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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第45話

第六幕

 翌日の午前八時。
 生徒会室に集まった臨時生徒会役員たる俺たちは、ぐったりとうなだれていた。
 それもそのはず。二日連続で戦争の上、今度の相手は山中高校とは比べ物にならないほど巨大な、蒼龍館学院。
 勝てるわけがない。
「……勝てる策はあるのか?」
 訊ねてくる冠に、俺は力なく首を横に振る。
「……だろうな」
 今度ばかりは冠も理解しているらしく、強く言ってこなかった。
「…………」
「…………」
「蒼龍館高校、汚いやつだ」
 仲山、喜多村も黙ったまま何も言わない。唯一司馬だけはまだ元気だったが……やはりいつもよりうざくなかった。
「……一応、兵たちを待機させてはいるけど、どうするんだ? 戦うのか、降伏するのか」
「……わたしは、戦いたいです」
「……そうか」
 答える仲山。
 そんな仲山に、俺は嘆息しつつ、こう言った。
「……勝てる策はないけど、負けない策ならある」
 と。

◇ ◇ ◇ ◇

「狼狽えるなっ! 敵は少数! 落ち着いて行動しろ!」
「し、しかしぐわぁっ!?」
「敵の反撃がごべらっ!?」
「思ったより激しくてぐへぁっ!?」
「ちぃっ! 一旦校門に展開中の本隊のところまで引け! 部隊を立て直す! 再編成の後、再度攻めるぞ!」
 夏口さんの指揮の元、兵たちが校舎の外へと出て行く。
「ぐわっ!」
「きゃっ!?」
「ぎゃぁっ!?」
「くっ、ワックスの存在を忘れていた……全軍、足元に気をつけろ!」
 昇降口のいたるところから、敵の悲鳴が聞こえてきた。
「ここまでは順調だ」
 屋上に戻り、仲間たちに報告する。
「凄いです、孔明くん!」
「……お前、考えたな」
「校舎を要塞にしてからの籠城作戦。これなら兵数に大きく差があっても持ちこたえられるね」
「流石は我がライバル!」
 屋上から伝令の様子を聞き、俺たちは安堵の表情を浮かべる。
 そう、俺が立てた策とは、籠城作戦だった。
 戦争の勝敗条件は、屋上に自校の校旗をかかげること。つまり、屋上さえ死守すれば、負けることはない。
 そこで俺たちは、校舎内を要塞と化し、防衛することにした。
 全ての出入り口には鍵をかけたし、ルールで閉めては駄目らしい昇降口には、大量のワックスを撒いた。
 階段にもワックスと弓兵、さらにルール上使用しても問題ない(ヘルマンさんに確認済み)大量のバレー、バスケットボールとそれを投げる兵を二十名ほど配置してある。
「だけど、それも時間の問題だろ? 今日一日くらい耐えられても、今後ずっと戦争を続けるのは体力的にも辛いぜ?」
「ああ。これは時間稼ぎだ。戦争を終わらせるための」
「戦争を終わらせる?」
「ああ。孟徳さんを打ち取る。それで終いだ」
 幸いにも、斥候の報告では今回の戦争での敵総大将は孟徳さんで、校門前に布陣している兵の中にいるらしい。
「……また昨日みたいに突撃するのか? さすがに、今回の敵兵力はこちらの十倍だし、無理だと思うぜ?」
「……ああ。ま、一つだけ孟徳さんを引っ張り出す方法があるんだ。……あんまり使いたくないけど」
「使いたくない? なんでだ?」
 訊ねてくる冠に、俺は嘆息しつつ苦笑いをする。
「幼い頃の約束を使うと言うか……ま、色々とな」
「……ふぅん」
「このことに関しては気にしないでくれ。さて……喜多村、どうだ? 敵に動きは?」
「ん。敵先鋒が本体に合流したね。次はもっと数を増やすんじゃないかな?」
「そか。そのまま監視頼む」
 双眼鏡で校門を監視したまま答える喜多村に、俺はそう言う。なんだかんだ、戦争のたびに一番苦労しているのは喜多村なのかもしれない。
「了解した。任せてくれ」
「よし。じゃあ次。冠、コンディションは?」
「……まあ、絶好調時のおよそ九割ってとこか。ま、怪我もねえし筋肉痛もほとんど問題ない。大丈夫だ」
「そうか。そのまま作戦開始まで休んでてくれ」
「ああ。わーった」
「司馬は、仲山の護衛、頼むな」
「ふんっ、任されてやろう」
 仲山の護衛に人数を割けない分、この馬鹿には頑張ってもらわないとな。
「あの、孔明くん」
「ん? どうした? 仲山」
「その、わたしはまた待機でしょうか?」
「……ああ、屋上で待っててくれ」
「……その、みなさんが頑張っているときに、わたしだけ……。足手まといになってるみたいで、正直悲しいです」
「…………」
 まあ、仲山の言い分も、痛いほどわかる。
 でも、仲山は総大将。むやみに前線に出すと、昨日の土田光宙のように打ち取られそうになってしまうかもしれない。
「……なあ、仲山。三国志の劉備玄徳って知ってるか?」
「? はい、少しは」
「その人はさ、自分より能力の高い人であろう人間に好かれていたんだ。関羽とか張飛とか、諸葛亮とか」
「そうですね」
「多分、人間としての魅力にあふれていたんだと思う。もしくは、守ってあげたくなるのかな? わかんないけど、とにかく劉備に仕えた関羽や孔明は、最期まで忠節をつくしたはずだ」
「…………」
「仲山もさ、劉備みたいに人を使って大事を成す人間になればいいじゃないか。特に戦争は。そこにいる冠だって、仲山だから頑張ってるんだろ?」
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