第四話「正体」
黙って文庫本を見つめている鷹野を背に、生徒たちは興奮気味にまくしたてた。
「初めから出来レースだったんだ!! 主催者の息子を紛れ込ませて!」
鷹野が主催者の息子……?
唐突な展開に、俺は言葉を選べずにいた。
「で……出来レースって」
「だから俺たちは初めから、レッスン料だけ搾取されるために存在してるってこと!」
「レッスン料……」
そう言えばお金のことを忘れていた。そんなハナシなかったから。
「聞いてないだろ、レッスン料。わざとハナシに出さないで、免除させるように見せかけるんだよ」
「そーそ、キミは特別だからって、後から高額な請求が来る。よくある詐欺の手口さ」
うまく頭が回らないでいると、鷹野が読んでいた本をパタリと閉じる。
「レッスン料がかかるのは詐欺じゃない」
「!?」
「もちろん俺もある。ていうか実力も無い素人が、金も払わずに演技指導してもらえるワケないだろ。あと俺は主催者の息子じゃないし、出来レースっていうよりは……」
鷹野の言葉も聞かずに、その場に居た全員がいきり立った。
「ふざけんなよ! 騙す側の意見なんて聞くもんか!!」
一気に立ち上がり、俺と鷹野以外の生徒たちは居なくなった。
「……」
俺は黙っている鷹野を、ただただ見つめていた。
心なしか少し震えている。
「……鷹野?」
俺が声をかけると、鷹野は頭を抱えて息を吐いた。
「俺が悪いんだ……」
× × ×
今回の件を上と講師が相談している間、俺と鷹野は非常階段に二人並んでいた。
「俺がオーディション側のニンゲンだっていうのは本当だ。ていうか審査員とコネがある。審査員のプロデューサーに、俺を使ってくれるように頼み込んだ」
「審査員のプロデューサーってもしかして……」
「アクセライダーのプロデューサーだ」
「……」
鷹野が妙に場慣れしているように見えたのは、芸能界に繋がりがあったからだったのか。
「俺の父親は、初代アクセライダーをやっていて、プロデューサーとも顔見知りだった。けどハナシは結局立ち消えになって……」
「え?」
「オヤジが止めに入ったんだ。息子を甘やかさないでくれって」
「え、え、え、ちょっと待って!!」
「?」
「初代アクセライダーって、あの初代!? エンジンかける時にバイクごと一回転する、あの初代!?」
「そうだよ」
「い、イカした決めポーズの!?」
俺が興奮を押さえられずにいると、鷹野はフハッとわずかに笑って、後を続けた。
「とにかくな、俺の父親とプロデューサーの意見は対立していた。だから最初は諦めた」
「……」
「けどだからこそ、逆に親父に認めさせるいい機会だと思ったんだ」
「……」
「それから別の企画を立ち上げた主催者に、一切の手心を加えないと約束してもらった。俺がオヤジの息子だということを忘れると」
「じゃあ……皆が言ってた‴出来レース‴っていうのは……」
「立ち消えになったオーディションについての誤情報だよ」
「どうしてそんなに……」
「お前みたいな、アクセライダーを夢見てくれる子供たちが居るから」
そう言うと、鷹野は俺の頬を撫でて笑った。
「!!」
俺は子供じゃない……そう口にする前に、鷹野は俺の首筋に顔をうずめた。
「!!?」
「ん……」
全身が異様な熱を放っている。
「イイ匂い……」
「なっ、なに……」
「知ってる? 実は俺も昔ウサギ飼ってたの」
知らないよ、と言う暇もなく、鷹野は首筋に繰り返しキスをした。
「え……え!?」
「もうヤダよ……ヒトの悪意とか、大人とかの事情に……もう疲れた」
「ど、どうしたんだよ、鷹野」
「オーディションなんてもういいよ」
そう言うと鷹野は俺の股間に手を添える。
「鷹野!」
「感じて……?」
