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夢恋

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 渚
目次

夢恋1

“僕は君の事がす・・・”

「はっ!
なんか凄い夢を見ていた気がするけど・・・なんだったかなぁ?」

いつもの朝。いつものベッド。
そんな馴染みのあるごく普通いつもな目覚めのはずだったが、今日の朝は不思議と違和感を感があった。でも、これはきっと変な夢を見たせいだろう。
それにしても、いったい僕はどんな夢を見てたのだろう?
殆どの場合、夢は覚めた瞬間に忘れてしまう。夢は記憶の整理という説もあるが、体験していない事はあくまでも本人が想像出来る範囲内の出来事のはず。しかし、今日の夢は僕が経験したことのない出来事だったような気がする。
そんなモヤモヤした気持ちが収まらないまま、僕はいつもの通いなれた学校へ行く為の準備を手早く済ませ、母が朝食の準備をしているダイニングへ向かった。

「あら、今日は早いのね?」

「うん。変な夢見みちゃって。なんか目が覚めちゃったんだ。」

「そう。じゃぁ、今日くらいはちゃんと朝ご飯食べていきなさい。」

いつもなら出かける10分前に目を覚まし、慌てて学校へ行く準備をするからどうしても朝ご飯というモノをゆっくり食べた事がない。でも今日は出かける1時間以上前に目が覚めてしまったから、珍しくゆっくり朝ご飯が食べられる。
こんな日はきっと久しぶりだ。

「いってきます。」

「気を付けてね。」

母親の“気を付けてね”は、いつも僕が急いで学校へ向かうから口癖のようになっているのだろう。そんな聞き慣れたフレーズを背中に受け、僕はいつものように学校へ向かった。
余裕を持って登校できた僕の下駄箱に、見慣れない紙が1枚置いてあった。
なんだろう?
中身を見る事に何故か少しワクワクしている自分に違和感を感じながら、僕は二つ折りにされ上靴の上に置かれていた紙を開いた。

『今日の放課後、話したいことがあるので一緒に帰りませんか?
ダメでも校門で放課後待っています。』

は!?
こ、っこれは、俗に言うラブレターというヤツじゃないか?!
なんて古典的なやり方だろうと思いながらも、こんな手紙をもらったのが初めてだった僕は、見知らぬ女性から好意を持たれている事が単純に嬉しかった。
でも、いや、まてよ。
もしかしたら、これはイタズラで校門の前で待ちぼうけしている僕をからかう為の罠かもしれない。誰がこんな事をするのか想像もつかないが、とりあえず放課後を待ってみる事にしよう。
そんなこんなで、落ち着かない僕の1日が終わりに近づき、あっという間に放課後になった。
本当にいるのか?本当はいないのか?
複雑な想いでドキドキしている僕は、右手足と左手足が同時に動くくらいあからさまな緊張をしたまま校門に向かった。
いったい誰だろう・・・
校門前でおどおどしながらキョロキョロしている僕に、一人の少女が近づいてきた。

「ちゃんと来てくれた。ありがとう。一緒に帰りませんか?」

「ひ、人違いじゃ、ないですよね?」

「私は君に手紙を渡しました。だから間違いじゃありません。」

敬語なのに強きな発言をする彼女は、驚くことに僕がずっと片思いをしていた相手だった。
何故彼女が僕なんかに声を、というか手紙をくれたんだろう・・・
何を話せばいいのかわからなかった僕はただただ気まずい空気を漂わせてしまった。そんな時間を15分くらいは歩いただろうか。道外れにある公園を見つけた彼女は、徐に公園を指差した。

「少し座りませんか?」

「はぁっ、ぁはぃいぃ。」

緊張で裏返った僕の返事が面白かったのか、彼女は手で口元を隠しながら笑っていた。
あ~・・・やっぱり可愛いなぁ。
そんな下心にも似た気持ちになりながら、僕は彼女に連れられるまま公園のベンチに腰掛けた。

「あのね。実は言いたい事があって・・・」

「うん。」

「実はね・・・私、君の事がずっと気になってて・・・」

「ちょっ、ちょっと待って!ぼっ僕もずっと君の事が・・・」

僕は、間が悪く彼女の言葉を遮るようにしゃべってしまった。そして、彼女はそのまま黙ってしまった。
後悔と期待で手汗が凄いことになっている僕の心臓は、止むことなく激しい鼓動を打ち鳴らしていた。止まない心臓の音と、次から次へと流れ出てくる汗で僕は頭の中が真っ白になった。
お互いが沈黙してどのくらい経っただろう。多分時間にして1分もないだろうが、3時間は経過していたように感じていた。そんな重い沈黙をかき消すように、僕は勢い任せに突拍子のない言葉を放った。

「ぼ、僕は、僕は君の事がす・・・」

ジリリリリリ・・・・・・
聞き慣れた目覚まし時計が、唐突に僕を深い眠りから覚ました。
僕は大きなあくびをしながら激しく鳴り響く目覚ましを止めた。そして、その時計が指し示している時間が、いつもより1時間以上早い目覚めだった事に驚いた。
なんか変な夢を見ていた気がするが、なんだったかな・・・・
曖昧な記憶を思い出すように、さっきまで見ていた夢の事を考えているが、まったく思い出せない。しかし、夢は大抵の場合自分が経験している事が元になっているらしく、記憶の整理という説がよく言われている。もし自分が経験したことのない事でも、想像可能な出来事の範囲でしかない。
僕は今日見た夢は自分の想像の範囲を越えていたように感じ、モヤモヤした気持ちが収まらなかった。それでも毎日の生活にこれといって大きな変化があった訳でもなく、いつものように学校へ行かなくてはならない。身支度を手早く済ませた僕は、母親が朝食の準備をしているダイニングへ向かった。

「あら、今日は早いのね?」

「うん。変な夢見みちゃって。なんだか目が覚めちゃったんだ。」

「そう。じゃぁ今日くらいはちゃんと朝ご飯食べていきなさい。」

「あれ?昨日も僕、早起きだっけ?」

「何言ってるの?昨日もいつも通りギリギリの時間でしたよ。いつもこれくらい早く起きてくれたら助かるんだけどね。それより朝ご飯食べちゃいなさい。」

「そう・・・。
わかった。」

デジャブのような現実に首をかしげながら、久しぶりに母親が作った朝食を食べるが、やはり昨日も同じモノを食べた気がしてならない。

「いってきます。」

「気を付けてね。」
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