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神様はアタシの胸に

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: 山科
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第32話

「……くだらない。とにかく、貴女は黙っていてくださいな」
 パチン、といい音を鳴らし、綾瀬川奈々子はあたしのおっぱいをビンタしてきた。
「痛ってえ!」
『うきゅ……』
「……シャル?」
『…………』
「おいっ!」
『…………』
 気絶しやがったよこの娘。ホントに使えない神様だなコラ!
「どういたします? 降参しますか?」
 余裕綽々といった表情で尋ねてくる綾瀬川奈々子。
「……するわけねーだろ。ばーか」
「っ! ……なら、仕方がありませんわね。貴女も、私の奴隷にしてあげましょう」
 すっと、あたしに手を伸ばしてくる綾瀬川奈々子。
 涼太も、変態も、遠くの方で戦闘音が聞こえてきているから、助けには来れないだろう。
 もう本当に駄目かもしれない。
「良く見ると、なかなか綺麗な顔をしているではありませんか」
 綾瀬川奈々子の手が、あたしの頬に触れる。
 しなやかな細い腕から伝わる感触は、想像よりも柔らかいものだった。
「っ!?」
 綾瀬川奈々子の手が触れた瞬間。あたしの脳に、何かが流れ込んできた。
 思念。イメージ。映像。
 ここに来る前、涼太に触れたときと、同じ感覚。
 あたしの能力、『性思読込』が発動したのか?
 いや、でも……今流れ込んできたのは、エロいイメージじゃなかった。
 もっと……こう、暗いものだった。悩みとか、そういった類の。
「……っ!」
 そういえば、シャルは能力を説明するときに、こう言っていた。
『『性思読込』。飛鳥が触れたものの想いを読み取れるのじゃ。ただし、重大な悩みや妄想、つまりエロい思考限定で、じゃが』
 と。
 ってことは、だ。

 今流れ込んできたイメージは、綾瀬川奈々子の抱える、重大な悩みってことなんじゃないか?

 もし、仮にそうだとしたら。
 あたしにも、まだ道があるかもしれない。
 もう一度。もう一度触れれば、もっと明確なイメージが流れ込んでくるはずだ。
「綾瀬川奈々子」
「なんですの?」
「あたしの頬に触れてくれ」
「……気持ち悪いですわね。貴女、レズですの?」
「違うわっ!」
「……触れてくれと言われたら、触れたくなくなるのが人間というものですのよ?」
「うぅ……。ええい! このビッチ! 雌豚! ヤリマン! 酢豚! ぼっち! ブサイク! 変態! ゴミクズ! 虫けら! ゴミ箱! 塵取り! 雑巾! ええとええと……貧乳! コミュ障! それからそれから――」
「だ、誰がブサイクですのっ!」
 怒ったのか、手を振りかぶり、あたしの頬をビンタしようとする綾瀬川奈々子。
 よし、これでいい。これで、あたしの能力は発動する。
「っ! このっ!」
「きゃうっ!」
 頬の痛みと、綾瀬川奈々子からイメージが流れ込んでくる感覚が、あたしを襲う。
 吐きそうだ。
「……っ!? そうか……そういうことか……」
 綾瀬川奈々子から流れ込んできたのは、過去に関するものだった。さっき少しだけ言っていた、不幸。その断片。
 それでも、多分これが、綾瀬川奈々子が狂ってしまった(って言ったら語弊があるか?)原因。
「……何、笑っていますの?」
「いや……ようやく、わかったからさ」
「……貴女がマゾだということが?」
「違うっ!」
「なら、何がわかったっていうのですか?」
 変態を見るような目で、あたしを見てくる綾瀬川奈々子。
 その目はやめてくれと言いたい。けど、モザイク化計画開始までもう時間がないから、んなことはどうでもいい。
 あたしは、とびっきりの笑顔で、こう言った。

 「アンタのコンプレックス、治療してやる!」




「本当に……できますの? そんなこと」
 あたしの話を聞いた綾瀬川奈々子は、奴隷たちを遠ざけ、あたしと二人っきりになった。
 まだ半信半疑だけど、可能性があるなら賭けてみたいっていうのが、心情だろう。
 敵であるあたしの話を、こうして聞いているんだから。
「あたしの妄想力、『理想の自分(ドリーム・イズ・マイン)』は、妄想の中でのみ、コンプレックスが治療されているっていうものなんだ。本来なら微塵も使えない妄想力だけど、この妄想力をリアライズすると、現実のコンプレックス、ニキビくらいなら、治療できる。それも永久的に。……使ったら、ちょっと疲れるけどね」
 女の子としては嬉しい妄想力だけど、正直微妙すぎる妄想力。
 どうせなら、もっとカッコよくて、応用が利く妄想力がよかった。
「……信用しても、いいんですの?」
「もちろん」
「わたくしの身に何かあったら、今は動きを止めている機械が、自動で作動します。作動したら、その時点でエロマンガ島内にウイルスがばら撒かれますわ」
「わかってる。だから、もしアンタのコンプレックスを解消できたら、もうこんな計画はやめてくれ」
「……考えておきますわ」
 目を閉じる綾瀬川奈々子。
 あたしは、意識を右手の指先に集中して、左手で綾瀬川奈々子の前髪をかき分ける。

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