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にこいち

原作: ONE PIECE 作者: うさねこちゃ
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拝啓 兄上殿

 ゴミ一つ、塵一つない、綺麗に片付けられた部屋。
 テーブルには出来上がったばかりの料理の数々が、美味しそうな匂いを漂わせている。
 そして、おれの目の前には五年ほど前に別れた、いや、兄の元に置いてきたローが、エプロンを身に着けてにこやかに笑っていた。
「お待たせ、コラさん」
 そして彼はこう宣うのだ。
「おれ、今日から一緒に住むから!」
 五年前に比べて、ローはかなり成長したもんだ。
 別れた時は13歳くらいだったはずだから、今のローは18歳くらいなんだろう。
 病弱だった身体も、今ではもうすっかり健康体そのものに見える。
 まあ、たまに兄からローの様子は聞いていたので、まだ無茶の出来ない身体であることは知っているのだが。
「――帰れ」
「何でだよっ! コラさんの為に、今まで花嫁修業も頑張ってきたのにっ!」
 いや、だからだよっ!
 そもそもお前、男の子だろう!?
 そう言い返したい言葉をグッと飲み込んで、おれは腕を組んだままローを見下ろす。
 おれがローを兄の元に置いて離れたのには、ちゃんとした理由がある。
 それは、おれがローのことが好きだからだ。
 ローの為を思って離れたっていうのに、一緒に暮らすことになっちまえば、手を出さないでいる自信がない。
「コラさん! おれのこと〝愛してる〟って言ってくれたじゃないか! だからおれ……、病気の治療も頑張ったし、生きようって思ったのに……」
 ローの目は心なしか潤んでいて、その手は縋るようにおれの腕のシャツを掴んでいる。
「おれ、コラさんと一緒に居られねェんだったら、生きるの辛い……」
 そう言ったローは、おれの胸に頭を押しつけて、泣きだしそうだった表情を隠した。
「ロー……」
 おれは今でもローのことが好きだし、大切にしたいと思っている。
 そのローがおれと一緒じゃなきゃ辛いと言うんだ。
 だったら、自分自身の内にある欲望を隠してでも、傍に、一緒に暮らすほうが、お互いにとって幸せなんじゃないかと思えてきた。
「降参だ。解った。お前がそこまでおれと居たいって言うんなら、一緒に住もうじゃねェか」
「ヘヘッ! やった! コラさん、やっぱりチョロイな」
 さっきまで泣きそうだったはずの表情は何処へやら。
 満面の笑みでおれに抱きついてきたローは、懐くようにおれの胸に頭を擦り寄せてくる。
「お前の性格も、昔から変わっちゃいねェよ」
 諦め半分、期待半分。
 おれの〝好き〟とローの〝好き〟は絶対に違うものだ。
「それより、飯が冷めちまう。早く食おうぜ。あ、手はちゃんと洗ってこいよ」
「ハイハイ」
 それでも、もう一度同じ時間を過ごせることは、素直に嬉しいもんだ。
 テーブルの上には肉じゃがに焼き魚、ほうれん草の和え物と厚焼き玉子に味噌汁。
「スゲェ美味い」
「当たり前だろ。愛情たっぷり入ってるしな!」
 元々ローは手先が器用なことや几帳面なこともあり、子供だった頃に作ってくれた料理も美味いもんだった。
「ありがとうな」
 更にレベルアップした手料理を全て平らげ、洗い物をしているローに促されるまま風呂に入る。
 風呂は今まで使ったこともない入浴剤が入っていて、疲れた身体をリラックスさせてくれた。
「アイツ、花嫁修業してたって言ってたっけ」
 兄のドフラミンゴから、そんな話は一度も聞いたことがない。
 そもそも、ローはドフラミンゴの経営する会社の右腕として育てられているはずだった。
「ドフィ、ローがおれの家に住むって知ってんのか?」
 風呂の中でおれは一人で呟く。
 今更もう一度帰れと言ったところでローは帰らないだろうし、二度も拒絶したんじゃ、傷つけるだけでは済まない。
「一応、連絡しておくか」
「なにブツブツ言ってるんだ?」
「うおっ!?」
 身体を洗おうと思って湯船から出ようとした瞬間、開かれたドアからローが入ってくる。
「背中流してやるよ」
「いやいやいや、自分で出来るし」
「遠慮すんなって! 昔はよく洗いっこしてただろ?」
 昔は昔、今は今ですっ!
 そう抵抗する間もなく、腕を掴まれたおれは湯船から出されてローに背中を晒した。
 まあ、背中を向けるってのはローを見ないで済むってことだから、今のおれにとっては有り難いことだ。
 一瞬だけ見えたローの裸は、五年前の子供の頃とは全く違う。
 少年らしい身体つきを残しながらも、適度に筋肉の付いたローの身体はすらりとしていて、思わず触れたくなるくらいだ。
「ま、前は流石に自分で洗うだろ?」
「お、おう……」
 それだけは昔から変わらない。
 とはいえ、ローが子供の頃はおれは恥ずかしがるローの全身を洗っていたけどな。
 その後、反対にローの背中を流し、頭も洗ってやったおれは、入浴剤のお蔭で濁っている湯に二人で浸かり、程よい感じに温まったのだった。
「コラさん……」
 一つしかないベッドに当たり前のように入り込んできたローは、おれの気も知らねェで抱きついてくる。
 薄い布地越しに触れる肌は、何故か柔らかいものに感じてしまうから困る。
「何で抱きしめてくれないんだ?」
 無邪気なお子様からの追い打ちに、小さくため息を吐きだしたおれは、正面からローを抱きしめて腕の中に閉じ込めてやった。
「おやすみのキスは?」
「早く寝ろ、クソガキ――」
 ドキドキとする高揚感の所為で寝られそうにもない。
 聞こえてきたローの寝息を胸元で感じながら、額にかかる髪を退けたおれは、眠るローの額にそっとキスを落としたのだった。
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