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若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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ドフラミンゴの日記 その13

(×月×日の続き)
その後、泣いている人質の背中を小突いて、戦闘中の船が向かった先を訊ねさせた。

「自分達の現在の位置は〇〇だ。あいつらと社長の船は東南のほうに向かったが…。社長の船を救出しに行くつもりなのか?…。気を付けて行け…」

今度は東南か。グズグズしてねえでさっさと決着をつけやがれ!と、一人悪態をついた。

逃げる側は逃げることに必死だし、追う側も相当にしつこいのだろうと思われた。こんなふうに闇雲に進んでいる船を追って、一体いつになったら追い付くことができるのだろうかと、うんざりした気分になった。

まあ、あんなふうに呑気に悪態なんかついていられたのは、女側(ペラムの味方)が優勢だったからかもしれないが。

引き続き、例の夫婦の船を全速力で追ったが、1時間経っても影すらも見えなかった。
朝からずっと同じ状況だ。何とかこの状況を打開しなければいけない。

考えた結果、空を飛んで一人で偵察に行くという結論に至った。船で追いつけねえなら、これしかねえ。

勝手に見張り台から飛び出して行こうとしたら、バーティの野郎が甲板から大声で呼ぶ声が聞こえた。とりあえず手を振ってサインを送る。通じたかどうかは分からなかったが、あいつはお人好しだから、逃亡とみなされることはないだろうと思った。

広い海原を飛んで渡るのは久しぶりだった。
空も海も青く、雲もちょうど良いくらいにあり、体全体で受ける風は心地良かった。

しばらくすると、1隻の船が見えてきたのでそこに立ち寄る。おれ達が追っているのとは無関係の船…なんとアイスクリーム屋だった。

こんなところで商売が成り立つのか訊いてみると、この辺りは海軍本部とインペルダウンとエニエス・ロビーが結ぶ三角地帯からそんなに離れていないので、海軍や世界政府の船が多いのだとアイス屋のにいちゃんは言った。

そいつぁおれ達の立場からするとあんまり良くねえと思いつつ、6段アイスのフレーバーをじっくり選んで注文しながら、例の夫婦の船とペラムの船を見なかったか訊ねた。

「それ、さっきここを通ってったあの3隻じゃないかな。猛スピードであっちのほうに行きましたよ。ああいうの、すげえ迷惑っすよね。海賊同士の喧嘩かなんかですかね」

ビンゴだ。
「どんな様子だったか詳しく教えてくれ。船の大きさは?破損の程度は?」

「3隻とも20人乗りくらいの船だったと思います。うち2隻はボロボロでした。機関銃で撃ち合ってたからこっちに流れ玉が飛んできそうでヒヤヒヤしたし、それに徐行もしないで近くを通ってったから、波も凄くて調理台にあったものとか全部床にぶちまけられたし。マジで最悪でした」

「海軍は側にいたか?」

「いいえ、3隻だけでした。今日はなんか知んないけど海軍さんの船が通んないんすよね~。あ、ここの場所に店を出してるのは週に2回なんですけど、いつもなら店出してる日はちょくちょく海軍さんの船が立ち寄ってくれるんっす。でも、今日は全然で。海軍さんは今日は忙しいんすかね~」

「フッフッフ、どうなんだろうな。有用な情報をありがとうよ。これの代金だが、もうすぐここを海軍の小型偵察船が通るから、それに乗ってる四角い顔の中年男に請求してくれ」

海賊は略奪するのが常だが、獲物がアイスクリームと言うのはあまりにも悲しいので、律義に後続隊があることを教えてやった。すると、

「あっ、あの船っすか?」
遠くのほうにバーティの野郎の船が見えてきやがった。しまった、のんびりし過ぎたか。

勝手に先に行ったおれに対して、奴はやはり怒っていなかった。「ドフラミンゴさ~ん」と手をブンブン振ってこっちに近付いてきた。

アイス屋も「お客さん、海軍さんだったんすね。いつもお世話になってます」と、素直に騙されていた。あの時のおれ達はあんなナリをしていたんだが、本当に海軍に見えたんだろうか。

その後、バーティも自分のと人質の分のアイスを買い、教わった方向に出発した。

船の上で、アイス屋から聞いたことをバーティに伝えた。
「あのアイス屋は週に2回しかあそこに店を出さねえから今日のことしか言ってなかったが、昨日と一昨日も海軍はこの周辺にいなかったかもしれねえな」
「つまり、2隻の船の戦闘に、海軍は干渉しないという姿勢を示している…ということですか」
「あくまでも推測だ」

バーティは四角い顔をしかめ、ゴソゴソと何かを出してきた。
「そうであれば、海軍はその2隻の様子をどこかから見ているかもしれません。さっきこういうものを用意したので…」

「何だ?これは…」
それは白いタオルに、黒く塗りつぶされた薔薇の花の意匠を描いたものだった。しかし、よく見ると薔薇の花の横に、小さく「黒いチューリップ」という文字が入っている。

「おい、このいい加減なデザインは一体何だ?」
「…それは訊かないでください。このタオルを体のどこかに、マークがしっかり見えるように結んでください。そうすれば…」

バーティはここでちょっと目を伏せた。
「もしも海軍に姿を見られても大丈夫です。絶対にとは言えませんが、効果が全くない訳ではないと思います」

「…。ほう?」
なるほど、そいつぁ面白い。おれはカンカン帽を脱ぎ捨て、そのタオルでほっかむりをした。

「これでいいのか?」
「…できれば、もうちょっとおしゃれな感じに結んでもらったほうが嬉しいかも…」

ブツブツ言い続けるバーティに構わず、おれは大笑いしながら空に飛びあがった。
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