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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第43話


「伝令! 我が主力部隊が敵軍とぶつかりました」
「おう。戦況は?」
「現状互角ですが、数で劣る我が軍が次第に押され始めています」
「ん。お疲れさん。学校に帰って休んでいいぞ」
「はい!」
 帰っていく伝令を見送りながら、俺は少し頭を働かせる。
 現在、俺率いる部隊は学校すぐそばにある市街地の中心部にいた。ここから街道まで、ほんの数分ってところだ。
「……ふーむ」
 今の伝令の話を聞く限り、冠は踏ん張っているらしい。だけど、そう長くは持たないだろう。なにせ、数が違うのだから。
「よし。萩原君、作戦通り半数を率いて埋伏してくれ。敵に攻めかかるのは、俺の隊からちょっと遅れてからで」
「了解」
 萩原君が、兵を連れて森の方へと移動していく。
 本来なら、もっと指揮官に適任な人間がいたかもしれないけど、それを見つける時間もなかった。だから、俺と交流が合って、人の指示をしっかりと聞いてくれるであろう萩原君を選んだのだけども。ま、失敗ではないだろう。
「よし、竹中隊も移動するぞ」
 言って、俺たちも森の中へと姿を隠す。
 ここまでは上手くことが運んでいる。後は冠次第だ。


「ちぃ……はぁっ!」
 一閃。
「ぐべらばっ!?」
「らぁっ!」
 小太刀をフェイントに、蹴りを打ち込む。
「ぐぼぁ!?」
「城ノ内くんっ! ちくしょーっ!」
 倒した敵の背後から、また敵。
「っ!?」
 肩に槍の一撃もらってしまう。けど、まだ戦える。
「……はっ!」
「うぎゃー! もう一人のボクーっ!?」
 敵の胸元にもぐり込み、ナイフと小太刀による二撃。敵のシールド発生装置から、機械音声が流れる。
「(そろそろ……か)」
 一旦後ろに引き、辺りを見回す。
 こちらはおよそ15人。敵兵もかなり数を減らしたとはいえ、まだ80近くは残っているはずだ。ただ、残っている80のうちの大多数はまだ体力の残る兵ばかり。こちらはもう限界だ。
 これ以上粘っても、意味がないだろう。
「っ! 冠隊、聞け! 全軍退却せよ! 本陣まで戻れ! 殿は気にするな! 駆けろ!」
『『『『『『『 …………はっ! 』』』』』』』
 兵は少し迷ったみたいだったが、指示通り全速力で退却していく。
「逃がすな! 殲滅せよ!」
 敵生徒会長の号令。それとほぼ同時に、敵兵士がアタイたちを追撃してくる。
「悪いが、こっから先へは行かせねえ!」
 反転。
「なっ!?」
 驚いて急停止した敵前衛に、一気に肉薄する。敵の武器は薙刀、接近すれば怖くない。
「ふっ!」
 右手で薙刀を掴み、それを思いっきり手前に引く、それと同時に蹴りを一発的の腹部に叩き込む。
「ごはぁっ!?」
 武器を離し、蹲る敵兵。どうやら、シールド発生装置を装備していても痛い攻撃はあるらしい。防具にも色々と種類があり、値段もそれぞれ違ったから、それによって能力が違ってくるのだろうか?
「ま、そういうのは後で考えればいいか」
 ナイフと小太刀をしまい、奪った薙刀を構える。
「死にたい奴はかかってこい!」
 啖呵を切りながら、ちらりと背後を確認。どうやら、大分時間は稼げたらしい。味方の兵士とはけっこうな距離があった。
「恐れるな! 敵は一人、囲んで討て!」
「口だけだな、ピカチュウは」
「な、なんだとぅ! ええい! 突っ込め! 殺せ!」
「殺されるか阿呆」
 簡単な挑発も終わったところで、アタイも退却する。
 ここから、アタイは指揮官として味方兵士の先頭まで駆けなければならない。
「はぁ……はぁ……」
 体力は、かなり厳しい。足が悲鳴を上げる。
 だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。
 劉華ちゃんのためにも。
「……っ!」
 そう。生きる目的を失い、ただ暴れていたアタイを救ってくれた劉華ちゃんのためにも。
 負けるわけには――
「……もう、二度と……」
 ――あの娘を悲しませるわけには、いかない。


「隊長、誰かがやってきます」
「本当か? あれは……織館高校の指定ジャージか?」
「はい。そのはずです」
「っし。全員、戦闘準備!」
『『『『『『『 はっ! 』』』』』』』
 俺も、自分の武器である剣を握りしめる。
 いよいよ、だ。茂みの中に、身体を伏せる。
 俺たちの目の前を、味方が駆け去っていく。
 冠の姿は……。
「っ!」
 いた。冠だ。
 ってことは、もうすぐ敵の姿も。
『ええい! 敵を逃がすなっ!』
 来た。山中高校指定の、緑色のジャージを着た大軍。
「…………」
 もう少し。もう少しだ。機を見ろ。敵軍がもっと伸びきった状態になるまで……っ。
「――今だっ! 全軍突撃!」
 いの一番に茂みから出て、敵軍の横っ腹に突っ込む。
「なっ!? て、敵!?」
「伏兵だぁーっ!?」
 戸惑い、足を止める山中高校の生徒。
「遅い!」
 勢いよく剣を振り下ろす。敵が武器を構える前に、俺の放った一撃が敵に命中する。
『シールド残量が0になりました。討死です』
 敵の身体からそんな音声が聞こえた。どうやら、これが討死を知らせる合図らしい。
「ええい! 伏兵だと!? 各個撃破しろ!」
 もう少し離れた場所から、指示を出す声が聞こえてくる。敵総大将、土田光宙の声だ。
「全員、あそこに突っ込め!」
 竹中隊の兵士に指示を飛ばしつつ、俺自身も突っ込んでいく。
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