ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第44話

『今だ! 冠隊退却中止! 転進! ぶつかるぞ!』
『萩原隊! 突っ込めぇっ!』
 仲間たちの声が聞こえてきた。伏兵部隊、主力部隊、敵兵全てが入り乱れた乱戦状態になる。
「敵総大将のピカチュウを討つことだけを考えろ!」
「誰がピカチュウだ!」
 声。聞こえる方に走っていく。邪魔をする敵兵は、いなすだけで倒しはしない。時間がないからだ。
 敵が、長く伸びきった陣を立て直す前に。
「織館高校所属、竹中孔明だ! 土田光宙! その首もらったぁー!」
 一人だけやけに豪華な鎧と武器を身に着けている男。喜多村から貰った写真を何度も見て覚えた顔。
 土田光宙。
 山中高校の、生徒会長。
「ええい! 俺の前にひれ伏せ!」
 煌びやかな装飾の施された槍を突いてくる。鋭く、勢いのある突き。
 だけど、遅い!
「ふっ」
 剣の腹で受け流し、そのまま勢いよく剣で斬撃を加える。
「ぐっ! ふんっ! 無駄だ! 我が金色の鎧は、そんじょそこらの鎧とは値段が違う! つまり、防御力が違うのだ!」
「っ!?」
「ふんっ!」
 力強く槍を薙ぐ。今度は上手く力を受け流すことができず、剣でガードしたとはいえ後退してしまう。なんつー力だ。
「ふんっ! 形勢逆転だな」
 見れば、俺を取り囲むように敵兵が展開していた。ここまで突っ込んでこられた味方は、どうやらいないらしい。
「覚悟しろ、竹中孔明」
 頭上で槍を車輪のように回転させる土田。風を切る音が聞こえてくる。あれを一気に振り下ろされたら、かなりの威力になりそうだ。
 振り下ろされる一撃に対し、神経を集中する。
「くらえぃ! 王者の一撃ぃっ!」
 回転を加えた槍の一撃。それは頭上から振り下ろされ――なかった。
「なっ!?」
 振り下ろしによる一撃ではなく、薙ぎ払いによる一撃。
 それが、土田の必殺技だったらしい。
 完全に、防御が遅れた。
「こんのタコ!」
 不意に声。瞬間、俺の身体が横にふっとばされる。
「っ!?」
 多少ダメージはあるけど、予想していたよりもずっとダメージはない。
 槍は、さっきまで俺がいた場所を切り裂くように薙いだ。
「速く立てクズ。劉華ちゃんのためにも、さっさと目の前にいるクズを殺らないといけねえんだからよ」
「……冠?」
 俺の横に立っていたのは、制服姿の冠だった。手には見慣れたナイフと小太刀を構えている。
 よく辺りを見回せば、今まで俺を囲んでいた敵兵たちと戦うように味方兵士が展開している。これで土田を倒すのに集中できそうだ。
「ぐぅ! き、貴様はっ!」
 最大の一撃が空を切ったため、多少の焦りが見える土田。だが、さすがに生徒会長と言うべきか、すぐに槍を構え臨戦態勢をとる。
「織館高校、冠美羽だ。覚えておけクズ」
「ぐっ! 一度ならず二度までも……殺す!」
 再び頭上で槍を回転させる土田。今度は避けられる自信はないぞ。
「(おい竹中孔明)」
 冠が、俺にだけ聞こえるような声を出す。
「(アタイが槍の一撃を受け止めるから、テメエはヤツの首を取れ)」
「(……わかった)」
「フハハ! なにコソコソと無駄な作戦会議しているんだ! とっとと死ねい!」
 薙ぎの一撃。二度目ということもあり、今度は反応はできた。けど、反応できたからと言って簡単に避けられるものではないだろう。
 だけど、今回は避けようとすらしなかった(、、、、、、、、、、、、、、、)。
「むっ!? 突っ込んできただとっ!?」
 土田が攻撃を放った瞬間、俺は土田めがけて一気に肉薄する。
「死ぬことが望みか。ならば望み通り死ねいっ! 王者の一撃ぃっ!」
「死ぬのはテメエだ雑魚……あぅっ!?」
 槍による一撃は、冠の身体をふっ飛ばすと勢いをなくし完全に失速してしまう。
「はぁっ!」
 技後硬直のため、土田は槍を防御に回せない。
 跳躍し、振り上げた剣を渾身の力を込めて振り下ろす。いくら鎧が固いとはいえ、今までのダメージとこの一撃のダメージを合わせれば、倒せるはずだ!
「らぁあっ!」
「く、くそったれ―――っ!」
 俺の一撃が、土田の身体に命中――

