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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第39話

『『何故戦争に勝ちたいか』。先日は答えられませんでしたが、今日は答えます。……実はわたしにはこの学校を卒業した姉がいます。いえ、正確にはいました(、、、、)、ですが』

「……やっぱり、亡くなったのか」
「……ああ。去年の七夕に、な」
「……そっか」

『その姉が、わたしに言ったんです。『劉華には織館高校で学校生活を送ってほしい。きっとそれは、楽しいものになるから』と……。
 これがわたしが戦争に勝ちたい理由です。わたしは、今のこの織館高校で三年間過ごし、卒業したいから、負けたくないんです。
 ……だから、みなさんも協力しろ、とは言いません。いえ、言えません。これは私事ですから。
 だけど、わたしはこの学校に入学して、本当に良かったと思っています。クラスのみなさんは面白いし、先生もいい人ばかりだし。先輩方とはまだあまり交流がないのでわかりませんが、絶対にいい人たちだと思います。まだ入学して間もないですが、この学校での生活は、楽しいことばかりでした。
 だから、わたしはここにいるみなさんと離れ離れになるのが嫌です。この楽しい時間を過ごせなくなるのが嫌です。そう思うのは私だけでしょうか? みなさんは違うのでしょうか? 過ごした日々、本当にどうでもいいものだったでしょうか?』

『『『『『『『 ……………………………… 』』』』』』』

「みんな、真剣に悩んでる顔だな」
「だろうな。劉華ちゃんのことばは、何故か心に沁みこんでくるんだ。大して理屈が通っているわけでも、綺麗でもない普通の言葉なのに。何故か劉華ちゃんが言うと、心に響く。んで、変わってみようって思うんだよな。なんでかわかんねーけどさ」
「……そうなのか?」
「経験したアタイが言うんだ。間違いない」
「経験した?」
「……ま、おいおい語ってやるさ」

『……もし、この学校で過ごした日々がどうでもいいものだったと思う人は、わたしに協力してくれなくても構いません。ですが、この学校を大切に思う人、この学校が好きな人は、わたしに……いえ、臨時生徒会に力を貸して下さい。これは、わたし、仲山劉華個人のお願いではなく、この学校を愛する人を代表してのお願いです。
 力を……力を貸して下さいっ!』

『『『『『『『 ……………………………… 』』』』』』』

 演説が終わった。
 生徒たちからの反応は、ない。
 ……仕方がない。こんな時のためにと仕込んでおいたサクラを使うか?

『『『『『『『 …………お…… 』』』』』』』

「サクラに連絡を送るのは待て、竹中孔明」
「? あ、ああ」
 なんでサクラを仕込んだことを知っているんだよ。
「でも、なんで……」
「ばっか、テメエが劉華ちゃんを信じてやらねえでどうすんだよ。見てみろ」
「え?」

『『『『『『『 ……お、おおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおおおっッッ!! 』』』』』』』

 鬨が上がる。
 会場全体を包み込むような、大きな大きな鬨が。
「……これは」
「ま、劉華ちゃんなら当然って感じだけどな」
「ふぅん……仲山なら当然、ね」
『はわわっ!? み、みなさんっ!?』
 壇上で慌てている仲山に視線をやる。
 どうやら、仲山は幼いころの約束を律義に守っていたらしい。俺の知っている昔の仲山とは、やはりどこか違った。
 ……俺も、守らないとな。約束。
「ともかく、徴兵が役目のわたしと劉華ちゃん、情報収集が役目の喜多村実里は、ちゃんと役割を果たしたぞ」
「……次は俺の番、か」
「そうだ。お前が戦争で織館高校を勝たせる番だ」
「……ああ。絶対に勝ってみせる」
 そう頷いて、俺はもう一度仲山といまだに鬨を上げ続けるみんなの方を見る。
 その光景が、どこか美しいものに、俺は思えた。

◇ ◇ ◇ ◇

「会長! 全軍、配置につきました!」
「は、はい。こ、孔明くん」
「全軍そのまま戦争開始まで待機。便所に行きたい奴は今のうちに行ってくれ」
「とのことです」
「はっ!」
「会長! 斥候部隊、山中高校近辺にたどり着きました!」
「え、ええと……こ、孔明くん」
「二人一組でなるべく動き回って、得た情報は全て喜多村まで送ってくれ。どんな些細なことでもいい」
「それでお願いします」
「了解っ!」
「会長! 会計の冠さんが会長の護衛に配置を代えてくれと言っておりますが……」
「うぅ……こ、孔明くん……」
「却下。冠は一番重要な役割なんだ。頼む、と言っておいてくれ」
「それでお願いします」
「ラジャーッ!」
 水曜日。午前九時三十分。ついに戦争開始まで、後三十分となった。
 織館高校全生徒百九十六人のうち、今回兵士として戦争に参加するのは六十名。これは武器と防具の都合によるものだ。少ないけど、なんとかするしかない。
 それ以外に、斥候部隊として山中高校の周りを調べている人が四十名。残る生徒の内、三十名は敵の斥候部隊を追い払う役を、二十名は後方支援として参謀本部に待機している。それ以外の生徒は……まあ、全員が戦争に協力してくれるってわけでもないらしい。
「それじゃ、俺も戦闘に参加しないといけないから、もう行くな。仲山も、戦争が始まる三分前に屋上に移動してくれ」
「は、はい」
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