ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第41話

「ハッハッハ! 元気のいい御嬢さんだ」
 なのにもかかわらず、相手は怯むことなく笑っていた。相手も並みじゃないらしい。
「(全員に、合図したら逃げられるよう伝えてくれ)」
 待機していた兵の先頭にいた人間にそう告げて、俺も冠のもとまで向かう。
「おおっと、こちらの少年も良い目をしている。ふむ、素晴らしい」
 冠と対峙していたのは、立派な髭をたくわえた、ダンディーな雰囲気漂う初老の男性だった。瞳の色が青だし、顔の造りも端正だ。日本人ではないみたいだ。
「失礼ですが、どういったご用件で?」
「ふむ……君たちは戦争を行うのは初めてかね?」
「ええ。生憎入学してまだ間もないので」
「入学して間もない? ……はっはっはっ! そうか、君たちは一年生か。いやはや、一年生で戦争の指揮を執ろうというのかね? いや、素晴らしい」
「っ! ……指揮能力に、年齢は関係ないと思いますけど」
「はは、そう考えたい年頃なのはわかるが、その考えは甘いな。詳しく教えてあげたいところだが、おじさんも仕事をしないといけないのでね」
「……仕事?」
「ああ、おじさん……いや、私は学園都市所属の教師だ。名はシリウス・フォン・ヘルマン。気軽にヘルちゃんとでも呼んでくれたまえ」
「……それで、その学園都市所属教師が、何の用だよ?」
 ナイフと小太刀を構える。
「ああ、戦争を行う場合、ジャッジとして私のような学園都市所属の教師が派遣されるんだよ。戦争を行う各高校に一人ずつね。今回、織館高校に来たのは私だったというわけだ」
「ジャッジ……?」
「ああ、納得してもらえたのなら、その武器を収めてほしい」
「冠、武器を」
「……わかった」
 冠はしぶしぶ納得した様子で、ナイフと小太刀を制服の中にしまう。
「納得してもらえたようで何よりだ。ああ、見せ忘れていたけど、これが私がジャッジであることを示す証明書だよ」
 言って、一枚のカードを見せてくる。なるほどたしかに、『学園都市所属教職員 シリウス・フォン・ヘルマン』と書いてあった。ジャッジの存在は説明書に書いてあったし、間違いないだろう。
「さて、本題に入るよ? コホン。えー、戦争開始まで後五分となりましたが、なにか問題はありましたでしょうか?」
「冠、なにか問題あったか?」
「……大丈夫だ、なんもねえ」
「そうか。一応、喜多村にも聞いておくかっと」
 携帯を取り出し、参謀本部にいる喜多村へ電話をかける。
『もしもし? どうかしたのかい?』
「もうすぐ戦争が始まるけど、そっちは問題ないか?」
『ああ。僕と司馬君含め、みんなやる気に満ち溢れているよ』
「そうか。仲山はまだそこにいるか?」
『うん。代わろうか?』
「頼む」
『了解した。ちょっと待ってて』
 通話口の先から、小さく喜多村の声と仲山の声が聞こえてくる。
『も、もしゅもしゅっ!?』
「あー、仲山だな、間違いなく」
『は、はい! 仲山です! こ、孔明くんでしゅかっ!?』
「ああ。もう戦争が始まるけど、なにか問題が起きてないか?」
『はい! 大丈夫です!』
「そうか。じゃ、また後で「貸せクズ! もしもし劉華ちゃん? 大丈夫か?」……」
 電話取られた……ぐすん。
「問題ないです。はい」
 仕方なく、電話している冠を放っておいてヘルマンさんと話を進めることに。
「そうか。兵士として参加登録している人間は、全員ここに?」
「はい」
「……ふむ、シールド発生装置は装備しているようだね。よし、問題はなさそうだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「ああ。……本当はこんなこと聞いちゃだめなんだけどね、勝てそうかい? 戦争」
「……頑張ります」
「そうか。頑張ってくれたまえ。ジャッジとしてのおじさんは中立だけど、おじさん個人としては、君を応援しよう」
「それはありがたいですけど……どうしてですか?」
「おじさん、この学園都市で何人もの人間を見てきたからね、目を見れば大体どんな人間かがわかってしまうんだよ。君と、そこにいる御嬢さん、二人は良い目をしている。つまり、おじさん気に入ってしまったんだよ」
「……そうですか」
「ああ。っと、戦争開始三分前だ。兵士は学校の外に出ないように中止してくれたまえ。……それから、ここからはおじさん、正しきジャッジマンだからね、攻撃力2200の」
 どうやら、私語は終わりということらしい。
「わかりました。それでは」
「ああ」
 ぺこりと頭を下げ、兵が待つ場所まで向かう。冠も電話を切り、俺の後に続いてきた。
「……勝つぞ、竹中孔明」
「……ああ。絶対に、な」

「戦争開始1分前!」

 ヘルマンさんの声。
 全身に、緊張が走る。
 大丈夫。勝てる。
 そう思うことで、なんとか緊張をなくそうとする。

「戦争開始10秒前! 10、9――」

「冠、作戦通りに頼む」
「ああ。任せておけ。お前もしくじるなよ?」
「ああ。大丈夫だ」

「――2、1……戦争、開始!」

 今、火蓋が切って落とされた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。