ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

神様はアタシの胸に

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: 山科
目次

第22話

 右手を振り上げる智。
 それとともに、竜の形をしている巨大な水の塊が、うねりを打つ。
「いくよ!」
 右手を振り下ろす。
 刹那、水の塊は、無数の触手のようになり、あたしと涼太めがけて襲いかかってきた。
 これ、避けられなくね?
 ゲームオーバー?
「リアライズ! 『勇敢に戦う弱者(ヒーロー・ブレイブ)』っ!」
「のわっ!?」
 あたしの身体が、宙に浮いた。
「大丈夫か?」
「……あ、ああ」
 どうやら、涼太に助けられたらしい。
 いわゆるお姫様抱っこというやつをされながら。
「ふう……」
 水の触手から距離を取ったところで、涼太に下ろされる。
 『勇敢に戦う弱者』。レベル3の、涼太の妄想力だ。
 たしか妄想力の内容は、恐怖心の排除と身体能力向上だったはず。
 リアライズすると、通常の3倍の運動能力を得られるんだったかな?
「サンキュー涼太。助かったよ」
「惚れたろ?」
「惚れるか!」
 まあ、少しドキドキしたのは本当だけど……って、んなことねえぞ! ちょっとした吊り橋効果だぞ!
「へえ……さすが涼太くん。まさか今のを避けられるなんて」
「そりゃどうも」
『飛鳥、涼太。ここは一旦引いた方がよさそうじゃ』
「だな」
「うい」
 シャルの言葉に従い、あたしと涼太は階段まで走った。
 しかし、
「無駄だよ」
 智が操る水の触手が、絡み合って一個の巨大な水の塊になり、階段への出入り口を塞いでしまう。さしずめ、水の壁ってところか。
 って、冷静に観察している場合じゃない。
 このままだと、逃げられない。
「さあ、覚悟してよ、二人とも」
 ゆっくりと、歩いてくる智。
 普段の智からは感じられない雰囲気を出していて、怖い。
「しゃ、シャル! あたしの能力はまだ使えないのかよ!」
『……実は、使えないこともないのじゃが……しかし』
「しかし?」
『戦闘向きの能力ではないのじゃ』
「とりあえず、能力の説明をしてくれ! ないよりはマシだ!」
『う、うむ……能力名は、『性思読込(エロティック・リーディング)』。飛鳥が触れたものの想いを読み取れるのじゃ。ただし、重大な悩みや妄想、つまりエロい思考限定で、じゃが』
「…………」
 確かに、使えない。
『実は、今まで黙っていたのも、対して使える能力じゃないからなんじゃ。言ってしまうと、飛鳥が協力してくれなくなってしまうかもしれんしの』
「だからって黙ってるなよ!」
『……すまぬ』
「にゃはは。相談は終わった? じゃ、もういいかな?」
 智はそう言うと、手を動かし、水を操る。
 先ほどよりも多い触手が、あたいたちが逃げられないように、四方八方から迫ってくる。
 後ろには壁。
「きゃっ!?」
「ぬおうっ!?」
 あたしたちは、ついに水の触手に捕えられてしまう。
 何故か、あたしだけ亀甲縛りなのが気になるけど。
「つ、冷たい……」
 水の温度はかなり冷たかった。
 それに、微妙にこの水、振動している。
 くすぐったい。
「ぐふぉっ! や、役得……」
 それに、あたしの制服の上着はいつの間にかどこかいっており、今はワイシャツのみ。
 そのワイシャツが、この水で透けてしまっていた。
 涼太のやつが、あたしを視姦してくる。
 後で殺す!
「にゃはは。それじゃあ、今から奈々子さんのところに連れていくね。そこで、少し軟禁生活を送ってもらうけど、すぐに終わると思うから、心配しなくてもいいよ?」
「心配するわ!」
「大丈夫だって。衣食住、全て保障するから」
 衣食住揃っていても、軟禁されるのが嫌なんだよ!
 必死にもがいて、なんとかこの水から逃れようとするけど、どうにもならなかった。
 このままじゃ、マズい!
「シャル、人の姿になれないのか?」
『無理じゃ。見ての通り、触手は飛鳥の身体を亀甲縛りで拘束しておる。それにさらしも巻いてあるしの。胸をこうしてしっかりと押さえこまれると、人の姿になれぬのじゃ』
「涼太! お前の妄想力でなんとかならないのか?」
「無理だ。俺が妄想力をリアライズするには、インターバルが1時間必要なんだよ。さっき使ってから、まだ5分くらいしか経ってねえから」
「使えねえなお前は!」
「仕方ねえだろ!」
 涼太にあたっても仕方がない。
 この状況、どうすれば打開できる?
 あたしの能力も、涼太の妄想力も、シャルも当てにはできない。
 ……てゆーか、絶体絶命?
「お困りの様ですね」
 どこからか、声が聞こえる。
 この、あたしの気分を悪くする声は、まさか――
「百の白子!」
 階段への出入り口を塞いでいた水の壁がはじけ飛ぶ。
 現れたのは、いつぞやの変態、始まりの男だった。
 ちなみに、今回はちゃんと服を着ていた。
「あんた、捕まったんじゃ」
「ふふふ。実は、私の特技は建物の構造を一瞬で見抜くことでしてね」
「…………」
 要するに、脱獄したらしい。
 最近、このエロマンガ島のセキュリティーが信じられなくなってきた。
「でも、なんでここに?」
「……私は気がついたんですよ」
 あたしを見るアダム。
 やめろ見んなキモい
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。