「っ!!」
俺が突き放すと、鷹野はそれこそウサギみたいに濡れた瞳をして、悲しそうに俺を見上げた。
「俺が裏で繋がってたのがイヤ?」
「そういうことじゃなくて!!」
鷹野は俺をその場に押し倒した。
「なあ知ってる? 俺、最初からお前のこと好きだったの」
「なっ……、急に何を……」
「だってお前可愛いだもん」
「可愛いとか言うなよ! 俺は女みたいだって言われるのが一番イヤで!」
服を脱がせようとする鷹野に必死に抗って、俺は手足をジタバタさせた。けれど動かない。
「女みたいだなんて言ってない。ピュアで可愛い。オーディションの時、俺のこと励ましてくれたのも嬉しかったし、めっちゃ緊張してた俺をカッコいいとか言ってくれて――」
「そ、そんなこと今さら!!」
鷹野が俺の唇に自分の唇を押し当てて、口を塞がれた俺が何も言えないようになると、もうカラダで抵抗するしかなかった。けれど思ったより力が入らない。
「ねえ、俺のこと好きって言って?」
「! な、何だよ」
「俺、周りからずーっと有名人の二世だって言われて腫れものに触るように扱われてきたの。
だからお前が積極的に接してくれて嬉しかった。ねえ好きって言って?」
服の中の胸をまさぐり、腰を近づけて求める鷹野の変化に、俺はまだ追いつけずにいた。
「す……好きっていうか」
「嫌い?」
「きっ嫌いじゃないけど!!」
「じゃあして?」
耳や首筋、胸元――全身に浴びせられるキスに、思わずくらくらしてしまう。けど俺ももう初めてじゃない。
「やっ……嘘だ! お前、またからかってるんだろ!?」
なんとか鷹野を押しのけた。
鷹野は驚いた顔をする。
「そんな顔したってムダだからな! 俺は分かってるんだから! お前は演技うまいし……
そんな手には乗らないからな!!」
そう言って何とか非常階段を抜け出した。
「初めから出来レースだったんだ!! 主催者の息子を紛れ込ませて!」
鷹野が主催者の息子……?
唐突な展開に、俺は言葉を選べずにいた。
「で……出来レースって」
「だから俺たちは初めから、レッスン料だけ搾取されるために存在してるってこと!」
「レッスン料……」
そう言えばお金のことを忘れていた。そんなハナシなかったから。
「聞いてないだろ、レッスン料。わざとハナシに出さないで、免除させるように見せかけるんだよ」
「そーそ、キミは特別だからって、後から高額な請求が来る。よくある詐欺の手口さ」
うまく頭が回らないでいると、鷹野が読んでいた本をパタリと閉じる。
「レッスン料がかかるのは詐欺じゃない」
「!?」
「もちろん俺もある。ていうか実力も無い素人が、金も払わずに演技指導してもらえるワケないだろ。あと俺は主催者の息子じゃないし、出来レースっていうよりは……」
鷹野の言葉も聞かずに、その場に居た全員がいきり立った。
「ふざけんなよ! 騙す側の意見なんて聞くもんか!!」
一気に立ち上がり、俺と鷹野以外の生徒たちは居なくなった。
「……」
俺は黙っている鷹野を、ただただ見つめていた。
心なしか少し震えている。
「……鷹野?」
俺が声をかけると、鷹野は頭を抱えて息を吐いた。
「俺が悪いんだ……」
× × ×
今回の件を上と講師が相談している間、俺と鷹野は非常階段に二人並んでいた。
「俺がオーディション側のニンゲンだっていうのは本当だ。ていうか審査員とコネがある。審査員のプロデューサーに、俺を使ってくれるように頼み込んだ」
「審査員のプロデューサーってもしかして……」
「アクセライダーのプロデューサーだ」
「……」
鷹野が妙に場慣れしているように見えたのは、芸能界に繋がりがあったからだったのか。
