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世界にただ二人だけ

原作: その他 (原作:Axis powers ヘタリア) 作者: 鮭とば
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世界にただ二人だけ

 リンゴーン
「サクラにアート!遊びに来たんだぞっ!」
「お、お邪魔します」
「アル君にマシュー君。よく来ましたね」
 あれから毎日のように訪ねてくるアルフレッドとマシューの愛らしい双子に、訳あってサクラと名乗っている菊は笑みを浮かべる。部屋の模様替えを切り上げて出迎えれば、太陽をいっぱい浴びて暖かな黄金色の頭が撫でてと突き出される。可愛い。可愛いは正義だと撫でると、ピクピクと動く猫耳が堪らない。
 …やはりアーサーさんの魔法に頼らず、猫耳作れば良かったですかね…。
 しかも感情で動く仕様にすれば、アーサーの機嫌も分かるわ萌えの補給もできるわで一石二鳥だったのに。魔法でいいだろうと言われた時もっと熱心にプレゼンすればよかった。
 過去の考えの甘さに内心後悔する菊の両手を無邪気に纏わりつく双子が引っ張った。
「あれ?アートはいないのかい?」
「ええ。今日は少し用があって、隣町に行ってますよ」
「隣町!?わお、今日はそこのこと教えてくれよ!」
「アルってば!教えて下さい、だろ」
「勿論いいですけど、もしかしてアル君は将来この町の外に出たいのですか?」
 中に招き入れお茶と午前中に焼いておいたクッキーを出しつつ、ふと疑問に思っていたことを問う。来る度に強請られるのは大抵この町の外の話。将来は旅に出たり違う町で働いたりしたいのかと思い尋ねれば、途端楽しそうだった表情に陰りが浮かんだ。
「…僕もアルも、その、」
「外に出れないんだ」
「外に出れない?」
「そ。町の外に出ちゃいけないんだぞ」
 町の外に出れない、とは。この双子のおかげもあってか町の住人達との交流もできるようになって来たのだが、近くの町に出稼ぎに行っている人もいるし、別に村の外に結界など張られていなかった筈だ。なのに何故、と首を傾げる菊に、アルフレッドは不満気に、マシューは悲しげに瞳を揺らした。
「「俺(僕)達は“神秘の双子”なんだって」」
「神秘の双子…?」
 それは一体、と問いかけようとした瞬間、ゴーン、と町の時計塔の音が三回響き渡った。それにヤバい!と叫んで双子が挨拶もそこそこに走り帰って行ってしまった。黄金色の尻尾が二つ揺れつつ遠ざかる後ろ姿に、菊は唸った。

「この町も何かがありそうですよ。また」

 夕食の鶏肉のソテーに手を伸ばしながら不満気に言う菊に、アーサーも顔面一杯に鬱陶しそうな表情を浮かべた。
「またあのクソ髭、厄介事に巻き込もうとしてやがるな」
「この間の村での騒動からまだ数週間なんですけどね…」
 流石の爺もおこです、とプリプリ怒る菊の気持ちもよく分かる。追われている者故目立ちたくないと言っているのに、アーサーと菊が頼っている情報屋は何度言っても何かしら事情がある村や町を居住にと二人に教えてくるのだ。他に頼れる情報屋もあまりいないし、何だかんだ政府の目が届かないだろう場所を毎度教えてくれるのはいいが、目立ってはそれも無に帰すだろうに。お兄さんだって事情がある所って知らなかったんだってば!と度々嘆かれるが、絶対嘘だと思う。
 今度髭を全部むしってやる、と意気込んで、複雑そうに俯いた菊に優しく問う。
「あの双子、助けたいんだろう?菊」
「……それは、はい。ですが、アーサーさんと私のことが知れ渡ってはいけないことは分かっています。今までの村や町では巻き込まれて仕方なく鎮静化しては来ましたが、それを政府に知られてこなかったのは偶然だと思いますし、下手に私達が関わった方があの双子ちゃんが危ないかも知れません」
「それはそうだ。俺達は政府が血眼になって探している【人間】だからな。…けど、気になるならその“神秘の双子”のこと、少し探ってみようぜ。事情によっては俺達がそんな関わらずともどうにかあの双子を外の世界に連れ出せるかもしれねぇしな」
「…そう言って、絶対関わることになりそうですがね」
「菊の予言か?」
「だってアーサーさん、子供に甘いじゃないですか」
 美人さんにも甘いですけど、と唇を尖らせる菊に、お前以上に弱い相手はいないんだが、と内心ぼやいてしまう。じゃなければこの長い二人っきりの旅路は続いていないだろうに、菊は全く持ってアーサーの心理に気付いてもいない。まあ二人旅を続けられればアーサーはそれでいいので全く言う気はないのだが。
「とにかく、明日からはそれの聞き込みもやってみるな」
「すみませんがお願いします。私ももう少しこの家の内装を整えつつ、町でさりげなく聞き出してみますね。そういえば隣町はどうでしたか?」
「特に何も。商売がてら新聞やら噂話やらも聞いたが、政府はまだ表立って俺達を追ってはないようだ」
「そうですか…」
「暫くは用心してた方がいいだろう。ここの案件がどう転ぶかは分からねぇけど、無事どうにか落ち着いて俺等のことが風化できれば、俺達は『あの時』を迎えられるだろうしな」
「はい。では、英気を養うためにももっと食べなければですね!」
「…まだ食うのか」
 話しつつも机の上の料理を綺麗に平らげた菊が第二弾です!とお鍋を持ってくる姿に、流石にドン引きしたアーサーは食後の紅茶へ手を伸ばした。
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