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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
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第38話

 問いかける。少しの沈黙の後、みんなが一斉に声を上げた。

『勝てるわけねえだろ! 敵の兵の方が数多いんだぞ!』
『そうだそうだ!』
『それに、こっちは武器だって揃ってないって聞いたぞ!』
『そうだそうだ!』
『それに生徒会長が頼りないもの!』
『そうだそうだ!』
『……あんた、そうだそうだしか言ってないわね』
『そうだそうだ!』

 なるほど。だから戦争に協力したくないと。
 予想通りの答えで、少し笑ってしまう。
『戦の勝敗は数の多少ではない。全員が一丸となって勇気を奮って戦えば必ず勝てる』
 俺が好きな戦国武将名言の一つ。それを少し大きめの声で言う。
『とある戦国武将の言葉です。いいですか? 歴史の中には、寡兵で大軍を破った例なんていくらでもあるんですよ。それに、いくつか策もあります。断言しましょう。この戦争には絶対に勝てます。もし負けたら、俺が責任をとります』
 もちろん、絶対に勝てる確証はない。俺自身、現時点で7:3で負けると思っているくらいだし。
 それでも、こういうハッタリは必要だった。勝てるのなら、協力しようと考える奴もいるだろうから。
 拙いハッタリでも、ないよりはましだろう。

『『『『『『『 …………………… 』』』』』』』

 さっきまでのざわつきが嘘のように、沈黙するみんな。
 仲山に演説させるタイミングとしては、ここが適切だろうか?
「……ん」
 仲山に代わるならここしかない。そう思って、喜多村に目で合図を送る。
 目が合った瞬間、喜多村は笑みを浮かべながらこくりと頷いた。そして、そのままマイクに顔を近づける。
『では続いて、臨時生徒会長による所信表明演説を行います。臨時生徒会長、仲山劉華さん、お願いします』
「は、はいっ!」
 喜多村の言葉に、ステージ裏から大きく返事をする仲山。いや、ステージ出てから返事しろよ。
「……ぅ」
 ステージ裏から出てきた仲山は、やはりどこか緊張していた。このままだと、前回の二の舞になってしまいそうだ。
 ……仕方がない。
「(……仲山)」
 ステージ裏へと退場するために、仲山とすれ違うように歩いていく。ちょうど仲山の近くを通るとき、小さな声で仲山に話しかけた。
「(自分を変えるチャンスだぞ、仲山、いや――劉華)」
「っ!? こ、孔明、くん……うんっ!」
「(じゃ、頑張れよ)」
「はいっ!」
 緊張がだいぶ取れたのか、はきはきと答える仲山。
 演台に向かう仲山を少しの間見送った後、俺はステージ裏へ。
「ご苦労だったな」
 シニカルな笑みを浮かべつつ、俺を出迎えてくれる冠。
「おう。どうだった? なんか変なとことかあったか?」
「気になったとこはねえよ。及第点だ」
 気になったところがないけど満点はくれないんですね。まあ、及第点でも十分うれしいんだけど。
「まあ、あくまで内容については、だけどな。あれで生徒が協力してくれるようになるかはわかんねーぞ」
「おう。ま、それは仲山次第、かな」
「そうか。……ところで――」
 制服の袖から滑り落ちるようにして現れた小太刀が、冠の手に握られる。
「……あのー冠さん? それ、どうするつもりでしょうか?」
「 突っ込む」
「どこにっ!?」
「穴という穴に」
 反射的にお尻を押さえる。やめてっ! 俺にそんな趣味はないからっ!
「大丈夫。案外気持ちいいかもしれないぞ?」
「絶対やだよっ! ってか、俺がなにしたって言うんだよっ!」
「……お前、さっき劉華ちゃんのこと名前で呼んだだろ」
「うぐっ!? き、聞こえていたのか……」
「どういうつもりだ? 劉華ちゃんが可愛いから、お近づきになりたいとでも思ったのか? あん? 言っておくが、アタイの目が黒いうちは、テメエみたいな糞男を劉華ちゃんに近づけはしねーからな」
 糞男って……。
「別に、ただ励ましただけだよ。名前で呼んだのは、昔、小学校の頃はそう呼んでたからだよ。癖になってたみたいで、勝手にそう呼んじゃっただけ」
「…………」
 冠さん。無言のプレッシャー、怖いです。
「……ちっ」
 納得してくれたのか、小太刀を袖の中へとしまう。
「……今回は見逃してやる」
「珍しい。どした? 悪い物でも食べたのか?」
「……今は劉華ちゃんの演説に聞き惚れたいからな。終わった後で殺す」
 それ、見逃すって言わなくないですか?
 まあ、仲山の演説を聞きたいっていう気持ちは俺も一緒なので、これ以上変なことを言わないようにする。
『みなさんこんにちは。臨時生徒会長の仲山劉華です』
 どうやら、丁度仲山が話し始めたところらしい。ナイスタイミングだ。
「……でも、劉華ちゃんは何を話すつもりなのかね」
「……冠も知らないのか」
「ああ。教えてくれなかったんだよ。『明日までナイショです』って。……その時の顔がまた可愛かったんだけどな」
「知らんがな」
 ちょっと見たかったけど。
『最初に、前回の全校集会でみなさんが訊ねてきたことに答えようと思います』
「訊ねてきたこと? 冠、なにかわかるか?」
「……いや、ちょっとわかんねえ」
 俺たちの疑問をよそに、仲山は言葉を紡ぎ続ける。

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