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神様はアタシの胸に

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: 山科
目次

第9話

第2章

 モザイク化計画の犯人をぶったおすと宣言したものの、あたしにできることは今現在何もなかった。
 シャルが言うには、犯人が誰かも、どこいるのかもわからないらしい。
 神様っていうのは人間が思っているほど万能じゃないとのことだ。
 そんなこんなで、今日は月曜日。
 とりあえず、あたしは学校に行くことにした。
 学校を休んだところで犯人が見つかるわけでも、翔平太が治るわけでもない。ただ留年に一歩近づくだけだから。
 クラスメイトにバレないように胸をさらしできつく押さえつけ、制服に着替える。
『うむぅ……苦しいのじゃが』
「我慢しなさい」
 あたしだって苦しいんだから。
 制服に着替え終えてから、昨日買ってきておいた菓子パンでお腹を満たして学校へと向かう。
 あたしの通う真龍(しんりゅう)高校は、あたしと翔平太が暮らす家から徒歩で20分ほどの距離にある。
 学力、妄想力偏差値ともに真ん中より少し下。要するに馬鹿高校だ。まあ、部活は強いけど、帰宅部のあたしには関係ない。
 入学して2カ月経つのでそろそろ通うにも慣れてきた通学路を歩きながら、学校へと続く道程を少しずつ消化していく。
『おお、飛鳥! ここが学校とやらか! でかいのう!』
 学校に着くと、あたしのおっぱいが弾みながらそう言った。
 途端、周りの人間の視線が、あたしに集中する。
「おい……今」
「ああ。あいつのおっぱい、動かなかったか?」
「つか、喋ったんじゃね?」
「めっちゃ揺れたんじゃね?」
 なんて会話が、周りで囁かれ始める。
 これはマズい!
 下手をすれば、明日からあたしは学校内で……いや、エロマンガ島内で、痛い娘のレッテルを張られてしまう。
 それだけは阻止しないと!
「ふんっ!」
『ぬわっ!?』
 あたしは、周囲の人からはわからないように鞄で自分の胸を叩くと、そのまま体育館にあるトイレへと直行する。
 幸い、トイレにはあたし以外誰もいなかった。
「シャル、あんた次喋ったら、殺すわよ」
『むぅ……そんなこと言われても――』
「い・い・ね?」
『……わかったのじゃ』
 なんとかシャルに今後喋らないことを約束させ、あたしは昇降口へと向かうために今来た道を戻っていく。
 そのまま、何事もなかったかのように昇降口に入り、靴を上履きに履き替えると、4階にある1年7組の教室へと向かった。
 窓際の最後列にある自分の机に腰を下ろすと、あたしは机にうつ伏せになる。
「……はぁ」
 正直、この数日間で起きたことによって、あたしはかなり疲れていた。
 肉体的疲労もだけど、精神的疲労が、かなり蓄積されている。
 睡眠時間はきちんと取っているけど、今は少しでも多く眠りたい。
「大丈夫か? なんか疲れてるみたいだぜ?」
「夜更かしでもしたのかにゃ?」
 そんな風にあたしが体力の回復に努めていると、二人の人物があたしに話しかけてきた。
「……ああ、涼太と智か」
 幼馴染みの宮島涼太(みやじまりょうた)と、クラスメイト兼親友の上野衣智(かみのいとも)。二人とも、あたしのことを心配してくれたらしい。ありがたいことだ。
「……なんかあったのか?」
 顔を上げてみると、そこにはいつもの馬鹿っぽさを感じさせる笑みではなく、真剣な表情をしている涼太の姿。
「……別に、なにも。ちょっと夜更かししちゃっただけだよ」
 神様が急に目の前に現れたことや、翔平太が入院したことを話すわけにはいかないから、あたしはそう答えた。
 嘘をついているからか、少し申し訳ない気分になる。
「にはは。駄目だよ、夜更かししちゃ。お肌に悪いんだから」
 ショートカットの髪を揺らし、人懐っこい笑みを浮かべながらそう言う智。
「うん、気を付けるよ」
 あたしは、できうる限り笑みを浮かべて、智にそう答えた。
 ちゃんと笑えているかは、わからない。
「そうそう。オナニーのし過ぎは、身体に悪いぞ?」
「「…………」」
「え? なに、その汚いものを見るような目は?」
「……最低」
「涼太くん、死んだ方がいいよ」
「あっれぇ? 場を和ませるためにジョークを言ったのに、何故かフルボッコにされたよ」
「女子にそんなジョーク言ったら、そりゃフルボッコにするでしょ」
「え? 女の……子?」
「殺す」
「ひぃっ!? こ、怖いです飛鳥の姉さん!」
「誰が姉さんだ!」
「にはははっ!」
 あたしと涼太と智の、変わらない日常。
 おかげで、あたしの精神的疲労は、いくらかましになっていた。
 キーンコーンカーンコーン、と朝のHR開始を告げる鐘が鳴る。
「ほら、席に着け」
 ガラガラと引き戸特有の音を鳴らしながら、この1年7組担任の徳元知弦(とくもとちづる)先生が入ってきた。
「……なんかあったら相談しろよ?」
「ボクでよければ、いつでも力を貸すからね?」
 そう言って、自分の机へと戻っていく二人。
 と言っても、涼太の席はあたしの隣なのだけど。
 なんだかんだ言って良い奴たちだな、なんてことを思いながら、あたしは頬杖ついて目を閉じた。
 HR? 別に聞いてなくても問題ないよ。
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