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tatakai

原作: Fate 作者: もんじゃさん
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戦うこと

立花は悩んでいた。己の力のなさにだ。結局特異点Fは修復できたものの、何も役に立つことはできなかったからだ。
 だからというわけではないが、戻ってきてからというもの来る日も来る日もシュミレーターにこもり、教練に明け暮れていたのだ。
 その姿を見ていた一人の男が声をかける。
 浅黒い肌の青年。かつて特異点Fでは敵として戦った弓兵、エミヤという男だ。
「悩み事か??マスター」
 だがどうやら自分と戦っていたという記憶はないらしい。サーヴァントとはそういうもののようだ。
 彼が来てからというもの食堂ではうまい食事ができるようになった。それだけで助かっているのだが、こうして細やかな配慮も見せることがある。ドクターなどはおそらくは活躍した年代が近いことが大きな要因となっていると言っていたが、おそらくどの時代に生まれてもこの英霊はこうして手腕を見せていたようにも思う。
「まあ、その自分の力のなさにね、でも大丈夫、なんとかするからさ」
 そういって強がる。顔がこわばっているのが自分でもわかった。だがこんな戦い空元気でもないとやってられなかった。
「ふむ、マスターは戦うのが怖いか?」
「そりゃね、少し前までは一般人だったわけだし、でもそれが自分にできることならやろうと思うんだ。逃げるわけにはいかないよ」
 立花の言葉にこの英霊はわずかに考え込んだあと、言葉を口にした。
「つまるところ戦いというのは運だ。私は数多くの戦場を経験してきたが、今振り返っても自分が何故生き残ったのか、それは運が良かったことが最大の要因だろう。だがそれとは別に捨て身でもあった。恐怖はあったがためらいはしなかったのだ。だからこそだ。そこは勘違いしてはいけない。恐怖を感じる。それはよいことだ。だがためらうな。そのために守るべきものをはっきりさせておけ。そしてそれを守るためには踏み出せ。それが君の命を救うこともある」
「恐怖と運が大事ってこと」
「そういうことだ。卑屈になるな、マスター。君の感じているその感情は、とても尊いものだよ。大事にするといい」
 そのストンと胸に落ちるような収まりのよい言葉に励まされた立花は立ち上がる。息抜きもこれぐらいでいいだろう。
 彼は今日も戦う。前に進む。
 まだ人理修復の旅は始まったばかりだった。






 歩き去っていくマスターを見つめながら。弓兵はかつて戦いに身を費やしていた自身のことを振り返っていた。
 恐れはあった。でもそのことをきちんと意識していなかったように思う。どこか自分をごまかしていたのだ。ただ正義で有りたいと、自分を自ら洗脳し続けていたのだ。
 それに比べると此度のマスターは普通であった。
 凡庸だ。石を投げれば当たるような人物だ。故にこそ、それを自覚しているマスターのことをどかかで尊いと感じていたのだ。
「ふむ、私も気合を入れねばなるまい」
 弓兵の新たなる戦いもまた始まったばかりだった。
 この戦いがどこに行きつくのか、まだ誰も知らなかった。
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