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若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
目次

ドフラミンゴの日記 その2

×月×日
この新しい手枷と足枷はえらく重い。マゼランの野郎を恨む。だが、朝食に出たホットサンドイッチが美味くて機嫌が良くなる。

今朝はいつものフルブレックファーストではなく、食パンにチーズとハムを挟んで焼き色を付けたホットサンドイッチと、飲み物(今朝はアッサムを選択)と果物だけだった。

サンドイッチの味を褒めると、看守は申し訳なさそうな顔をした。
「いつもよりも簡素な食事で申し訳ありません。実は食事の予算を削るように指示がありまして…」

こいつがおれの前でまともに何かをしゃべったのは初めてだった。
「マゼランはケチくせえな。気にするな。おれはこれで十分に満足だ」
「はい…」
看守はそれだけで黙った。

おれの担当の看守は三人だ。朝はいつも同じ看守で、こいつはいつも午前10時で交代する。10時以降を担当する二人は日替わりだ。

食事の時は、看守の他に給仕人が一人付く。給仕人は料理を部屋の中に運んでくるだけで、おれの側には近付かない。飲み物をいれたり、テーブルに皿を出したりする役目は看守がやる。

朝食がフルブレックファーストの時は、給仕人はこちらが出したオーダーを料理人に伝えるために、この部屋と台所の間を何往復かしなければならない。だが、今日のような簡略化された食事の時はその必要はない。

夕食で全ての料理が一度に出されるのは、これと同じ理由ではないかと思われる。
レストランではないからメニュー自体をオーダーすることはできないが、ステーキの焼き方くらいはオーダーできるはずだ。それにフルコースの料理全てを一度に並べられると、最後のほうに食う料理が冷める。

まあ、別にどうでもいいが。少し不思議に思ってるだけだ。

食事が終わって独房に戻る途中、新しい海楼石の枷が重くて二度ほど立ち止まった。こちらが立ち止まっても、看守は手を貸そうとはしない。そう振る舞うように決められているのだろう。

しかし、やっと自分の独房にたどり着いて中に入ろうとした時、看守の顔にこちらを気遣うような表情が見て取れた。

昼食は普段と変わらなかったが、夕食はいつもより料理の数が少なかった。だが、消化機能の働きが低下しているのか、食欲があまりなかったから問題はない。


×月×日
朝、だるくて起きられなかったが、いつもの看守にたたき起こされる。
顔は洗ったが、ひげを剃るのはパスした。

朝食はチーズとベーコンとマッシュルームのホットサンドイッチだった。美味ではあったが、昨日のようには食が進まない。

昼食はトマトのリゾット。半分以上残した。
夕食はポトフ。香草が入っているのか、普段であれば食欲をそそるような香りがした。これも半分以上残した。

夕食の後、看守が体調が悪いのかと訊いてきた。
「こいつのせいだ」
おれは正直に、右手の手枷を目の前まで持ち上げて振ってみせた。

海楼石は後から効いてくるらしい。夜にベットで眠れるのがありがたい。


×月×日
今日もだるいが、いつもの看守にたたき起こされる。ひげを剃るのは今日もパスした。すると看守が剃ってくれた。面倒見の良さに驚く。それとも、囚人の身だしなみを整えるように指示されているのだろうか?

朝食はポリッジがあったので、それにだけ手を付ける。
昼食はスープと少量のパン。夕食も似たような感じで済ませる。

就寝前、その日の担当の看守(丸顔で団子っ鼻の小柄な男だ)が、こっそりホットワインとチョコレートを寝室まで持ってきた。
こいつらのこの気遣いぶりは、いささか度が過ぎているような気がする。

今日はもう寝る。明日の朝食もポリッジだけでいいと看守に伝えた。


×月×日
あれから一週間ほどぐったりして過ごした。だが、今朝は少し腹が減ったような気がする。

朝食の時、ポリッジの他に卵料理を希望したところ、看守が目を輝かせた。

***
「卵はどのように調理いたしましょうか?」

卵はその日の気分で、目玉焼き、スクランブルエッグ、オムレット、ポーチドエッグ、ゆで卵などに調理してもらう。焼き加減や卵の個数なども好みにオーダーできる。

「片面だけ焼いた目玉焼きを頼む。黄身が半熟になるように。付け合わせはいらない」

給仕人はドフラミンゴのオーダーを聞くと台所に走って行って、すぐに希望通りの卵料理を持って戻ってきた。

目玉焼きを食べている途中で、ドフラミンゴはマゼランに食事の予算を削られたことを思い出した。

「おい、卵料理を追加しちまったが良かったのか?」

みみっちいと思いながらも看守にこう訊ねると、
「副署長に見つからなければ、卵料理くらい誰も何も言わないでしょう」
という答えが返ってきた。

この程度なら問題ないということだろうか。

しかし…、とドフラミンゴは考えた。
空腹を感じ始めたということは、体が新しい海楼石に慣れてきたのかもしれない。これがマゼランの耳に入って、さらに純度の高い海楼石の鎖に取り換えられる羽目になるのは想像もしたくなかった。

「昼食に何かご希望はございますか?」
看守からにこやかに訊ねられたが、ドフラミンゴはやや用心深い気分になっていた。

「いや、まだ完全に食欲が戻った訳じゃねえからスープとパンだけでいい」
半分は本当だったが、半分は回復を悟られないための嘘だった。

(ふん、我ながら情けねえこった)

しかし、ドフラミンゴはすぐに気を取り直し、その日一日、大の字で獄中での昼寝を楽しんだ。
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