「それまで! 戦争終了をします! これ以上戦闘行動を続けた者には、学園都市からペナルティを与えます!」

 ――しなかった。
「な!?」
「なんだと!?」
 突如戦場に響き渡る声。どういうことだ?
「ちぃっ!」
 振り下ろした剣を無理やり軌道修正。結果として受け身もとれずに身体が地面に衝突してしまったけど、仕方がない。
「ぐっぅ……どういう、ことだ?」
 右腕を押さえながら、よろよろと俺のところまでやってくる冠。
「お前の一撃は、当たってなかっただろ?」
「あ、ああ。当たってない。現に、シールド発生装置はうんともすんとも言ってないわけだし」
「じゃあ、これは……」
「それは、おじさんが解説してあげよう」
 兵の間をかき分けてここまでやって来たのは、学園都市所属教師で、この戦争のジャッジでもあるヘルマンさんだった。
「君の攻撃は、そこにいる少年に当たってはいないよ」
「ならば、何故戦争が終了したのだ!?」
 今まで黙っていた土田光宙が、会話に割り込んできてヘルマンさんに問いかける。失礼なやつだなと思いながらも、俺も気になっていたことなのでそのまま続けさせる。
「……そうか。織館の生徒会長が討死したのだな?」
「いいや。織館高校の生徒会長は、校舎でピンピンしてるよ?」
「ならば、降伏したのか?」
「降伏もしていないよ。大体、負けたのは織館じゃなくて山中高校なんだからね」
「……なんだと?」
「ってことはおっさん、織館が勝ったのか?」
「いいや、織館が勝ったということでもないんだ」
 山中が負けたのに、織館が勝ったわけではないという。
 ……一つ、その状況に対する答えがあるけど……。
「……どういうことですか? ヘルマンさん」
「それはだね――」

「私の口から説明してやろう、孔明」

 凛とした、覇気のある声。
 幼い頃からずっと聞いてきたその声が何故今聞こえてくるのかと、俺は驚きを隠せないでいた。
「……孟徳さん」
「うむ、私だぞ」
 腕を組み、とびっきりの笑顔を浮かべるは、俺の幼馴染みこと早倉孟徳さん。
 その後ろには、いつぞやに出会った夏口弦姫さんと、もう一人、薙刀を持った少女の姿があった。
「しかし久しいな孔明。一週間ぶりか?」
「……孟徳さん、説明をお願いします」
「つれないなぁ。お姉さん悲しいぞ」
 悲しげな表情をする孟徳さん。だけど、今はそんな孟徳さんに構っている状況じゃない。
 何故戦争が突如終結したのか、その答えを聞くまでは。
「……仕方がない。説明しようじゃないか」
 孟徳さんは諦めたように嘆息し、コホンと咳払い。そして、纏う雰囲気を一変させ口を開く。

「山中高校の生徒諸君! お前たちは、先程我が蒼龍館学院が本陣を落としたことにより、我らが配下となった!」

「な……に……?」
 土田が驚愕の声を上げる。それから間もなくして、兵たちもざわめき出した。
「……どういうことだ、早倉孟徳! 貴様らは宣戦布告をしなかったじゃないか!」
「ああ、しなかったさ。だが、ルールにもあるだろう? 5万ポイントのペナルティを払えば、宣戦布告をせずとも構わないと」
 構わないとは書いてなかった気がするけど……。
「蒼龍館学院は、それを支払うからな。問題ない。大体、貴様だって本陣の守りに百ほど兵を残していたじゃないか。こういう事態を予測していたんだろ?」
「……くっ。だが、蒼龍館学院は第五学区の学校じゃないか! 何故この離れた十五学区に攻め入ったのだ!」
「別にルール違反じゃないはずだが?」
「……っ。くそっ!」
 言い返せず、土田は俯く。孟徳さんはそれを見て満足気に一度頷くと、後ろに控える夏口弦姫さんに何かを伝える。
「……の準……を……ておけ」
「……はっ!」
 頭を下げ、夏口さんはどこかへ駆け去った。
「よし! 山中高校の生徒は校舎に戻れ! そこで今後を説明する! ……山中高校生徒会長、土田光宙。兵をまとめて待機しておけ」
「…………」
 なにも言わず、無言で立ち去る土田。敗軍の将とは、ああいうものなのだろう。
「さて、孔明」
 先ほどまでの真剣な顔とは打って変わって、柔和な笑顔。
 その変わり様に、隣にいる冠も驚いているようだ。
「孔明。私はいいことを思いついたぞ」
「……いいこと?」
「うむ、いいことだ!」
 どこか鷹揚に頷く孟徳さん。
「……なんですか?」
 嫌な予感を感じつつも、俺は訊ねる。すると、孟徳さんは俺の予想通りの、最悪の言葉を言い放った。

「蒼龍館学院は、明日、織館高校に戦争をしかけるぞ」





目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。