ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

神様はアタシの胸に

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: 山科
目次

第18話

……もっとも、それは妄想力を使える人間がこの女に協力することが前提だけど。
「どう? 不可能な話ではないでしょう?」
「…………」
 それは、認めるしかない。
 この島さえ、支配すれば。
 世界を、支配できるかもしれない。
「それに、今のわたくしたちには、もう一つ、大きな力がある」
「大きな力?」
「神、ですわ」
『神……じゃと?』
 尋ねるシャル。
「ええ。絶対神とやらに反乱を起こした神と、取引するのです。この世界を支配するのに協力すれば、絶対神を倒すのに力を貸す、と」
『っ! そんなのに協力する者などおらぬ!』
「そうかしら? 実際、何人かの神はわたくしに協力してくれていますわよ?」
『な……っ!?』
「この前貴女方の前に現れたアダム……あれに宿っていた神は、元々わたくしに協力を誓った神。それを、わたくしがアダムに宿らせたのですから」
『うむむ……』
「さて。いかがですか? わたくしに協力する気はありますかしら? 椎名飛鳥さん」
「……なんで、あたしの名前を?」
「調べましたわ。その程度、わたくしにしたら、造作もないことですので」
「…………」
 コイツ、やっぱり世界を支配するとか言っているだけあって、そこそこの力は持っているらしい。
「で? どういたします?」
『そんなの、断るのじゃ!』
「貴女ではなく、飛鳥さんに聞いているのです。少し黙っていてくださいな」
『ぬう……飛鳥、どうするのじゃ?』
「…………」
 選択肢は二つ。
 協力するか、否か。
 ここで、コイツに協力するって言えば、翔平太を治してくれる上に、支配した世界の少しくらい貰えるかもしれない。
 なんて魅力的な提案なんだろう。
 あたしは、綾瀬川奈々子に――

「クソ喰らえ、バーカ」

 ――協力なんて、するわけがない。
「……残念ですわ。それならば仕方ありません。わたくしの邪魔をする者は、全て排除して差し上げます」
 不敵な笑みを浮かべる綾瀬川奈々子。
「そうですわね……今度は貴女の学友たちにでも、犠牲になってもらいましょうか」
「っ!? ま、待て――」
「それでは、また。椎名飛鳥さん」
 あたしの静止を無視し、踵を返して立ち去る綾瀬川奈々子。
「っ!?」
 一陣の風が吹いた後、そこには誰もいなかった。



 綾瀬川奈々子があたしの前に現れてから、数日が経った。
 『学友たちに犠牲になってもらう』。
 綾瀬川奈々子のその言葉が気にかかっていたが、今のところうちの学校に異常は起こっていない。
 まあ、エロマンガ島内にある学校は、どこもセキュリティーが厳しいから、簡単には手が出せないんだろうな。
 そう安心して学校に登校していた今朝が、今は懐かしい。

「きゃぁあ――――っ!?」
「いやっ! 離して!」
「でゅふふ……きゃわいいなぁ」
「ペロペロしたいお」
「小生、もう我慢できないでござる」
「いやぁ! キモい―――ッ!」
「おうふっ! もっと罵ってくだされ!」

 教室が、阿鼻叫喚と化していた。
「ど、どうしたんだ!?」
 教室の外に避難していた女子生徒に尋ねる。
 この状況は、普通じゃない。
「わ、わからないの……突然、男子がおかしくなって、女子に襲いかかってきたのよ」
「……っ!」
 教室内の様子を、もう一度見る。
 男子生徒は虚ろな目をしながら、逃げ惑う女子を追いかけていた。
 まるで、いつぞやの翔平太のように。
『これは、あの娘の仕業じゃろうな』
 あたしにしか聞こえないくらいの小さな声で、シャルがそう言った。
 綾瀬川奈々子。
 あいつの仕業……。
「どうするか……」
 今のところ、捕えられた女子は、腕や足をぺろぺろされているだけ。
 犯される、なんて事態は起きていない。
 それは不幸中の幸いだけど、いつ最悪の事態が起きるか、予断を許さない状況だ。
「うおう!? なんだこれ!?」
 横から聞きなれた声。
「涼太?」
「おう」
 宮島涼太。
 手に鞄を持っているということは、今登校してきたようだ。
 いつもの間抜け面でそこに立つ涼太は、教室内の男子生徒たちのように、虚ろな目をしていなかった。
 ウイルスに感染していないのだろうか?
「お前はなんともないのか?」
「何が?」
「……なんともないみたいだな」
『……どういうことじゃ』
「? 何が?」
『いや……このウイルスとやら、誰しもに感染するわけではないのか……他の教室ではウイルス感染はみられないとなると、拡散しない? ならば感染者はどうやって……アトランダム? 何か共通点が? いや、それとも――』
 シャルは、ぶつぶつと呟きながら、何かを考え始めた。
 お願いだから、声を出さないでほしい。
 「あいつのおっぱい、喋るんだぜ」みたいな噂が流れたらどうする。
「おい飛鳥」
「なに?」
「これ、一体どういう状況なんだ?」
 教室の惨状を確認したのだろうか、涼太がそう尋ねてきた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。