「俺の父親は、初代アクセライダーをやっていて、プロデューサーとも顔見知りだった。けどハナシは結局立ち消えになって……」
「え?」
「オヤジが止めに入ったんだ。息子を甘やかさないでくれって」
「え、え、え、ちょっと待って!!」
「?」
「初代アクセライダーって、あの初代!? エンジンかける時にバイクごと一回転する、あの初代!?」
「そうだよ」
「い、イカした決めポーズの!?」
俺が興奮を押さえられずにいると、鷹野はフハッとわずかに笑って、後を続けた。
「とにかくな、俺の父親とプロデューサーの意見は対立していた。だから最初は諦めた」
「……」
「けどだからこそ、逆に親父に認めさせるいい機会だと思ったんだ」
「……」
「それから別の企画を立ち上げた主催者に、一切の手心を加えないと約束してもらった。俺がオヤジの息子だということを忘れると」
「じゃあ……皆が言ってた‴出来レース‴っていうのは……」
「立ち消えになったオーディションについての誤情報だよ」
「どうしてそんなに……」
「お前みたいな、アクセライダーを夢見てくれる子供たちが居るから」
そう言うと、鷹野は俺の頬を撫でて笑った。
「!!」
俺は子供じゃない……そう口にする前に、鷹野は俺の首筋に顔をうずめた。
「!!?」
「ん……」
全身が異様な熱を放っている。
「イイ匂い……」
「なっ、なに……」
「知ってる? 実は俺も昔ウサギ飼ってたの」
知らないよ、と言う暇もなく、鷹野は首筋に繰り返しキスをした。
「え……え!?」
「もうヤダよ……ヒトの悪意とか、大人とかの事情に……もう疲れた」
「ど、どうしたんだよ、鷹野」
「オーディションなんてもういいよ」
そう言うと鷹野は俺の股間に手を添える。
「鷹野!」
「感じて……?」
「っ!!」
俺が突き放すと、鷹野はそれこそウサギみたいに濡れた瞳をして、悲しそうに俺を見上げた。
「俺が裏で繋がってたのがイヤ?」
「そういうことじゃなくて!!」
鷹野は俺をその場に押し倒した。
「なあ知ってる? 俺、最初からお前のこと好きだったの」
「なっ……、急に何を……」
「だってお前可愛いだもん」
「可愛いとか言うなよ! 俺は女みたいだって言われるのが一番イヤで!」
服を脱がせようとする鷹野に必死に抗って、俺は手足をジタバタさせた。けれど動かない。
「女みたいだなんて言ってない。ピュアで可愛い。オーディションの時、俺のこと励ましてくれたのも嬉しかったし、めっちゃ緊張してた俺をカッコいいとか言ってくれて――」
「そ、そんなこと今さら!!」
鷹野が俺の唇に自分の唇を押し当てて、口を塞がれた俺が何も言えないようになると、もうカラダで抵抗するしかなかった。けれど思ったより力が入らない。
「ねえ、俺のこと好きって言って?」
「! な、何だよ」
「俺、周りからずーっと有名人の二世だって言われて腫れものに触るように扱われてきたの。
だからお前が積極的に接してくれて嬉しかった。ねえ好きって言って?」
服の中の胸をまさぐり、腰を近づけて求める鷹野の変化に、俺はまだ追いつけずにいた。
「す……好きっていうか」
「嫌い?」
「きっ嫌いじゃないけど!!」
「じゃあして?」
耳や首筋、胸元――全身に浴びせられるキスに、思わずくらくらしてしまう。けど俺ももう初めてじゃない。
「やっ……嘘だ! お前、またからかってるんだろ!?」
なんとか鷹野を押しのけた。
鷹野は驚いた顔をする。
「そんな顔したってムダだからな! 俺は分かってるんだから! お前は演技うまいし……
そんな手には乗らないからな!!」
そう言って何とか非常階段を抜け出した。
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