をキョロキョロと泳がせた。どうやら自分達はからかわれているらしい。

「その後の子供達ですが…」
カスターが再び話し始めると、人事担当者達はたちまちのうちに真剣な顔になった。
カスターは心の中で笑いをかみ殺した。

「兄妹が養子として預けられたのは、数千年の歴史を誇る演劇の一門の総長のもとでした。
しかし後になってから、その一門は一子相伝で、例え兄妹同士であっても伝承者になるために争わなければいけないし、しかも伝承者になれなかった者は抹殺されてしまうということが判明したので、早々に養子の関係を解消しました」
「え、え~と…」

「次に身を寄せたのは、小さな森の中にある小さな村の、裕福なご婦人のところでした。
そのご婦人はお優しくて聡明な方でしたが、彼女の正体はなんとバンパイアだったのです。毎日の食事が薔薇の花びらのジャムと紅茶だけという時点で気付くべきでした…」
「は、はあ…」

「食事の内容が、育ち盛りで役者になるための勉強に励んでいる子供には合わないということにして、こちらのお宅も早々にお暇いたしました。ですので、そのご婦人…老ハンナは今もあの小さな村に住んでいますし、大老ポーもどこかの地下室で眠りこけたままでございます」
「そ、そうでずか…」

「ただ、兄妹のお付きとしてたった一人同行していた爺やが、こちらにお世話になっている時に亡くなりまして…。まさかとは思いますが、真相を確かめる勇気がありません」
「ひえ~っ!」

「以後は兄弟二人だけの逃避行となりました。むしろ、ここからが長かったような気がします」
カスターの話しは続き、人事担当者達は熱心に耳を傾けた。

「次にお世話になったご家庭は、少しばかり貧乏でしたが、親切なご夫婦と、兄妹と同じくらいの年の男の子がいて、とても楽しい環境でした。
しかし、ここで兄のほうが、この男の子から大変なことを頼まれたのです。
なんでも先祖にひどく愚鈍な人物がいたとかで、タイムマシンで過去にさかのぼり、その人物をサポートして、子孫に残すことになる借金を少なくして欲しいということだったのですが…。その人物がしょっちゅう失敗ばかりしていて、サポートするにも並大抵の苦労ではなくて…。
しかも、たまに遊びに来る妹のほうが、その人物のサポートが上手で落ち込むこともしばしば…」
「あの…、演劇の勉強は…」

「ふふ…。でも、それはそれで楽しい毎日だったようですよ。やがて、その人物が自転車に乗れるようになったり、ガキ大将とのケンカに勝ったりすることができて、兄のお役目は終了となり、過去の世界から無事に帰ってきたようです」
「頑張っだ甲斐がありましだね」

兄妹はその家庭を去ることにした。
二人とも数か月後に18歳と15歳の誕生日を迎えようとしていた。長男のほうは、そろそろ父親の跡を継ぐことができる年齢である。
「最後のご家庭では、6年くらいお世話になったことになりますね。今でもいい思い出です」

兄妹は誰にも知られることなく、自分達だけで長い旅をして、自分達の家に帰ってきた。二人とも強く賢く成長していた。

そして、二人は真相を知ることとなる。

それまで父の健康状態は分からないままだったが、両親ともに健在だった。
そして、劇団の座長は現在も父の親友が務めていたが、あの座長交代劇自体が、彼らによる自作自演の演技だった。

「驚きました。自分の子供も、周りの人達も、全て騙していたのですから…」
カスターはちょっと冗談めかして、苦笑いとともに呟いた。

両親と父の親友の説明によると、当時、一家は何者かから狙われていたと言う。その攻撃をかわすため、内部で争いが起こったように見せかけ、それによって次第に勢力が弱まって、放っておいても自滅するだろうと思わせる必要があったらしい。

カスターは、この部分の真相を人事担当者達に話す気はなかった。代わりにこんなふうに説明した。
「劇団をさらに有名にするために、ちょっとした騒ぎを起こす必要があると考えたようです。確かにその効果は抜群でしたが…」

兄妹は、その後も逃亡生活を続けなければいけないと、三人の大人は言った。まだ安心できる状況ではないらしい。
子供達の両親は、逃亡先を遠く離れた国の全寮制の学校に決めた。身を隠しつつも、きちんとした教育を受けて欲しいという親心であった。

カスターは、この部分も脚色を加えた形で話した。
「その後、兄妹は役者としての修行が足りないということで、今度は演劇学校に入学しました」
「再び親元を離れだのですか…」
誰からともなく、ため息が漏れた。

「でも、その学校で、演技以外にもさまざまなことを学ぶことができました。二人はいろいろと模索しながら、自分の進む道を自分で決めたのです」

「それは…、良いことなのですよね?」
この質問に、カスターは思わせぶりな表情で答えた。
「そう言って良いでしょう」

「ちなみに、子供達の両親と父親の親友は、引っ込みがつかなくなって、いまだに自作自演した生活を続けています」
「えええっ!!」
人事担当者達が予想通りの反応を見せてくれたので、カスターは思わず吹き出してしまった。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。